Appleの新本社、Apple Parkの内部に入り、詳細に取材した記事を、米メディアWIREDが掲載しています。巨大なドーナツ型の建物内部の構造、現在の形状に行きついたエピソードなどが記されています。

ジョブズ氏が目指した、世界最高のオフィス

Appleの共同創業者、故スティーブ・ジョブズ氏が「世界最高のオフィス」として構想したApple Parkは、4月から順次毎週500人のペースで従業員が移動し、トータルで12,000人が勤務します。
 
Appleに関して多くの著作を持つジャーナリストのスティーブン・レビー氏による、Appleの最高経営責任者(CEO)ティム・クック氏や最高デザイン責任者のジョナサン・アイブ氏らへのインタビューを含むApple Parkの構造などに関する長編記事が公開されました。

従業員どうしの交流からアイデアが生まれる

Apple Parkにつながる計画について、2004年頃からスティーブ・ジョブズ氏と話し始めた、とジョナサン・アイブ氏は振り返ります。アイブ氏とジョブズ氏は、ロンドンに一緒に出かけると、よくハイド・パークなどの公園で多くの時間を過ごし、その際に新社屋のことが話題になったそうです。
 
ジョブズ氏は、Appleの新社屋デザインを「建築界のノーベル賞」と称されるプリツカー賞を受賞した建築家、ノーマン・フォスター氏に依頼することを決め、2009年7月に電話で「手伝ってほしい」と依頼したそうです。
 
Apple新社屋の構造には、従業員たちがお互いオープンに交流することで新たなアイデアが生まれることを重視し、執務スペースとしての「繭(pods)」をはじめ、チームワークや、交流といった目的ごとの「繭」のようなユニットを並べていく、というアイデアが取り入れられました。
 

 
アイブ氏のデザインスタジオなど、機密情報を扱う部署を除いて、個々の「繭」は透明なガラスで仕切られ、AppleのトップであるCEOでさえ、豪華な個室を持つことは許されませんでした。

計画当初はクローバー型だった建物

建物の外観デザインは当初、三つ葉のクローバーのような、関係者が「プロペラ」と呼ぶような形状でした。しかし、2010年の春、ジョブズ氏が「内側は狭すぎ、外側は広すぎる」と問題を指摘したのをきっかけに、円形の建物が計画されることとなりました。
 
実は、形状が変更になった理由については、ウォルター・アイザックソン氏によるジョブズ氏の伝記に、こんなエピソードもあります。クローバー型の本社の図面を、ジョブズ氏が当時ティーンエイジャーだった息子に見せたところ、「男性器のようだ」と言い放ったため、ジョブズ氏は翌日、建築家たちに計画変更を命じた、というものです。
 
ただし、建築デザインを担当したフォスター氏らは、このエピソードについて言及していません。

「スティーブからの贈り物」

スティーブ・ジョブズ氏が亡くなる前の2年間、多くの時間が新社屋についての打ち合わせに費やされたそうです。Apple役員たちは、将来のApple従業員のために創業者が残したApple Parkを「スティーブからの贈り物」と形容しています。
 
ティム・クック氏は、ジョブズ氏が亡くなる前の金曜日、新社屋について話したのが、ジョブズ氏と交わした最後の会話になった、と振り返ります。
 
クック氏とジョブズ氏は、人種差別を乗り越えるフットボールチームを描いた、2人がともに大好きな映画「タイタンズを忘れない」を一緒に鑑賞し、ジョブズ氏が元気になってくれそうな話題として、新社屋の話をしました。
 
クック氏が「新本社について、最大の難しい問題を忘れていた。誰がメインビルディングに入り、誰が他の建物で働くかを決めることだ」と冗談を言うと、ジョブズ氏は大きな声をあげて笑ったそうです。

東京ディズニーランド1.5個分の敷地に9,000本の樹木

Appleは公式に発表していませんが、Apple Parkの総工費は50億ドル(約5,560億円)と噂されています。
 
スティーブン・レビー氏は、クックCEOへのインタビューの中で50億ドルという金額を出しても、訂正がなかったと語っており、噂されている金額は事実と大きく異なるものではなさそうです。
 
Apple Parkは、総工費だけでなく、175エーカー(約70万平方メートル、東京ディズニーランドの約1.5倍)という広大な敷地、12,000人以上を収容する規模といった数字が注目されますが、ジョナサン・アイブ氏はこの傾向を快く思っていないようです。
 
同氏は、「Apple Parkの価値は、建物の大きさを示す数字ではなく、多くの人々がつながり、コラボレーションが生まれ、ともに歩き、ともに語れるということだ」と語っています。
 
Apple Parkの建設が進む土地は、もとは工業団地でしたが、ジョブズ氏は人工の丘と、散策用の歩道を作ることを望んだそうです。
 
また、敷地内には9,000本の樹木を植える計画で、カリフォルニア州の植木をAppleが買っている、と言われるほどです。

カリフォルニアの太陽をさえぎる白いヒレ、キャノピー

メインビルディングと呼ばれるドーナツ型の建物には、白いヒレのような板状の構造物が各階から突き出しています。「キャノピー」と呼ばれるこの構造物は、建物をより「宇宙船」らしく見せるだけでなく、カリフォルニアの強い日差しがオフィスに入るのを防ぐ役割を持ちます。
 

 
このキャノピーは当初、スティーブ・ジョブズ氏の考えにはないものでした。巨大なガラスで建物を覆うというアイデアに魅せられたジョブズ氏は、1階から4階までを覆う巨大ガラスを建物の外壁として使う考えでしたが、世界最大のガラスを製造する設備を持つ、ドイツのSeele社の製造能力を上回ってしまいます。そこで、必要なガラスのサイズを小さくしつつ、日差しを遮る機能を担ったのがキャノピーでした。

1枚200トンのスライドドアを持つ、4,000人収容のカフェ

Apple Parkの中でも、最大のガラスが使われているのが、従業員以外でも利用可能で、一度に4,000人を収容できるカフェです。
 
4階建ての建物と同じ高さの2枚のスライドドアは、1枚が高さ85フィート(約25.9m)、幅54フィート(約16.5m)という巨大なガラス製です。
 

 
ドア1枚あたり165トンの金属製フレームと合わせて、1枚あたり44万ポンド(約199.5トン)という途方もない重さです。ドアを静かに動かすために、地下に機械を埋め込む方式が採用されています。
 
スティーブン・レビー氏が、「ばかげた質問かもしれないが、なぜ4階の高さのガラス製ドアが必要なのか」と質問すると、ジョナサン・アイブ氏は眉を上げて「必要、という言葉をどう定義するかによるんじゃないかな」と応じたそうです。

外気を取り入れて換気するシステム

スティーブ・ジョブズ氏は、エアコン、特に換気扇を毛嫌いすると同時に、オフィスの窓が開けられるのも嫌いました。同氏は、外気を自然に取り入れる換気システムの導入を主張しました。
 
Appleの環境への取り組みとしても紹介されたApple Parkの換気システムは、外の風向きをセンサーで感知して、換気します。室内は摂氏20度から25度に保たれ、空調を使うのはよほど寒い時か熱い時だけで十分だそうです。
 
この換気システムの背景には、「建物の中にいても外の気温や風の強さを感じ、外と中の境界をあいまいにすることが、感覚を呼び覚ます」というジョブズ氏の考えがあったそうです。
 
WIREDの記事(英文)には、ここに紹介しきれなかったエピソードに加え、数多くの写真も掲載されていますので、興味がある方はご覧ください。

 
 
Source:WIRED
Photo:YouTube

(hato)