2017年5月10日(水)に開催された「Japan IT Week 春」の基調講演「完全自動運転 実現のために必要な組込み技術とは?」では、株式会社ディー・エヌ・エー執行役員オートモーティブ事業部長中島宏氏が「オートモーティブ業界×インターネットの可能性に関して」と題し、同社が取り組むオートモーティブ事業について解説した。

中島氏は経営コンサルティング会社での経験を経て、2004年12月DeNAへ入社。2011年9月には執行役員兼ヒューマンリソース本部本部長となり、新卒や中途採用、人事制度の改定を行った。その間に500名くらいだった同社の社員は全世界でおよそ1,500名になり、会社としても急成長を遂げた。そして2015年5月より現職につき、自動車領域のオートモーティブ事業に携わっている。

株式会社ディー・エヌ・エー執行役員オートモーティブ事業部長中島宏氏


[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

新機軸の自動車ビジネスが、かつてのDeNAを取り戻す

DeNAといえば、同社が運営する医療情報サイト「WELQ(ウェルク)」において、医学的に信憑性が疑わしい記事を専門家の監修なしで掲載。さらに、その他のキュレーションサイトでも多数の無断転用があったため非公開となり、大きな問題となった。そうした悪いイメージを払拭し、かつての優等生企業DeNAを取り戻すのに一役買いそうなのが自動車関連のビジネス(同社が言うところのオートモーティブ事業)だ。

それでは、同社の基調講演から、このオートモーティブ事業でIoTが関係するであろう部分を抜き出して紹介しよう。

 

現時点では、オートモーティブ事業は、次の5つを展開している。

Robot Taxi
Robot Taxiは、ロボットタクシー構想を実現することを目指した事業だ。ロボットタクシー株式会社がZMPとの合弁会社として設立され、現在、実証実験が行われている。

Anyca
Anycaは、個人間でクルマをシェアする新しいかたちのカーシェアサービスだ。都内でシェアすると、だいたい2~3万円/月の手取りになるため、駐車場代の足しにもなる。

akippa
akippaは、1日単位で月極駐車場を貸せる、あるいは使えるシェア駐車場だ。空いている敷地を有効活用できるというメリットがある。

ロボットシャトル
ロボットシャトルは、自動運転技術のシャトルバスだ。公道で事業を行うロボットタクシーとは異なり、私道や私有地での事業化を目指している。

ロボネコヤマト
ロボネコヤマトは、自動運転を活用した次世代の運輸事業だ。現在、ヤマト運輸との共同実用実験を行っている。

世界的に有名なAirbnbは不動産のシェアリングであるのに対し、Anycaはクルマ版、akippaは土地版と考えれば理解しやすいだろう。両方とも力強く伸びていて、同社が期待している事業だ。

今回の基調講演では、ロボットシャトルとロボネコヤマトにフォーカスして詳細な話があった。

ドライバー不足を解消する「ロボットシャトル」

ロボットシャトルは自動運転のシャトルバスだ。フランスのEASY MILE社と提携し、大学や工場、空港などでの展開を想定している。

流通大手であるイオンとの試験運行では、千葉市にあるショッピングセンターに隣接する公園の中で、最大で12人乗りのシャトルバスを走らせている。片道およそ250mのコースであり、公道でないため無人であっても走行が可能だ。

安全性が気になるところだが、15km/h以下という低速での走行が想定されているため、無人であってもセンサーやソフトウェアだけで、十分に安全性を担保できるという。

現段階ではオペレーターを置く必要があり、それほど人件費を削減できていないが、将来的にはドライバーやオペレーターを無くす計画となっている。

「こういう低速の車が公道で走る時代がきっと来ると思って、我々も準備を進めている段階です」と中島氏。

現在、バス業界は過重労働や待遇面を原因とするドライバー不足が問題となっている。高速バスの事故も、ドライバーの無理が影響して事故率が高くなっているように見える。

ロボットシャトルは「バスを走らせたいが、人件費がペイできないので、走らせられない」という問題のひとつの解決手段となる。同社では、2019年くらいに無人シャトルバスが実現するとみている。

 

無人の宅配便「ロボネコヤマト」

ロボネコヤマトは、自動運転技術を活用した次世代の運輸事業。流通大手のヤマト運輸と提携し、現在、神奈川県藤沢市の一部エリアで、実証実験を行っている。コンセプトは「非対面サービス」だ。

