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空前のホットハッチ・ブームに沸いた1980年代、伊仏を代表する走りの名家がターボ・モデルで新たな時代を切り開いた。ランチア・デルタHFターボとルノー・サンクGTターボの戦いに、ロス・アークレイシが決着をつける。

ゴルフGTIから始まったホットハッチ戦争

ホットハッチという言葉を聞いて、オーバーフェンダーから太いタイヤを覗かせる、レーシング・ストライプで飾り立てた車高の低い箱車をイメージしたなら、フォルクスワーゲンのエンジニアのおかげだろう。

もっとも、そうしたパッケージング自体は第二次世界大戦前にも存在していた(その後、可倒式リアシートや使い勝手のいいトランクが装備に加わる)が、やはりなんといっても1976年デビューのゴルフGTIこそが、一般庶民の関心を自動車に引きよせ、このジャンルの可能性を再定義したと言っても過言ではない。

2台の小型ホットハッチと、「ポケット(小ぶり)」とは言えないロケット弾。


それ以来というもの、新車選びに熱心な既婚男性といえば、ゴルフ・レンジの高性能ハッチバックをふるいにかけ、子どもが遊ぶ「ホット・オア・コールド」の真似事をするようになってしまった。その結果、1980年までに実に140,000台ものGTIが嫁ぎ先を見つけることになるのだ。

当時、ゴルフGTIにとってライバルと呼べるクルマはないに等しく、強いて挙げるとすればルノー・サンク・アルピーヌ/ゴルディーニくらいのもので、他はミド・エンジンのルノー・サンク・ターボやサンビーム・ロータス、ヴォグゾール2300HSといったラリーのホモロゲーション・モデルが少数存在しているに過ぎなかった。

ゴルフGTIに2年遅れてランチア・デルタHFが登場

驚くことに1981年までは、イタリアのメーカーも日本のメーカーもホットハッチのマーケットに参入してこなかったのだが、やがて熱狂の時代を迎えることになる。それから数年の間にプジョーをはじめ、ルノー、MG、フィアット、フォード、GM、トヨタ、マツダ、アルファ・ロメオといった強豪が闘いの舞台に躍り出たのだ。

まずフォルクスワーゲンに勝負を仕掛けたのはフォード・エスコートXR3iとヴォグゾール・アストラGTEで、ルノーはというと静かに好機を伺っていた。対するランチアは、ターボ・エンジン搭載のデルタHFを83年9月に投入する。

言うまでもなくこれは、当時1.8ℓエンジンを与えられていたゴルフに挑むためのものだ。0-100km/h加速こそ敵わなかったものの、最高速対決ではデルタに分があった。

ジウジアーロが筆をとったスタイリングの内側は、親会社であるフィアットのストラーダと多くを共有していた。アウレリオ・ランプレディ設計の名機と呼び声の高いツインカム・ユニットにはブースト圧10psiのギャレット・エア・リサーチ社製T3ターボチャージャーと空冷式インタークーラーが組み合わされ、さらにマイクロ・プレックス社の電子制御式イグニッションがウェーバーの32DATキャブレターへとリンクされていた。

またナトリウム封入式エキゾースト・バルブとオイルクーラーを採用し、圧縮比にも変更を加えた結果、標準のGT1600の最高出力107psから132psへ、さらに最大トルクは13.7kg-mから19.4kg-mへと飛躍的な向上を果たした。

史上最速の1600ccモデルを標榜したデルタHF

クラス・トップの最高速度196km/hを実現したことで、ランチアは「非の打ちどころなき史上最速の1600ccモデル誕生」と胸を張った。

4輪ディスク・ブレーキ、フロントを13%、リアを8%締めあげたスプリング、これに合わせてダンパーの見直しとステアリング・ジオメトリーの最適化を行ったことにより、パフォーマンスは跳ね上がっていた。ランチア信奉者の間で何よりも喜ばれたのがハイ・ファイデリティ(HF)という、70年代のラリー・マシン、ストラトスが使用した称号の復活である。

デルタHFターボは好評をもって迎えられ、Motor誌は「猛烈なパンチ」、「驚くほど均整のとれたハンドリングと卓越したトラクションのおかげですべてのパワーを活かしきれる」と評した。

