5月20日に韓国で開幕したU-20W杯。U-20日本代表にとっては、2007年大会以来、実に10年ぶりの出場とあって、ファン、メディアの注目が集まっている。


U-20W杯に臨む、日本代表の選手たち 人々の関心が高まれば、当然ながら結果も期待される。とりわけ今回のチームは、アジアU-19選手権の優勝チーム。日本サッカー史上、初めてこの世代でアジア王者に輝いたとなれば、2007年大会で残したベスト16以上の成績を期待されるのも当然かもしれない。

 しかしその一方で、「U-20」は、いわゆる育成の総仕上げと言われるカテゴリーでもある。もちろん今大会で結果を残すに越したことはないが、それよりも重視すべきは、やはり選手個々の成長過程の確認、あるいは今後の飛躍につながるきっかけをつかめるかにある。

「勝ったからいい育成ができた」「負けたから育成が失敗した」など、とかく結果ばかりに捉われがちな日本においては、そのような短絡的な見方だけに終始してしまわないように気をつける必要があるだろう。

 育成先進国のヨーロッパでは、この世代を育成年代とは捉えられていない。育成は18歳までに終え、19歳以降は年齢に関係なく、一人前の選手としてプロの競争社会にさらされる環境がある。優秀な選手なら、17、18歳のうちにクラブでトップデビューを飾り、チャンピオンズリーグの舞台に立つ選手もざらにいる。10代の有望選手の移籍に、ビッグクラブが数十億円という大枚をはたくことも珍しくなくなっているのが、近年の傾向だ。

 それに対して、日本およびアジア諸国では、いまだに五輪に出場するU-23のカテゴリーまでが育成年代と考えられている。昨年からJ3にJクラブのU-23チームを参戦させ、若手の成長を促しはじめたばかりというのが実情だ。

 その違いは、今回のU-20W杯の登録メンバーを見てもよく分かる。

 今大会にヨーロッパ王者として参戦する「育成大国」フランスのメンバーには、U-18代表から飛び級招集されたトゥールーズの正GKアルバン・ラフォンをはじめ、DFイッサ・ディオプ(トゥールーズ)、MFアミーヌ・アリ(ナント)、MFリュカ・トゥザール(リヨン)、MFリュドヴィク・ブラス(ギャンガン)、FWアラン・サン=マクシマン(バスティア)といったリーグアン(フランス1部リーグ)のクラブのレギュラークラスが名を連ねる。

 それ以外にも、ワールドクラスの選手がひしめくパリ・サンジェルマンのMFクリストファー・エンクンクとFWジャン・ケビン・オギュスタンなどは、他クラブであれば間違いなく主軸となれる逸材だ。彼らは例外なく、ビッグクラブのスカウトたちの視線が注がれている、いわゆる「金の卵」たちである。

 さらにこの世代には、すでに国際的に名を広めている20歳のFWウスマン・デンベレ(ドルトムント)や、18歳でA代表デビューを飾ったFWキリアン・ムバッペ(モナコ)といった大物たちもいる。すでに一線級として活躍する彼らは、今大会には「あえて」出場しない。

 確かに日本にも、中山雄太(柏レイソル)や原輝綺(アルビレックス新潟)、堂安律(ガンバ大阪)など、国内トップカテゴリーのJ1で活躍する選手もいるが、ヨーロッパとのレベル差は大きい。残念ながら、日本の選手にとってはU-20W杯が経験を積むための最高の舞台であり、そこにあらためて育成面における世界との差を痛感させられる。

 では、日本はその差を埋めるために何をすべきなのか? その答えは、やはり世界各国にコピーされているフランスの育成システムがヒントになる。中でも、育成におけるフランスと日本との決定的な違いとなっているのは、「育成専門指導者」の育成だ。

 通称「フォルマトゥール」。これはフランス語で「育成する人」を意味する単語だが、フランスの育成システムの中では「育成指導者を育成するための専門指導者」を指す。フランスは、歴史的に長い時間をかけ、世界トップレベルのフォルマトゥール集団を作り上げることにエネルギーを注ぎ、常に世界最先端に立てるように現在も切磋琢磨を続けている。

 フランスが、ヨーロッパの移籍マーケットで注目される若手選手を毎年のように輩出できるのは、「ダイヤの原石」の質と量はもちろん、彼らを育てる有能な指導者が数多く存在しているからに他ならない。これは卵が先か、にわとりが先かの話ではない。いくらいい畑や種があっても、優秀な農家がいなければ良質な作物は育たない、という論理だ。

 かつて日本サッカー界も、現在のフランスの育成システムの基礎を作り上げたクロード・デュソー氏を招き、若年層からエリートを養成すべくJFAアカデミーを作った。しかし残念ながら、当時は選手の育成だけにスポットを当ててしまい、肝心の育成指導者のプログラムを取り入れるには至らなかった。

 当時、もし日本がフランスから優秀なフォルマトゥールを招へいするなどして、指導者育成のメソッドを取り入れていたら、現在の深刻な人材(選手)不足を招くことはなかったかもしれない。

 スポーツ大国アメリカでは、「2022年までに世界のトップリーグ入りを果たす」というメジャーリーグサッカー(MLS)が掲げた目標を達成すべく、2013年にフランスサッカー連盟と提携。2年間にわたってフランスがMLS全クラブのアカデミー責任者に対する特別カリキュラムを作成し、指導に当たった。要するに、アメリカサッカー界は、選手と指導者の育成は車の両輪であることを理解していたのである。

 また、最近では選手の「爆買い」で話題となった中国サッカー界も同じような動きを見せている。今年2月、フランスサッカー連盟およびプロリーグ機構(LFP)が北京に事務所を設立し、中国サッカー協会との業務提携を発表。フランス側のメリットは、国内リーグや代表チームのイメージアップ、放送権販売先やスポンサー探しにあり、一方の中国側のメリットは、育成システムをはじめとする技術面の輸入なのだという。

 中国がアメリカのように、指導者育成のカリキュラムやメソッドを取り入れるのかどうかはまだ明らかになっていないが、そうだとしたら日本サッカー界にとっては脅威だと言える。

「育成の成否=年代別代表の成績」という考え方だけに捉われず、いかに優秀な若手をトップレベルの選手に育て上げるか、という視点を忘れていては、A代表の成功は永遠に叶わないだろう。

 日本サッカーが世界のトップレベルに近づくためにも、ハイレベルな育成専門指導者の養成と、彼らのステイタス確立を図る必要がある。そのための組織と環境作りは、U-20W杯で結果を残すことより重要だと思われる。

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