現在、中国系企業の存在感はかつてなく高まっている。昨年(2016年)末、東芝は家電部門を中国家電大手、マイディア(美的)に売却、シャープは企業そのものを中国との関係も深い台湾EMS大手、ホンハイ(鴻海)に身売りした。他にもNECと富士通はパソコン部門を中国のレノボ(聯想)に売却、往年のサンヨーの家電部門はハイアール(海爾)のグループ内に組み込まれて久しい・・・と、いまや往年の日本を支えた大手メーカーの家電やパソコン部門は軒並み中国系企業の傘下にある。

 また、投資の分野も熱い。ソフトバンクCEO、孫正義と、鴻海CEOの郭台銘(テリー・ゴウ)や中国ネット販売大手、アリババの馬雲(ジャック・マー)の交際と資本提携関係は有名だ。ソフトバンクは今年5月、中国で爆発的な伸びを見せている配車サービス大手「滴滴出行」に5500億円規模の巨大出資を発表したことでも話題になった。

 こうしたパワフルな中国企業の経営者たちの、型破りな創業譚を集めたのが、今年4月25日に刊行された『現代中国経営者列伝』(高口康太著、星海社新書)だ。いっぽうで筆者(安田)も、昨年9月に“シャープを買った男”ホンハイCEOの評伝『野心 郭台銘伝』(プレジデント社)を刊行している。

 台湾の梟雄(きょうゆう)、郭台銘と、昇り龍のごとき中国企業のトップたち。仮に三国志の世界ならばいずれも大勢力として割拠してもおかしくない海千山千の猛者が揃う。そんな彼らの個性の共通点はなにか。『現代中国経営者列伝』著者であるジャーナリスト、翻訳家の高口氏と語り合うことにした。

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強風が吹く場所ならば、ブタですら空を飛べる

安田 まず、『現代中国経営者列伝』に登場する経営者をおさらいしておきましょう。日本人にも馴染み深いレノボやハイアールから、中国人なら誰でも知っているけれど日本では一部の人にしか知られていない不動産開発と映画事業大手、ワンダ(万達)、食品大手のワハハなど、現代中国の経済界を代表する起業の創業者たちです。濃い顔ぶれが並びますね。

◎『現代中国経営者列伝』に登場する8人
・レノボ(PC)の柳傳志
・ハイアール(家電)の張瑞敏
・ワハハ(飲料)の宗慶後
・ファーウェイ(通信機器)の任正非
・ワンダ(不動産、小売、映画、スポーツ)の王健林
・アリババ(EC)のジャック・マー
・ヨーク(動画配信)の古永鏘
・シャオミ(スマートフォン)の雷軍

高口 はい。改革開放以来の中国経済を歴史として描くことを柱に、8人の企業家を起業年代順に取り上げました。なるべく同時代や同業種の重複をなくし、中国経済の変化を描きたかったので、例えば日本でも格安スマホなどで知られるZTE(中興通訊)の侯為貴、検索サイト大手、バイドゥ(百度)の李彦宏(ロビン・リー)などはあえて外しています。

安田 中国工場で100万人の従業員を雇用する郭台銘のホンハイを含め、こうした中華系大企業の歴史は、経済成長や産業構造の変化、安価な労働力の供給から人件費高騰、といったここ30年間の中国の経済史と見事にオーバーラップしていると思います。本書に登場する経営者たちに共通する成功・成長の要因は何だったと思いますか?

高口 「強風が吹く場所ならば、ブタですら空を飛べる」。これは新興スマートフォンメーカー「小米」を立ち上げた天才プログラマー、雷軍の言葉です。時代の風をつかんだなら愚か者でも成長できるという意味なんですが、言い得て妙でしょう。まさしく時代の風をつかめたかが、いずれの人物にも共通する最大のポイントだったと思います。

安田 毛沢東時代まで竹のカーテンに閉ざされていた中国経済の市場開放というのは、この半世紀の世界でも最も大きな「時代の風」ですからね。そこで飛び上がった「ブタ」たちの物語・・・。

