角松敏生『SEA IS A LADY 2017』

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 昨今のシティ・ポップ・ブームに乗って、70〜80年代の音源が多数再評価されている。再発などによって当時の音源が手軽に聴けるようになったのはいいことだし、その動きにともなってベテランのアーティストが復活したりと活発な動きを見せてくれているのは嬉しい。ただ、こういった場合、どうしても「懐かしい」という感情が先行してしまい、今の時代と上手くリンクしないことも多い。

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 とはいえ、当時から変わらぬスタンスで現役を貫いているアーティストも少なからず存在する。その筆頭に挙げたいのが、角松敏生だ。山下達郎やユーミン(松任谷由実)などがシティ・ポップの第一世代だとすると、角松は第二世代といってもいいだろう。1981年にデビューして以来、常に第一線を突っ走ってきた。デビュー当初は山下達郎や大滝詠一のブレイク直後だったため、リゾート・ポップ的なイメージ戦略も相まって、彼らのフォロワーのような評価もされていた、しかし、80年代半ば以降は徐々にオリジナルのスタイルを確立。佐野元春と同時期にヒップホップをJ-POPに取り入れて斬新なイメージを与えてくれただけでなく、杏里や中山美穂といったシンガーへの楽曲提供やプロデュース、V6もカバーしたAGHARTA名義による「ILE AIYE〜WAになっておどろう〜」の大ヒット、沖縄やアイヌの音楽を絶妙に融合した先鋭ポップなど、自身の核となる音楽性はそのままに、時代によって様々なアプローチを行ってきた。

 そんな角松のチャレンジのひとつが、インストゥルメンタル作品だ。彼はシンガーソングライターとしての実力はいうまでもないが、ギタリストとしても高く評価されている。そのきっかけとなったのが、1987年発表のギターインストアルバム『SEA IS A LADY』だろう。この当時の角松は、業界内評価は高かったがセールスが追いついていないというデビュー当初からの状況から一歩前進し、『GOLD DIGGER〜with true love〜』(1985年)と『Touch And Go』(1986年)がアルバムチャートでベスト10入りしたことで、勢いに乗っていた時期。そんなタイミングで、なんと掟破りのインストアルバムを作ってしまったのだ。今思えば、ブレイクしたばかりのシンガーソングライターの新作が、歌のないインストだというのは普通に考えるとありえない。それも、別名義や企画物として逃げるのではなく、堂々たる本人名義での新作として打ち出されたのだから、スタッフ間では賛否両論あったという。しかし、卓越したミュージシャンを配し、ボーカル作品と変わらぬポテンシャルでレコーディングされたこの『SEA IS A LADY』は、周囲の予想に反して当時における過去最高位の4位を記録。10万枚を越えるセールスを記録したことで、結果的に角松のアーティスト性を決定付ける一作となり、彼のターニングポイントといってもいい重要な作品にもなった。なお、その後の1990年にはインストアルバムの第二弾『Legacy of You』をリリースし、こちらも大ヒットを記録している。

 さて、そんな角松のキャリアにおける重要作が、30年の時を経て新たに蘇った。タイトルは『SEA IS A LADY 2017』。いわゆるリメイク作品である。本人のセルフライナーノーツによると、オリジナル発表当時は商業的成功を収めたとはいえ、自身のプレイに関しては悔いが残る演奏だったという。そのため、今回は30年という節目を機に、アレンジはほぼオリジナルのままに、スキルアップしたテクニックでギターを演奏。ようやく納得のいく作品に仕上げたそうだ。当時はCMにも使用されたポップ・フュージョンナンバー「SEA LINE」、アコースティックギターの爪弾きが美しい「SUNSET OF MICRO BEACH」、プログラミングされたテクノポップ風のサウンドがクールな「52ND STREET」、疾走感に満ち溢れる「MIDSUMMER DRIVIN'」など、オリジナルの印象はそのまま変わらないこともあり、リアルタイムで聴いていた方にも納得できる演奏が聴けるだろう。

 とはいえ、本作はたんなる焼き直しの作品ではない。ところどころにオリジナルとは違う仕掛けがあるのが面白い。例えば、「Ryoko!!」は『SEA IS A LADY』ではなく、1983年のアルバム『ON THE CITY SHORE』に収められていたインストのリメイク。また、いきなり現れるボーカル・ナンバーの「Summer Babe」は、1981年のデビューアルバム『SEA BREEZE』収録曲だが、レコーディングされる前のオリジナルアレンジをもとにしたもの。もともとインスト部分が重要な楽曲だったこともあっての選曲だそうだ。そして、新曲「Evening Skyline」も書き下ろされているが、こちらは80年代に一世を風靡したUKのフュージョングループ、Shakatakへのオマージュとなっている。一大セッションへと展開していく「OSHI-TAO-SHITAI」がラストを飾るなど曲順も少し変えたことで、オリジナルを聴き込んだファンにも新鮮に聞こえる作りは、まさに2017年バージョンなのだ。

 リメイクというのは、ある種の自己満足だろうし、実際に角松本人も拙かった過去の自分への落とし前だと語っている。しかし、それ以上にこの『SEA IS A LADY 2017』は、80年代当時の彼が規格外のスケールを持ったアーティストであったことを再提示するアイテムにもなるし、さらにいえば、今のシティ・ポップ・ブームで注目されているアーティストが今後どう進むべきかのひとつのヒントにもなるはずだ。そういう意味でも、今聴くべき非常に重要なアルバムだといえるだろう。(栗本 斉)