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すべてオーナーが決まった「売却済み」の車両。乗船記録がダッシュボードの上にそっと置かれていた。

M5(イギリスの高速道路)を南進していると、ブリストルのアヴォン川を超えるあたりで見えてくるのがロイヤル・ポートバーリー・ドックだ。

3つの港がひとつにまとまっている港湾地域で、運営するのはブリストル・ポート・カンパニー(BPC)。1991年にブリストル市から買い上げ、運営がスタートした。

港には新型のランドローバー・ディスカバリー、レンジローバー・イヴォ―ク、ジャガーF-タイプやF-PACEに加え、XEやXFなどの良質なクルマたちが一堂に会していた。

ローロー船「グランデ・ナポリ」に乗り、10日間の旅でこのクルマたちの目指す場所は2352海里離れたイタリアのリヴォ―ルノ港。

昨年、英国製のクルマは135万台が世界中に向けて輸出された。そして今年、3月半ばの数字を見てみてもJLR(ジャガー・ランドローバー・グループ)の業績は良好ときている。

ブリストルの港で見かけたクルマたちは、皆、ボディを大きなシートで覆われ、保護されていた。インテリアを覗いてみると、ステアリングとシートにはかぶせものがしてあり、フロアも薄いプラスチックで保護されていた。

単に積み込めばいいというワケではない

外観のほうに視線を戻す。すると、ある異変に気付いた。ドアに付いているエンドキャップがない。

良いクルマゆえ、港湾の職員が秘密裏に持ち帰ったのか? というわたしの疑念は、ここのマネージャー、アンディ・ベイツによって解消された。

「意図して外しているのです。脆い製品ですから一旦外して、降ろした際に再度付けてけています」とのこと。

さらにわたしは「クルマに貼られているサスペンション・コイルについての注意書きは何のためですか?」と問いかけてみた。

これは船内に積み込む際技術者がサスを制御し、車高をコントロールするための覚え書きとのことらしい。

ここを走るJLRのクルマたちはすべて、2000rpm以下でしか走れないようになっている。「移動する際にエンジンの誘惑に惑わされても封印を解き放つことはできないのですよ」とベイツ氏は言う。

サッカーグランド2600個ぶん なんの数字なのでしょう?

この港は2600エーカー(1エーカーがサッカーグラウンドひとつぶん)の土地を誇るが、そのうち450エーカーはクルマの駐車スペースである。

雲の隙間から覗く日差しが照らす、永遠と続くようなクルマのルーフ。ここにあるのは1万6千台ものクルマたちだ。

ただし、ここにある駐車スペースだけでは足らず、BPCは新たに30エーカーの土地を購入し、6000台の収容スペースを設けることにした。

港には1日平均で2隻の船が着岸しているが、この数値は世界でも2番目に多い。

ちなみに着岸している船の内部は5階建ての構造になっている。この港は17.8mの深さはあるものの、潮位が高いと船と陸との勾配がきつくなり、車体の底を擦ったりして新車を損傷する可能性も高まるため、潮位が低く、船と陸との勾配がなだらかな時に積み込む必要がある。

1隻あたり4500台のクルマを運搬できる。この運搬作業を実現しているのは指揮をとる技術者、パイロットに積み込んだクルマを固定するロック・キーパー。

クレーンのドライバーに加え、重要な運搬作業員(搬入/搬出の際のドライバー)など、BPCに雇われた620人の労働者たちが日々働いている。

通常30人のドライバーたちによってせわしなくクルマの積み下ろしが行われているが、わたしが訪れた際には倍以上である65人もの作業員がいた。クルマは世界中の港から届いてくる。

「入国審査」をパスしたクルマはどうなる?

いざイギリスに「入国」したクルマたちはメーカーごとの駐車スペースに運ばれる(トヨタは1社で60エーカーを所有していたりする)。

この場所で納車前の準備を受け、ディーラーから顧客のもとへ届けられる。

「1週間に3度ほど、電車を使った輸送も行っていますが、1%にも満たない台数です。高速道に密接しているというのが、われわれの強みのひとつなのです」と語るのはBPC自動車貿易部門のディレクター、トニー・デント。

一方、波止場ではアンディ・ベイツがドライバーに鋭い眼差しを向けていた。「いつも『安全に、かつリスクのない行動を』と言っています。たった1kmにも満たない距離ですが、ルールはひとつ『焦らない』ということです」

ドライバーたちの仕事は朝10時に始まり夜の9時まで続くそうだ。

「そろそろ時間です」とベイツ。「取材が終わったら、明日のシフトを決めなければなりません。毎日毎日やってくる2隻の船に翻弄される日々は、これからもつづくでしょう」