高口 そうです。彼らはいずれもその時代時代の「旬」であるジャンルで成長をつかみました。改革開放後、中国経済のホットスポットは工業から金融、不動産、小売、IT、モバイルとめまぐるしく変わっていきます。新たな時代ごとに王者が生まれているのです。時代を見抜く目と競争を勝ち抜く力、そして幸運はすべての成功者が持つ資質でしょう。

 例えば、ワハハを創業した宗慶後はもともと小学校の購買部のおじさん、ハイアールの張瑞敏は潰れかけの市営町工場に出向した公務員、ファーウェイ(華為技術)の任正非は人民解放軍の人員削減方針で民間に転属されたリストラ軍人(ただし任は自主退職)です。しかし、一人っ子政策下での子ども飲料の需要、1980年代の安価な冷蔵庫の需要、電話のデジタル交換機の独自開発といった各時代の「旬」をつかんだことで、最初の成功を手にしています。

安田 台湾のホンハイにしても、創業当初は台北にある倒産寸前のポンコツ部品工場でした。しかし、彼らもまた改革開放政策の直後に、言葉が通じて労働力が極めて安価な中国に工場を展開。やがてパソコンや携帯電話・スマホなど各時代のIT製品の流行に食らいつき、中国の労働力をフルに用いた安価な大量受託生産を可能にしたことで成功しました。

 とはいえ、企業も組織体ですから「時代の風」をつかむだけでは成長できないでしょう。加えて他の共通点も教えてください。

「奇人」でなくては成功できない?

高口 経営者の強烈な個性と独裁力は、ことに中国の経済界では不可欠な資質でしょう。13億人がひしめく中国には時代の成功者を狙う野心家がごまんといます。無数のライバルに打ち勝つにはスピードと決断力が必要で、そのためには一般では「奇人」と思われるような強い個性の持ち主じゃないと生き残っていけない。もちろん賭けに敗れて消えていった企業家は成功者の数百倍、数千倍いるわけですが。

安田 中国の場合、「経営者列伝」はそのまま「奇人変人列伝」です。郭台銘も相当な奇人で、ただの友人としてならともかく仕事は絶対に一緒にやりたくないと思える。彼の会社は「皇帝」とあだ名される郭台銘の独裁体制と徹底した従業員管理によって、ブレずに走り続けることに成功しています。トップダウン型の会社は、経営者の個性が社風にそのまま反映されますから。

高口 日本もかつては強烈な個性の経営者がごろごろしていました。やはり創業者は強烈な個性じゃないと成功できないのではないでしょうか。中国で民間企業の歴史が始まったのは1980年代。まだバリバリ現役の創業者がごろごろいますからね。企業の若さも個性的な経営者が多い理由です。

 加えて中国は政府も企業もトップダウンのお国柄で、働く側もそのほうがやりやすいという風土があります。例えば自治体のトップの官僚は「一把手」(すべてを一手に担う者)と呼ばれ、地域内では独立王国のような権力を持つ。こうしたトップダウンが当たり前とみなされている文化だけに、社風もトップの性格が末端にまで反映されることになります。

 例えば「管理の達人」張瑞敏が立ち上げたハイアールは信賞必罰を徹底するモーレツ社員の会社として知られます。任正非のファーウェイは中国では異色の技術オリエンテッド企業として研究開発に圧倒的な力を注ぐ。いっぽう、柳傳志のレノボはIBMのパソコン製造部門を大型買収によって獲得し、国際シェアを得たわけですが、それゆえに社風が曖昧になった印象もあります。

グレーゾーンでも突き進むボンバーマン経営者たち

安田 私は『野心』のなかで「事後合理性の重視」という華人系企業の特徴についても言及しました(王効平「華人系企業の経営構造に対する一考察 : EMSフォックスコンの事例研究を通して」『東アジアへの視点』26-1、2015年)。華人系企業の意思決定の特徴は、家父長的なワンマンリーダーが長年の経験や「勘」をもとに見切り発車で事業判断をおこない、最終的に儲かれば結果オーライという点です。

 これは日本の大企業が「事前合理性の重視」タイプなのとは好対照をなしています。日本の場合、意思決定の前にさまざまな偉い人が何度も会議をやってコンプライアンス面での妥当性や事業の安定性に納得してからしか事業が始まらないいっぽう、それが結果的に儲からなくても責任の所在があいまいにされがちなところがあります。

