1935年に誕生したダグラス・DC-3は、その後の航空輸送の世界に革命をもたらした名機として知られ、合計で1万6000機もの機体が製造されました。そんな機体を限りなく現状に近い形で保存し、なんと世界一周を敢行するという「ブライトリング DC-3 ワールドツアー」が日本にやってきました。これにあわせて日本各地では貴重な機体を見学でき、しかも抽選で実際に搭乗してフライトを体験するという機会があるのですが、5月19日には報道陣を対象にした体験搭乗フライトが神戸空港で実施されたので、この千載一遇・唯一無二の機会を逃すわけにはいかないと参加してきました。

EVENT - ブライトリング DC-3 ワールドツアー | BREITLING

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ブライトリングDC-3ワールドツアーでは、熊本・神戸・福島の3都市でイベントが開催されています。いずれも大きな震災を経験した土地で、復興を後押しする願いを込めたイベントとなっています。2017年4月30日(日)に熊本の崇城大学 空港キャンパスで体験フライトと見学会、5月5日(金・祝)には航空自衛隊岩国基地の「フレンドシップデー」での実機展示が行われ、5月20日(土)と21日(日)には神戸空港・ヒラタ学園エア・センターでの体験フライトと見学会、そして5月27日(土)には福島空港での体験フライトと見学会が実施されます。ちょうど日本でのイベントの半分を終了した段階の5月19日には、メディアと地域で活動する子どもたちを対象とした体験試乗フライトが開催されました。

会場となった神戸空港内にあるヒラタ学園エア・センターは快晴。ハンガーには端正なブライトリングカラーにペイントされたDC-3が駐機していました。



現代の飛行機とは違い、前2輪・後1輪を持つDC-3は、このように機尾側が低くなる姿勢で駐機します。そのため、機内に乗り込む時は坂道を登るようにして座席にたどり着きます。機体レジは「HB-IRJ」。



今回のフライトを担当したのは、フランシスコ・アグーロ機長(中)、ラファエル・ファブラ副機長(右)、そして搭乗するゲストをもてなすキャビンアテンダントの志太みちるさん(左)の3人。スイス・ジュネーブ出身で48歳のアグーロ機長は、DC-3などの機体を動態保存するNPO団体Super Constellation Flyers Associationでチーフパイロットを務めている人物で、数々のフライト経験を持つベテランパイロットだそうです。



いよいよ機内に乗り込む瞬間。



機内にはタラップを使わず、扉と一体型になったステップを使って乗り降りします。



これまでに何度も飛行機には乗ってきましたが、これほどまでに緊張し、心躍るボーディングは初めてです。昇降する際は、1人ずつステップに乗るように書かれています。



キャビンアテンダントの志太さんが機内でお出迎え。この写真、決してカメラが傾いているわけではなく、機体がナナメなので傾いているように見えているのです。



機内に乗り込みました。白い壁が美しい内装で、窓枠や機内のトリム部分には木材が使われています。シートは2席×2列タイプで、現在の航空法規の基準を満たす必要があるため、残念ながらオリジナルのシートは使われていないとのこと。



とはいえ、革張りのシンプルなシートは華美な装飾もなく、雰囲気を崩すほどではありませんでした。気になる床の傾きですが、慣れるまでは、ふと気を抜くと「おっとっと」と機体後部側に転げてしまいそうになるほど。乗降口からシートにたどり着くまでの距離が、ちょっとした運動に感じられるほどでした。



ちなみに、3列目以降にある空間は、長距離フライトを行う際に、機内に燃料タンクを置くためのスペースだそうです。



ファブラ副機長がコーパイ席に座るコックピット。いかにも時代を感じるインパネ回りですが、実はこれでもやむなく現代の基準に合致するように改装されているとのこと。無線機器など、どうしても現在の航空法規や管制の仕組みに対応するための措置だそうです。円形の操縦ハンドルがDC-3を感じさせるところ。



とはいえ、機体で大きく手を加えられているのはシートと計器類回りだけで、後はほとんど作られた当時の姿そのままだとのこと。この機体は1940年生まれで、今年で77歳という「おばあさん」ですが、なんとエンジン本体もオリジナルと同じモデルを使っているそうです。



エンジンがスタートする直前、アグーロ機長からのあいさつ。今回は、神戸から大阪のエリアを高度1400フィート(約426メートル)という低空で飛行するという、普通では考えようもないスペシャルなフライトになります。



古い機体とはいえ、安全のためのブリーフィングが行われるのは他のフライトと一緒。DC-3専用の「安全のしおり」が配布されました。



脱出口の位置や、扉の開け方などが記載されています。



そうこうしているうちに、ポートサイド(機体左側)のエンジンに火が入り、次いでスターサイド(機体右側)のエンジンがスタートしました。



そのサウンドは、現代の飛行機とは大きく異なり、自動車のエンジンに近い感覚。それもそのはずで、現代の旅客機の多くがジェットエンジンを基本とする「ターボプロップエンジン」や「ターボファンエンジン」が用いられているのに対し、このDC-3にはレシプロ型の航空機エンジン「プラット・アンド・ホイットニー R-1830-92」が使われています。空冷二重星型14気筒というこのエンジンからは、始動時には「ドルンドルン」という音が振動とともに伝わってきて、いかにも「エンジンスタート」という雰囲気が感じられました。1940年代の技術・常識で作られたエンジンから吐き出される排気ガスからは、今や嗅ぐことのできない「THE・エンジン」を感じさせる、どこか懐かしい匂いが漂ってきます。

