競走馬のふるさと案内所(新ひだか町)

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 中央競馬は春のG1レースが5週連続で開催され、週末の競馬場は大賑わいだ。4月末に行われた第155回天皇賞では、キタサンブラックが史上4頭目となる春の天皇賞連覇を果たし、昨年暮れの有馬記念で敗れたサトノダイヤモンドを一蹴した。NHKマイルカップでは牝馬がワンツーフィニッシュを決めるなど、話題に事欠かない。

 2016年の日本中央競馬会(JRA)の勝馬投票券収入は2兆6913億4523万1440円で、純利益は586億5125万7510円と5年連続の黒字決算となった。馬券収入は最盛期の1997年の4兆円と比べると、約7割といった水準だ。

 日経平均株価で見ると、バブル期の最高値は1989年12月につけた3万8957円。最近は1万9900円(5月10日)だから、最高値の51%だ。競馬のほうが回復力は強いのかもしれない。

 競馬に話を戻そう。キタサンブラックの天皇賞連覇で、日本一の馬産地・日高は大いに盛り上がった。歌手の北島三郎がオーナーである同馬は、日高町のヤナガワ牧場生産馬だ。ヤナガワ牧場は1967年創業で繋養繁殖牝馬は約50頭。繋養繁殖牝馬とは、仔馬を出産するために養われている牝馬のことだ。ここ数年はコパノリチャード、コパノリッキー、そしてキタサンブラックがG1、Jpn1で勝利するなど、生産馬の活躍が目覚ましい。天皇賞当日、ヤナガワ牧場には日高町の三輪茂町長も駆け付け、喜びを分かち合ったという。

 中央競馬では、北海道胆振地方・社台グループの大牧場が圧倒的な力を誇っている。2016年度で見ると、次の通りトップ3を社台グループが占めている。

1位 ノーザンファーム…獲得賞金145億1441万円
2位 社台ファーム…獲得賞金78億7189万円
3位 社台コーポレーション白老ファーム…獲得賞金27億156万円

 ちなみに、キタサンブラックのヤナガワ牧場は8位で、獲得賞金は11億7464万円だった。

 ノーザンファームの出走頭数は1325、出走回数は7999、勝利頭数は582、勝利回数は912となっている。一方、ヤナガワ牧場の出走頭数はわずか88、出走回数は725、勝利頭数は27、勝利回数は49にすぎない。社台グループのケタ違いの強さがわかる。

 胆振地方の大手とは、まだまだ大きな差はあるが、ヤナガワ牧場生産馬の活躍は馬産地・日高にとって明るい話題だ。さらに、4月6日にキタサンブラックの母シュガーハートが、キタサンブラックの全弟(父母馬が同じ弟馬)となる鹿毛馬を出産、早ければ2019年にデビューするとのニュースが伝わってきた。廃業、倒産が続いた馬産地・日高にとって完全復活に向けた動きが続いている。

●非常識な行動の観光客増加で見学中止に

 一方でここ数年、牧場関係者らを悩ますある問題が浮上している。馬産地を訪れる一部の競馬ファン、観光客のあきれた行動に牧場側がたまりかね、牧場見学を中止するといった事態が生じているのだ。

 4月、新ひだか町静内にある「競走馬のふるさと案内所」を訪れた。ここは競走馬の情報や牧場見学の案内、馬産地周辺の交通・宿泊情報など、馬産地を訪れる人に向けてさまざまな情報サービスを行っているインフォメーションセンターである。

 一世を風靡した名馬たちの繋養先マップや馬関連の膨大な書籍を見たあと、カウンターにあるパンフレットを手に取った。「牧場見学のルール&マナー」という小冊子なのだが、そこには牧場内や牧場周辺における観光客らによるさまざまなトラブルが紹介されていた。代表的なものを挙げてみよう。

・携帯電話・携帯端末機等によるトラブル
・フラッシュ撮影、自撮り棒使用に伴うトラブル
・馬の毛をむしる、馬の背に乗る
・馬を走らせようと石を投げたり、物を振り回す
・バイク・車が爆音をあげて牧場周辺を走り回る

 馬は臆病な動物で、危険を察知するために視野の広い目、微細な音を聞き取る耳を備えている。突然鳴る携帯の着信音、フラッシュの閃光、バイクの騒音などで驚いた馬がパニックになって暴れるといったケースが増え、牧場側から苦情が寄せられているという。

「牧場見学は、競走馬のふるさと案内所にお越しいただくか、HPで申し込みをしていただいた上で行っていただくようにしています。あくまで生産牧場さんの好意によるものだからです。ところが、最近はインターネットで情報を収集した一部のファンの方が無断で押しかけるケースが増えているのです。忙しい作業に追われる牧場側にとって、迷惑な話です。携帯電話使用などのトラブルが相次ぎ、見学中止を通告してくるケースが増えています。一部の心ない方の行為が、多くのファンの見学機会を奪う結果となるのです」(競走馬のふるさと案内所関係者)

●生産牧場は観光牧場ではない

 名馬に会いたいという観光客や競馬ファンと、馬を静かな環境で生活させたい牧場側の、それぞれの思いが交錯するなか、ふるさと案内所など関係者の努力と牧場側の好意、協力のおかげで牧場見学は実現している。

 馬がどれだけ臆病で敏感な動物であるか、牧場で暮らす軽種馬は1頭数百万円から数十億円の価値を持っていることなど、馬や牧場に関する基本的な知識や情報を学んでから訪れてほしいものだ。軽種馬とは、馬の種別でサラブレッドやアラブなどの比較的スリムで運動能力の高い馬を指す。「牧場見学のルール&マナー」に紹介されている「牧場見学の9箇条」を抜粋しよう。

1.牧場見学の可否は案内所へ問い合わせる
2.牧場見学の可能時間は案内所に問い合わせる
3.牧場では(牧場の)指示に従う
4.厩舎や放牧地は無断立ち入り禁止
5.大きな音や声は出さない
6.馬には触らない
7.牧場内は禁煙
8.カメラのフラッシュ、自撮り棒は使用しない
9.食べ物は絶対に与えない

 こんなことまで、いちいちマナーブックで指摘しなければならないほど、一部の観光客やファンの質は劣化してしまったのだろうか。日高地方の牧場はいま、出産のピークを迎え、年間で関係者がもっとも神経をとがらせる季節だ。出産は6月いっぱい続く。普段は見学を受け入れてくれる牧場も、この時期は見学できないことを知っておいてほしい。

 人口が減り続け、高齢化が進むなか、馬を中心とした産業は日高を支える基盤である。日高本線の廃線危機を克服し、地域が活性化していくためには、牧場を軸にした新たな創造、展開が欠かせない。
(文=山田稔/ジャーナリスト)