ヤマト運輸といえば、セールスドライバーが重い荷物を直接玄関先まで届けて判子をもらい、帽子を脱いで、「ありがとうございました」と帰って行くような、サービスのクオリティの高さが、顧客に支持されてきた。「サービスのホスタビリティは下げても、顧客から指示されるビジネスモデルをつくる」という考えが、ロボネコヤマトには活かされている。

神奈川県藤沢市では、すでに3台のロボネコヤマトの試験サービスを開始している。スマートフォンアプリで配送場所と配送時間を指定すると、ロボネコヤマトが荷物を運んで来てくれる。顧客は保管ボックス解除用二次元コード(QRコード)をスマートフォンに表示させて、荷物をロッカーから受け取ればよい。まさにIoT時代だからこそのサービスと言っていいだろう。

配送時間は10分単位で指定することができ、到着の3分前にスマートフォンに連絡が届くため、現状の宅配便にはない利便性がある。また今までは自宅やコンビニ、宅配ロッカーなど、決められた場所で荷物を受け取っているが、ロボネコヤマトならどこでも手軽に受け取れる。

たとえば、喫茶店でお茶をしているときに自分宛ての荷物の通知が来たら、そこまで荷物を持ってきてもらうことが可能となる。

昨今、ネットニュースや新聞で取り上げられている宅配便のセールスドライバーの人手不足問題は、発送の遅延を招き、顧客の不満が増加した。ロボネコヤマトであれば、そうした問題を一気に解決できるわけだ。

現在のロボネコヤマトは有人だが、非対面でサービスを行っているとのこと。

「自動運転時代が訪れた時、非対面サービスが成立していれば、そのままドライバーレスのクルマを導入するだけで、ユーザーに何のストレスも与えることなく、サービスを継続できます。」と中島氏。

自動車関連市場参入に勝算はあるのか?

なぜ、DeNAは自動車領域に参入したのか? ひとつは、単純に市場規模が非常に大きいからだ。自動車をいうと、製造ばかり目にとらわれがちだが以下を見てもらいたい。

・自動車販売(新品、中古)
・自動車整備
・自動車保険
・自動車賃貸(リース、レンタカー)
・カー用品
・補修部品、リサイクル部品
・カーナビ市場
・自動車向けガソリン市場

と、業界全体は広範囲で全部では50兆円以上の市場があるのだそうだ。実際、Google、Alibaba、TESLA、UBER、Wazeなど、多くの企業が参入してきており、大きな変化を及ぼす可能性が高い。

「大きな産業市場が激変の時期を迎えていて、かつ、それがハードウェアからソフトウェアへの付加価値の移行を伴っていることを考えると、インターネット企業のDeNAにも何かご協力できることがあるのではないかという視点で、参入を決めました。」と、中島氏。

携帯電話は今から20年ほど前に登場し、スマートフォンへと進化した。現在はひとり1台、スマートフォンを持っているのが当たり前の時代で、アプリを動かしたり、音楽や動画の配信を楽しんだりと、いろいろなサービスが利用できる。この状況を20年前に言い当てた人はいないが、昔から大きな投資をしてきた企業がリーディングカンパニーとして今も生き残っている。

「自動車が同じような変化を起こすのであれば、今、大きく投資をしておくべきであろうということで、先は読めませんが、まずは参入してみましょうと。走りながら戦略を考えているような理解です。」と中島氏。

また日本をはじめとしたアジア諸国は、交通サービスの規模が大きく、世界への影響力も大きい。タクシー台数の比較では、全世界のトップ10ヶ国のうち、5ヶ国がアジアに集中している。タクシーの台数でいえば、日本は世界で5番目の国だ。アジアにおける交通サービスの規模、影響力というのは、非常に大きい。その日本で、どういう変化が起きるのかは、世界が注目しているところでもあるのだ。

ITが自動車産業を救う?

日本では、第一次モータリゼーションが1960年代の東京オリンピックをきっかけに起こり、自動車産業の発展によって、世の中が便利で豊かになった。2020年の東京オリンピックで第二次モータリゼーションが起こるとすると、日本の自動車業界が主導して新しいユーザー体験を世の中に提供できる可能性がある。

そこには当然、米国シリコンバレーのIT企業を筆頭に、世界各国がグローバリー標準モデルを狙ってくる。日本は産業の垣根を超えて日本主導で第二次モータリゼーションを起こし、その後の日本経済を支える必要に迫られる。

それには、スマートフォンだけでレンタカーの予約、決済といったことが簡単に行えるようになっているだろう。そうした近い将来が来た時にDeNAはどういった企業に進化しているのか、この目でチェックしてみたい。

筆者:Tetsuji Sekiguchi Ph.D.