フランス・パリの凱旋門。仏大統領選でマクロン氏が勝利したのは世界景気が上向いているから?


 IT企業各社の業績が上向いている。ITは典型的なグローバル産業であり、各社の業績は世界景気との連動性が高い。フランスの大統領選挙において親EU(欧州連合)を掲げるマクロン氏が当選したのも、世界景気の持ち直しと関係している。米トランプ政権の政策次第という不確実性があることは否定できないが、しばらくの間、世界経済は堅調に推移する可能性が高まっている。

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IT企業各社が軒並み好決算

 米アップルの2017年1〜3月期における業績は、久しぶりに良好な数字となった。売上高は前年同期比4.6%増の528億9600万ドル(約5兆8700億円)、純利益は前年同期比4.8%増の110億2900万ドル(約1兆2200億円)と5四半期ぶりの増益決算である。

 同社の業績は、2016年に主力である「iPhone」の販売台数が落ち込んだことから減収が続いていた。それ以前は、拡大余地が大きい中国市場を念頭に、廉価版を大量投入してシェアを拡大する戦略を描いていたが、中国経済の失速によってこのシナリオは崩壊。世界景気も足踏みしたことから販売数量が伸び悩んだ。

 中国向けの販売は今期もマイナスだったが、北米向けが11%増、欧州向けが10%増、日本向けが5%増と以前の成長ペースを取り戻しつつある。

 もっとも、今回の業績回復は大画面モデルである「iPhone7 Plus」に依存する部分が大きい。価格が高いモデルの売れ行きが好調なことから単価が上昇したことで金額が伸びた。数量ベースでは依然として前年割れとなっているが、最悪期は脱した可能性が高い。

 同じような傾向は半導体最大手のインテルやソフトウエア大手マイクロソフトの決算からも見て取れる。

 インテルの2017年1〜3月期における売上高は前年同期比8.0%増の147億9600万ドル(1兆6400億円)、純利益は29億6400万ドルと増収増益だった。売上高は市場予想に届かなかったが、減益決算だった前四半期と比較すると状況は大きく変わった。マイクロソフトも同様で、売上高は220億9000万ドル(2兆4500億円)、当期利益は48億100万ドルと2四半期連続で増収増益となった。

 このほかグーグルやアマゾンなどネット企業各社の決算も好調だった。IT関連企業で業績が伸び悩んでいるのは、20四半期連続で減収となり、著名投資家であるウォーレン・バフェット氏も見切りをつけてしまったIBMくらいである。

世界景気と連動しやすい米キャタピラーも増収決算

 一般にIT企業各社の業績は世界経済との連動性が高いといわれる。全世界的に景気が上向けば、半導体の需要が伸び、企業のIT投資も活発になる。ITの分野は米国企業の独壇場となっているが、各社はグローバルなオペレーションを行っており、米国経済よりも世界経済から大きな影響を受ける。「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ政権の誕生によってIT企業の業績に懸念が生じていたのもこうした理由からだ。

今年に入ってIT企業各社の業績が拡大してきたということは、世界景気が上向き始めたサインかもしれない。実際、各種の景気指標はそうした傾向を示している。

 OECD(経済協力開発機構)が毎月発表している世界の景気動向指数によると、主要各国を総合した景気指数は、2015年4月頃から急低下し、2016年6月頃にボトムを付けた。その後、指数は上昇に転じており、今年に入ってからは低下前と同水準まで回復している。あくまで景気循環的なレベルの話ではあるが、世界経済は拡大傾向を強めていると見てよさそうだ。

 この動きは建機最大手の米キャタピラーの業績にも表れている。キャタピラーもIT企業と同様、世界景気との連動性が高いことで知られる。同社は新興国市場の低迷で減収が続いていたが、2017年1〜3月期の決算でようやく増収に転じた。中国の建設需要が回復していることから、アジア・太平洋地域の売上高も前年同期比で11%増となり、全体の業績を後押ししている。原油価格が回復していることもあり、資源用機器も回復基調が鮮明だ。

 中国政府は景気の過度な失速を防ぐため、再び公共事業に力を入れている。中国市場については政策次第という部分があるものの、中国の建設需要が拡大すれば、世界景気の底上げが期待できるだろう。

マクロン氏が大統領になれたのは景気拡大のおかげ?