それから2年、ホットハッチ革命は絶頂期を迎える。フィアットからはウェーバー40DCOEツイン・キャブレターを武装した古典的ロード・レーサー、アバルト130TCが、日本からは新たな時代の到来を予感させるホンダCR-X、三菱コルト(日本名ギャラン)1600ターボが短期間に発表された。

その他にもフィアットは2作目として、パワーはありながらも洗練度はいま一つだったウーノ・ターボを、MGは強烈な2.0ℓユニットが印象深いマエストロEFiを、さらにプジョーは時を待たずしてホットハッチの新たな王者となる、自然吸気モデルの205GTI(走りとバランスを兼ね備え、ドライビングの新境地を打ち立てた)を投入したのだ。

グレー地に赤字のデカール。これこそ80年代テイスト。

シュペール・サンクのハイ・パフォーマンス・モデル、GTターボ

そんな中、経営危機にあえぐルノーは、既存モデル「ル・カー」をベースにした新型車の開発を推し進める。こうして登場した「シュペール・サンク」は、4億ポンドもの投資をしたにも関わらず10%の軽量化と6%の空力性能向上に留まり、トレード・マークであるショッピング・カートを逆さまにしたような味気ないスタイルはそのままであった。しかしながら、ボンネットの中身はそれまでの縦置きパワートレインに別れを告げ、より一般的な横置きユニットに換装されていた。

待望のハイパフォーマンス・モデル、サンクGTターボがデビューするまでに、丸1年も待たなければならなかったが、結果的には待つだけの価値が十分にあるものだった。

従来のシエラ・エンジン、あるいはC-エンジン/C-タイプなる名でも知られる1289ccのクレオン・フォンテ・ユニットは、1397ccにボア・アップされていたが、1962年のオリジナル設計同様、クランクケース横にマウントされた、チェーン駆動のカムシャフトがプッシュロッドとロッカー・アームを動かすことで上部のバルブを開閉するという、いわゆるOHVを採用した。

ギャレット製T2ターボチャージャーと空冷式インタークーラー、それにシングル・チョークのソレックス32DISキャブレターがこれに加わる。

奇抜な5スポークアロイ。

軽い車重が生み出すサンクGTターボの俊足

車重をわずか820kgに抑えたことで0-97km/h加速は7.1秒という駿足ぶりだ。Car誌によるプジョー205GTiとホンダ・シビックCR-X 1.6とのテスト企画では「他と比べものにならないほど速いうえ、ハンドリングに優れ、ステアリング・フィールと制動能力についてはベストである」というコメントが残されている。

ボディ・サイズの違いはあれども

デルタHFとサンクGTターボを並べてみると、ふたつのことが明らかになる。1つ目は、それぞれのサイズの違いだ。デルタHFは箱を組み合わせたような、がっしりとした出で立ちで、小柄で華奢なサンクGTターボよりも実際のサイズ以上に大きく見える。

デルタHFやゴルフII GTiがデビューした当時、既に多くのハッチバックが一回り大きいコンパクト・ファミリー・クラスへと遷移しており、残された小ぶりな「スーパーミニ」たちは数少ないライバルと死闘を繰り広げることになった。

ならば、サイズが違う2台を突き合わせるのはナンセンスなのだろうか? そんなことは全くない。デビュー当時、2台はそのパフォーマンスの高さを、これでもかと競い合っていたのだから。

風変わりなインテリアと心地よいシート。

残念ながら残存数は少ない

2つ目に明らかになったのは、2台の稀少性だ。最後に路上で見かけたのはいつのことだろう? 確かにこの数十年の間に製品の品質や信頼性は、当時に比べて高まっているのだが、それでも極めてわずかな数の個体しか残っていないのは悲しい事実である。

この記事のために連れ出した2台はどちらも後期型の1990年モデルだ。デルタHFは、意匠変更を受けたバンパーを装着し、サンクGTは力強い色調のボディ・キットをまとっている。ラテンからの放蕩者、デルタHFは直線で大暴れすることを、ボディ上の細やかなディテールから醸し出している。