機内から撮影したエンジン始動の様子はこんな感じ。キャビンアテンダントさんの説明が行われている最中ですが、その向こうから聞こえる「ドルンドルン」というエンジン音から雰囲気が感じられるはず。

BREITLING DC-3のエンジンが始動するところを室内から撮影 - YouTube

その後、約10分程度の暖機運転を丁寧に行い、コンディションを確認したところで滑走路に向けてタキシングを開始。どこから聞きつけたのか、神戸空港4Fにある展望デッキには、DC-3を見ようとする人たちが大挙して押しかけていました。



そしてついに離陸の瞬間。低いエンジン音と振動が高まり、「ブゥ〜ン」というプロペラ機特有の音をたてて機体がゆっくり加速。ジェット旅客機に比べるとその加速は実にマイルドで、「ゆっくり加速」という感じが最もマッチします。その様子を機内から収めたムービーがコレ。

BREITLING DC-3が神戸空港からスロットルアップして離陸する瞬間を室内から撮影 - YouTube

エンジン音、そして2つのプロペラの音がユニゾンする特有のサウンドはまさに「古き良きヒコーキ時代」を感じさせるもの。離陸の瞬間に機首を大きく持ち上げる操作は行われず、まるで水平移動するかのようになだらかに高度を上げていく動きがとてもマイルドに感じられました。

また、全ての動きが穏やかだったのも印象的なところでした。古い機体をいたわるという機長の操縦ももちろんあったはずですが、旋回の際にもあまり大きくバンク角をとらず、10度〜15度程度のバンク角で緩やかに機体の向きが変えられていきます。聞くところによると、現代の機体ほど動きが俊敏ではないというのも理由の一つだそうですが、こんなところからも古い機体であることが伝わってくるよう。

ちなみに今回は最前列シートに座ることができました。足元の空間はこのように広々と快適。



今回のフライトコースは、神戸空港を西向きに飛び立ち、右側に大きく旋回して神戸上空から大阪市内を目指します。その道中、左側の席からは六甲山や神戸の街並み、そして大阪湾の舞洲などが眼下に広がりました。この写真に写っているのは、舞洲にあるミニサーキットの「舞洲インフィニティサーキット」。



また、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンや京セラドーム、あべのハルカスといった関西の名所の数々を見ることができました。右側の窓からは大阪城なども見えた模様。



飛行中の様子は、以下のムービーを見てもらえればその一端がわかります。

BREITLING DC-3が大阪市上空を高度約1400フィート(約426メートル)でフライト、眼下には京セラドームやあべのハルカス - YouTube

飛行中は座席の移動ができなかったというのも、機体の年齢を感じるところでした。これはなぜかというと、乗客が機内で前後左右に移動すると重心バランスが乱れてしまい、操縦性に影響が出てしまうためとのこと。この機体にはコンピューターが全く搭載されておらず、全ての操作をパイロットが行う必要があります。そのため、機体の状態を自動的に感知してトリムをとってくれる、という現代のコンピューター飛行機のような機能が一切ないこと、そして今回はDC-3に2機の軽飛行機がタンデム飛行しているため、万が一姿勢が乱れて空中でアクシデントが起こることを避けるために、乗客の移動を制限しているそうです。

そんな30分にわたるフライトも、あっという間に終了。ポートアイランド上空で2周ほど旋回しながら高度を落とし、神戸空港に東側から進入して着陸。この着陸も実にマイルドで、久々に「え?いま着陸したの??」と思ってしまうほどスムーズなランディングでした。これには、機体をいたわるパイロットの操縦や、太くて大きい車輪の影響もあると思われます。

BREITLING DC-3が神戸空港に着陸する瞬間を室内から撮影 - YouTube

搭乗終了後、参加者には機長とブライトリングのシュナイダー社長のサインが入った飛行証明書が発行されました。



機齢77歳という「おばあちゃん」に乗ることができるというめったにないチャンスはこうして終了。現代の旅客機に比べると、プロペラ機特有の騒音が「うるさい」と感じられることも否めないわけですが、民間・軍用の両面で大活躍し、世界の航空輸送の姿を大きく変えた名機はまさに「文化遺産」と呼ぶに値する価値があると感じました。

このイベントは、スイスの高級腕時計メーカー「ブライトリング」が実施したもので、製品のオーナーを対象とした搭乗体験・機体見学イベントはすでに応募が締め切られていますが、今回の神戸空港のように展望デッキから見学できるチャンスは残されています。また、2017年6月4日(土)〜5日(日)に葉・幕張海浜公園で開催される「レッドブル・エアレース千葉2017」の会場でもデモフライトが実施され、この時はなんとパイロンとほぼ同じ高さまで高度を下げたローパスフライトが実施されるとのこと。希代の名機の実機を見ることができ、あまつさえ実際に飛んでいる姿を見ることができるチャンスなどそう残されてはいないはずので、気になってしまった人はこの機会を逃す手はなさそうです。

なお、今回は「日本海洋少年団」の子どもたちを対象にした招待飛行も実施されています。その様子や、機体の詳細な様子、そして撮りためた動画などもこのあと別記事で掲載される予定なのでお楽しみに。