 こうした兆候は政治の世界にも影響を与えている。5月7日に行われたフランス大統領選の決選投票では、中道系独立候補のエマニュエル・マクロン氏が、極右候補であるマリーヌ・ルペン氏を破って勝利を収めた。

 フランスの大統領選は、1回目の投票と決戦投票の2段階で実施されるが、1回目の投票ではマクロン氏が24%、ルペン氏が21%、中道右派のフィヨン氏が20%、左派のメランション氏が20%という結果だった。極右であるルペン氏がここまで票を伸ばしたことは驚きではあったが、右派票と左派票の大半はマクロン氏に流れることから、市場ではマクロン氏勝利が予想されていた。

 だがマクロン氏はいわゆる正統派の候補者というわけではない。同氏は投資銀行出身で、国会議員の経験はなく、自身が立ち上げた政党からの出馬という事実上の無所属候補である。無党派らしくイデオロギー色を薄めた選挙戦を展開してきたが、市場メカニズムとEUの枠組みを重視するという姿勢は一環していた。

 極右政党がこれだけ支持を伸ばしている中、マクロン氏のような市場重視の無党派候補が勝利を飾ったのは、世界経済の動向が大きく影響した可能性がある。もし昨年のボトムから景気が脱却できていなければ、マクロン氏がこれだけの得票率を得たのかどうかは分からない。

 マクロン氏が、市場メカニズムとEU重視を前面に出した政権運営を行った場合、同じく分断に悩むドイツの内政にも変化の兆しが出てくる可能性がある。そうなれば、EUを取り巻く環境も大きく変わるだろう。

トランプ大統領は起爆剤だが、リスクにもなる

 世界経済が回復局面に入ったとはいえ、今後の成長を後押しするのも、成長に水を差すのもトランプ大統領であるという図式は変わっていない。トランプ経済については、相変わらずプラスとマイナスの面が交錯している。

 プラス面として大きいのは、これまで中身が明らかにされていなかった税制改革案がとうとう姿を現したことである。トランプ政権が4月26日に公表した税制改革案の概要によると、35%の連邦法人税を15%まで減税するとともに、所得税については最高税率の引き下げと基礎控除の拡大を実施するという。トランプ氏は減税規模の総額を明らかにしなかったが、筆者が大雑把に試算したところでは、米国のGDP(国内総生産)を1%ほど押し上げ、株価を2割ほど上昇させる効果をもたらしそうだ。

 これから議会との調整が必要となるため、プラン通りに法案が成立するのかは分からないが、少なくともトランプ氏が選挙期間中から掲げてきた内容の多くが改革案に盛り込まれた。当初は減税プランの実施そのものが危ぶまれていことを考えると大きな安心材料といってよいだろう。何らかの形で減税が実施されれば、世界経済には確実にプラスの材料となる。

 通商政策も同様である。4月に行われた米中首脳会談を受けて両国は5月11日、中国の米国産牛肉の輸入解禁などを盛り込んだ、いわゆる「100日計画」の概要を発表した。通商問題をめぐって両国が衝突するという最悪の事態は避けられそうだ。

 一方、トランプ政権が抱える政治的リスクは増大している。トランプ氏に対しては、辞任したFBI(連邦捜査局)のコミー長官に、自身の側近に対する捜査を終了するよう圧力をかけた疑いが急浮上している。このスキャンダルが大きく取り上げられることになれば、減税やインフラ投資の遅延は免れない。

 トランプ氏のスキャンダルがこれ以上拡大せず、早期に減税法案が可決すれば、という条件付きだが、世界経済は当分の間、好調に推移することになるだろう。株価については、もう一段の上昇があり得るので、一部では持たざるリスクが意識されることになるかもしれない。

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筆者:加谷 珪一