いかついフロントフェイスではあるが、腰高で少々不格好なリアのスタイリングよりもずっとましだ。

最後期型ルノー・サンクには1397cc4気筒ターボユニットが横置きマウントされ、最高出力は122psを謳った。

今なお魅力的なサンクGTターボのフォルム

驚くことにサンクGTの方は、スタイリングが今日でも十分魅力的であることに気づかされる。フランスらしい黄色いフォグ・ランプの輝きも含めて、とても味わい深いスタンスである。

無意識にデルタHFターボとデルタ・インテグラーレを比べることがあったとしても、サンクGTターボと野獣のごときサンク・ターボを「別物」として捉えてしまうのは、おそらくサンク・ターボの方が先発であり、GTターボの進化形とは言えないからだろう。

「80年代を過ごした人なら誰だってルノーのキャビンを気に入るはずだ」という意見に否定的な考えをお持ちならば、ここに見るべきものはないから他の特集へ移った方がいい。というのも、82年に世に送りだされた8ビット・コンピューター、コモドール64とビデオ・ゲームのダブル・ドラゴンの光景が混ざり合ったようなインパネ周りは一見の価値があるし、ふかふかの座面に、豊かなサポートを提供してくれるサイド・クッションなど「フリーサイズ」という言葉を体感してみたいならば、サンクGTターボのシートに座ってみるのが一番手っ取り早いからだ。

しかし、シートの脇にはドア・パネルやストレージ・ボックスが立ちはだかっており、室内空間に余裕があるとは言い難い。その反面、デルタHFのキャビンは比較的広々としている。プラスティック素材の質感や、ウールを織り込んだハーレム柄とアルカンターラを組み合わせたシート、モモ製の本格的なレザー・ステアリングなど、絶妙な塩梅で仕上げられている。

そうした環境に身を沈めると、高めにセットされたドライビング・ポジションと、面積の大きいガラスのおかげでファースト・クラスのように視界は広い。

洗練された印象のデルタHFのパワーユニット

走りだしてみるとHFのツインカム・エンジンは、とても洗練された印象をもたらしてくれる。これまでのキャブレターは、ウェーバーとマニエッティ・マレリが共同開発した電子式インジェクションに置き換えられており、エンジン・ノイズは静かで、同時に10psの出力向上を果たしている。

アクセル・ペダルを床まで踏み込むと、小型化したT2ギャレット・ターボチャージャーは即座に回り始め、ミドル・レンジのとてつもないパンチとともに長くなめらかなパワー供給が始まる。ラグやトルクステアの類は一切ない。

ステアリング操作に対する反応も素早く、方向転換すると、重心を下げ冷却効果を改善したマーク2エンジンのおかげでぐいぐいと前に進もうとする。コーナリングは若干のアンダーステア傾向だ。限界付近に近づくとオーバーステアに転じるが、いつだって予測がつきやすく、スロットル操作で簡単にコントロールできる。

ストロークが長く、ゲートの感触がいささか曖昧なシフトだけは残念であるが、それ以外は、スリルに満ち溢れている。奥さんや子どもの送り迎えに励む落ち着いた男性でも、必要とあらばその楽しさに没頭できるはずだ。

ラリー界での伝説的な活躍以来、十数年ぶりに採用されたHFバッジ。

3000rpmから豹変するサンクGTターボ

一方のサンクGTは、子どもたちにとってさえポケット・サイズのクルマだと感じられる。デルタHFはシートのうえに腰掛けるのに対して、サンクGTはコクピットが身体をすっぽりと包んでいるような感覚になる。カチリとした動作のギアボックスはとても気持ちがいいし、上部を削ぎ落した触り心地のいいシフト・ノブも逸品である。

さらに素晴らしいのは、ライバルよりも僅かにラグを感じるものの、ターボのブースト圧が2000rpmで半分に、2800rpmで4分の3に、そして3000rpmでマックスに到達するという加速特性だ。自然吸気エンジンに慣れた人なら、化学合成物質の作用でハイになってしまうようなサンクGTターボの非現実的な加速に驚くだろう。

