ヤバイTシャツ屋さん『どうぶつえんツアー』

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 音楽だけでは伝えきれない感情や世界観を視覚的に表現してきたMV。近頃はその枠を超え、楽曲とあわせてMVそのものが注目を集めるケースが増えている。

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 その背景には、ビジュアルエフェクトソフトや撮影機材といったテクノロジーが進化を遂げ、映像の可能性が広がっていることがある。さらに、比較的容易に製作できるようになった影響もあり、秀逸なアイデアを持つ映像が低予算で次々と生み出されている。本稿では、最近公開されたMVの中でも、とりわけ撮影技法やアイデアが斬新な作品を紹介したい。

■ヤバイTシャツ屋さん「無線LANばり便利」

 前々作「あつまれ!パーティーピーポー」をロサンゼルス、前作「ヤバみ」を屋久島でそれぞれ撮影したため製作予算が底をつき、ボーカル・こやまたくやの自宅で撮影された低予算MV。映像の終盤にLAだったことが明かされる「あつまれ!パーティーピーポー」の流れと同じく、今回も最後にサプライズが用意されている。寝起きドッキリ的なMVで、ドラム担当のもりもりもとに「せめてドラムスティックを持て」と突っ込みを入れたくなるMVだが、彼らが纏っているシュールな雰囲気とマッチしている。“寿司くん”名義で撮影を行ったこやまは、ヤバT以外にも岡崎体育のMVを手掛けている。

■私立恵比寿中学「感情電車」

 私立恵比寿中学のメンバー自らが、箱根旅行の模様をスマートフォンで撮影したMV。観光名所を和気藹々と巡る姿や、浴衣姿で旅館を満喫する様子など、彼女たちの素の表情を垣間見ることができる。手ブレやハレーションのある映像は、ホームドラマのようで温かみを生み、田村歩美(たむらぱん)が提供した楽曲との相性も良い。2017年2月に他界した松野莉奈の担当カラーである青色が、メンバーの服装や背景の中に散りばめられており、ファンの間では感動的なMVとして話題になっている。

■超特急「gr8est journey」

 超特急の各メンバーが異なるバージョンを持つ全7種類のMV。スマホを再生デバイスとして活用した縦型MVになっており、再生したスマホを横並びにすることでひとつの作品になる。繋げた映像を電車の窓のように見立てたり、超特急メンバーのコメントがタイムラインで流れるなど、スマホ独自の特徴が活かされている。昨年、縦型MVでlyrical school「RUN and RUN」がカンヌの広告賞を受賞し話題を呼び、スマホにあわせた縦型MVが広く認知された。手軽な撮影も行える上、視覚的な革新性を持つスマホの登場によって、MVの幅が広がったことは間違いないだろう。

 ゲスの極み乙女。、キュウソネコカミ、SuperflyなどのMVを手掛け、近年の音楽シーンで最も重要なクリエイターといっても過言ではない加藤マニによる逆再生MV。加藤は、多くの作品をデジタル一眼レフで撮影していることを明かしており、低予算でありながら多彩なアイデアが盛り込まれたキャッチーな映像を生み出している。同MVでは、注ぐ、燃やす、切る、散らす、破る、といった印象に残る動作をフィーチャー。逆再生によって独特なリズムを生み出し、視聴者の視点を引きつけている。映像の終盤、傾けたカップにメロンソーダが戻らない結末も、「時間は戻らない」という楽曲のテーマを象徴的に表している。

 刺激的な映像を求めるリスナーの期待に応えるべく、最先端技術を利用した作品からハンドメイド風のものなど、様々なクリエイションが生み出される場となったMVの世界。作家性を尊ぶ、自由度の高い環境だからこそ生み出せる作品で、今後も世間をあっと驚かせて欲しい。(泉夏音)