高口 『現代中国経営者列伝』の8人は、いずれも「事後合理性の重視」タイプですね。「事後合理性」というとかっこいいですが、ともかく儲かりそうだと感じたらいっちょかみしているってことですよね。ダメだった時の見切りの速さも圧倒的です。スピードが勝負の世界だけに見切り発車は全員に共通しているように思います。「走りながら考える」中国と「考えてから走る」日本とは好対照です。

 ほか、コンプライアンスについての考え方も日本と中国では異なります。中国の場合、明確に違法(ブラック)なことはNGですが、違法か否か明確ではない(グレー)ものは、とりあえず見切り発車でやってみる風潮がある。いっぽう、日本の場合は明確に合法(ホワイト)なビジネスにのみGOが出て、グレーな心配があるものについてはNGとみなす風潮が強いようです。

安田 民泊紹介サービスのAirbnb、配車紹介サービスのUberなど、「グレーでも見切り発車」は中国のみならず世界的に見られる姿勢ですが、中国の場合はグレーだと解釈する範囲がより広いですよね。

 しかし、事前の厳密な検討を経ずに突撃していく経営はリスキーです。中国では法的なNGゾーンに限りなく近い行動を「エッジボール(擦辺球)」と呼びますが、ヨークの古永鏘をはじめ、企業の拡大期にそこへ容赦なく突っ込んでいった“ボンバーマン”も数多い。こうした決定のいちばんの成功例を教えてください。

高口 エッジボールを投げたという意味では、アリババの「余額宝」というサービスがきわめて興味深いですね。アリババには「支付宝(アリペイ)」という電子マネー決済システムがあるのですが、「余額宝」はユーザーが使わない支付宝のポイントをそのままアリババ側に“預金”できるサービスなんです。ちゃんと利子がつくのですが、その利回りは市井の銀行よりも高い。そこで利用者が殺到しました。

安田 完全に銀行の商売を食っていますね。低金利のわが日本にも欲しいものですが、アリババCEOの馬雲と仲良しの孫正義さんあたりが始めてくれないかなあ(笑)。つまり、ヤフオクで使っていない額のヤフー・ウォレットのお金を、ソフトバンクが銀行よりも高利で預かってくれるようなイメージですよね。

高口 まさにそうですが、加えて中国には日本以上にそのサービスが歓迎される背景がありました。中国では銀行が手厚く保護されていて、預金金利がきわめて低く設定されているのに、社会の資金需要は旺盛。なので、銀行業はノーリスクで莫大な利益をあげられる構造となっています。その一方、中国の銀行は政府の言いなりに資金を融通しなくてはならないという義務も課されているのです、国家全体で見れば安定的な経済秩序が作られているとは言えるでしょう。

 しかし、これは銀行の利用者である国民としてはいい面の皮です。中国の物価上昇率は普通預金の利率よりも高く、しかも様々な名目で銀行が手数料を徴収するため、「銀行にお金を預けているだけで資産の価値が実質的に目減りする」という、非常に悲しい状況なのです。

「余額宝」はアリババが電子マネー「支付宝」で集めたお金を銀行に貸し出して利益を上げ、それを“利子”としてユーザーに分配するサービスです。国家の政策によって銀行から搾取されている国民のカネを、アリババが取り返して返してくれるわけですから、まるで鼠小僧的義賊のようなITサービスです。実際、中国のメディアでは国民の血を吸う吸血鬼=銀行を倒す吸血鬼ハンターだなどという論評もありました。

安田 ちょっと考えただけでも銀行業界や政府の金融族の反発がハンパなさそうですが、明確に禁止される前にスピード決定で突っ込んで大きなサービスに成長させてしまえば、既得権益を持つ側もそうおいそれとは潰せなくなるはずですもんね。

 ほんと、日本でもこのくらい豪快なことをどこかヤンチャな会社がやってくれないかなあ。現時点だと、佇まいに日本企業らしからぬアグレッシブさ(危なっかしさともいう)がプンプン漂うメルカリあたりに頑張ってもらうしかないか(笑)。

(後編に続く)

筆者:安田 峰俊