それでも、このキビキビした走りを受け入れるのにそれほど時間は掛からないはずだ。ドライバーが刻一刻と感じるこのクルマの速さは、そもそも諸元が示す通りのものだからだ。田舎道まで足を伸ばし勢いよくコーナーに飛び込んでみると、専用のスプリングやダンパー、アンチ・ロールバーを組み合わせるリアのトレーリング・アーム式サスペンションの名技を感じられる。

グリップはどこまでも粘り強く、シャシーも素晴らしい。ハンドリングのキャラクターはデルタHFのそれに似ているが、フィーリングそのものが硬質で安定感に勝るため、ゆるやかなコーナーやタイトなヘアピンでもおのずと速度域が高まる。サンクGTターボの当時の価格帯で、同じようなパフォーマンスを発揮するクルマはそれほど多くはない。

「ペッパーポット(=胡椒入れ)」アロイホイール。


他のメーカーと異なり、ルノーは単なる「焼き直し」のクルマではなく、純粋にパフォーマンス志向のクルマを作り上げたといっていい。当時、テクノロジーの進歩と平行してマーケットは大きな変貌を遂げようとしていた。

皮肉にもランチア・デルタはその逆風を先頭で浴びることになり、最も激しいホットハッチの名を取り戻すために、そして86年から始まる4WD全盛期に対応するために、デルタ・インテグラーレへと世代交代したのだ。

希少ではないが価格が高騰していない狙い目の2台

デルタHFもサンクGTターボも、ホモロゲーション取得のために発売された過激な兄弟モデルに比べると、影が薄く感じられるが、そのお陰とも言うべきか価格が高騰することもない。

稀少であることには変わりないが、街をゆったりと流すことも可能だし、その気になればポテンシャルを解き放つこともできる。

実用的なファミリーカーということならデルタHFに軍配を上げるが、どちらがアドレナリンを刺激してくれるかという観点で見ると、初代のスタイリングを引き継ぐサンクGTターボに一票を投じたい。デルタHFターボが洗練されたクルマならば、サンクGTターボは「ポケットロケット(小さくてパワフル))」がどういう意味なのかを体現したクルマだといえる。

ルノー5GTターボ

■生産期間 1985〜1991年 
■生産台数 160,000台 
■車体構造 スティールモノコック

■エンジン形式 直4OHV 1397cc
ソレックスキャブレター + ギャレットT2ターボ 
■エンジン配置 フロント横置き 
■駆動方式 前輪駆動 
■最高出力 122ps/5750rpm 
■最大トルク 16.9kg-m/3750rpm 
■変速機  5速マニュアル 
■全長 3589mm 
■全幅 1590mm 
■全高 1366mm 
■ホイールベース 2408mm 
■車両重量 820kg 
■サスペンション (前)マクファーソン + コイル
(後)トレーリング・アーム/トーションバー 
■ステアリング ラック&ピニオン 
■ブレーキ 4輪ディスク 
■0-97km/h加速 7.1秒 
■最高速度 198km/h 
■燃費 7.1〜8.9km/ℓ 
■新車価格 £7,360 
■現在中古車価格 885,000円〜2,130,000円 

デルタHFのボクシーな印象のインテリア。


ツインカムターボの4気筒エンジンはインジェクション化されている。

ランチア・デルタHFターボie

■生産期間 1983〜1990年 
 
■生産台数 35,751台(ieターボ以外のモデルも含む)

■車体構造 スティール・モノコック 
■エンジン形式 直4DOHC 1585cc、
電子制御式ウェーバー + ギャレットT2ターボ 
■エンジン配置 フロント横置き 
■駆動方式 前輪駆動 
■最高出力 142ps/5500rpm 
■最大トルク 19.5kg-m/3500rpm 
■変速機  5速マニュアル 
■全長 3895mm 
■全幅 1620mm 
■全高 1380mm 
■ホイールベース 2475mm 
■車両重量 1020kg 
■サスペンション (前) マクファーソン + コイル
(後)マクファーソン + コイル 
■ステアリング ラック&ピニオン 
■ブレーキ 4輪ディスク 
■0-97km/h加速 8.5秒 
■最高速度 203km/h 
■燃費 10.3km/ℓ 
■新車価格 £8,790 
■現在中古車価格 354,000円〜1,420,000円