敗戦後の会見で見せた失意は、ここ最近では、もっとも深く濃いように映った。瞳を伏せ、抑揚を抑えた声のトーンで、自らに語りかけるようポツリポツリと紡ぐ言葉……。


同世代ライバルのデル・ポトロに完敗を喫した錦織圭「自分のしなきゃいけないことができなかった。もちろんチャンスはあったが、大事なところを取りきれないところが、タイブレークや2セット目の最初のほうにも出てきたのかなと思います」

 BNLイタリア国際の3回戦。フアン・マルティン・デル・ポトロ(アルゼンチン)に6-7、3-6で敗れた錦織圭は、敗戦のショックというよりも、持てる力を出しきれなかったもどかしさを持て余しているようだった。

 右手首のケガのため約1ヵ月半ぶりの実戦となった先週のマドリード・オープンでは、産みの苦しみの初戦を突破し、その後テニスの調子は上がったものの、痛みの再発により準々決勝のノバク・ジョコビッチ(セルビア)戦は棄権。そのため今回のローマ・マスターズも、ケガの状態を確かめながらの戦いとなるかに思われた。しかし実際には、開幕戦を控えた練習時も、そして実際に戦った初戦(1回戦免除の2回戦)でも、錦織が放つショットに不安の影はまったくと言ってよいほど見られない。

「なるべく多くの試合ができるように、今週はがんばりたい」

 本人が語る言葉にも、勝利への飢餓感がにじむ。消化不良に終わったマドリードの分も暴れると言わんばかりに、ローマでの錦織は上位進出に意欲と自信をみなぎらせていた。

 その錦織の前に立ちはだかったのが、度重なる左手首手術を経て、全盛期の力を取り戻しつつある1歳年長の宿敵だ。198cmの恵まれた体躯を誇るデル・ポトロの武器は、破壊的な威力を誇るフォアとサーブ。そのサーブをいかにリターンで封じ、得意とするバックの打ち合いに持ち込めるか――。錦織とデル・ポトロの対決とは、お互いがもっとも自信を持つ武器の相剋(そうこく)でもあった。

 手のうちを知る者同士の攻防のなかで、錦織に多少の誤算があったとすれば、デル・ポトロのバックが「思った以上に深く返ってきた」ことだろう。低く伸びるスライスと両手打ちの強打を使い分け、バックへの攻めにも動じなかったデル・ポトロ。対する錦織は、ローマの重く深い赤土にも悩まされ、「自分のフォアが全体的に浅かった」と唇を噛む。タイブレーク終盤や、ブレークを許した第2セット第3ゲームなどの競った場面で、フォアのショットを焦ったようにネットにかけてしまったのも、試合数と自信の欠如ゆえだろうか。

「プレーの内容は最悪ではなかったが、要所要所で足りない」

 その「足りない」何かが、もどかしさの種だった。

「物足りない」

 5月28日に開幕する全仏オープンへの調整と準備を考えたとき、錦織はローマでの戦いを、そう端的に総括した。

「特に今週は身体も万全で、自分に期待しているところもあった。ちょっとうまくいかない場面が多かったので、気にかかる部分はあります。試合数をこなせなかったのと、早めに負けてしまったので……もうちょっとプレーの質を上げないと、フレンチ(オープン)でも上には行けない」

 苛立ちにも似た反省の弁を口にする錦織は、全仏に向け「もう少し工夫して練習していきたい」のだと言った。

 翌週のジュネーブ・オープンに錦織が参戦する――。スイスメディア等からそのような報が流れたのは、試合後の会見からわずか数時間後のことだった。「工夫した練習」だけではなく、緊張感や相手との駆け引きのなかでしか得られぬ試合勘を、実戦のコートに求めたための決断なのは明白だ。

 ジュネーブ・オープンの第1シードは、昨年の優勝者でもある世界3位のスタン・ワウリンカ(スイス)。錦織は第2シードで、ランキングどおりに勝ち進めば準決勝で第4シードのジョン・イズナー(アメリカ)と、そして決勝でワウリンカと当たるドローとなった。

 ジュネーブ大会のクレーコートは全仏のそれと比べて重く、一般的にはパワープレーヤー向きだと言われている。そのなかで、求める「プレーの質」と試合数を得られるか?

 土壇場で選んだ道の果実は、自らの手で掴み取るしかない。

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