朱鷺との共存を目指す「佐渡の稲作」

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■佐渡の田んぼで朱鷺を見た

佐渡は広いな。大きいな。

どれくらいの大きさかと言えば、東京ドーム1万8282個分らしい。

うん? わかりやすく言ったつもりが、ちっとも想像できないな。

では、これならどうだ。

「佐渡は日本一大きな離島である」

へぇって思い、ビッグな感じも伝わりますね。何せ、日本一だもん。

けどね、佐渡の広さを知るなら、佐渡の大地を踏むに限る。初めて佐渡に渡って、そう思ったわけです。まっすぐに続く道、その両側にどこまでも広がる田んぼ。遥か遠くには大佐渡山地が霞んで見える。佐渡、本当に広いなぁ。果たして、お目当てとは出逢えるだろうか?

「田んぼの中でついばんでいると稲穂に隠れがちです。注意して、よーく見てくださいね」

運転席の伊藤善行さんが教えてくれる。伊藤さん、佐渡の老舗旅館「伊藤屋」の5代目となる跡取り息子。この島をこよなく愛し、佐渡のことなら知らないことはないと言われるほどの佐渡通と聞き、今回の水先案内人をお願いしたのです。広大な佐渡を隅から隅までとはいかないまでも、ずずずいーっと、巡ってくれました。

さて、「伊藤屋」のワゴンで少し走ると、お目当てはすぐに見つかった。

「いました、伊藤さん」
「どこですか?」
「左の田んぼの畦道です」
「あれは鷺(さぎ)です」
「伊藤さん、いました」
「鷺ですね」
「あっちにいました」
「あれも鷺です」

うー。何度、このやり取りを繰り返しただろう。ちなみに、僕らが捜しているのは、鷺じゃない。特別天然記念物の朱鷺(とき)だ。新潟県の県の鳥であり、佐渡市の市の鳥でもある。

伊藤さん曰く「この時季、朱鷺は羽の裏がピンク色です」。そう教えてもらいながらも、目に入るのは鷺ばかり。なんだよ、佐渡は鷺だらけじゃないか〜と諦めかけたとき、遠くで羽ばたく一羽の白い鳥。

あっ。ピンク色だ。朱鷺だ。見つけた。伊藤さん、伊藤さん、いました。朱鷺が田んぼに降り立ちました。

興奮する僕とは対照的に「朱鷺ですね」と、冷静な伊藤さんの言葉。あぁ、朱鷺、本当にいたんだなぁ。

佐渡で朱鷺の放鳥が始まったのは2008年(日本における野生の朱鷺は絶滅しているので、いま佐渡の空を飛んでいるのは中国からやって来た朱鷺。とはいえ、外来種ではなく同一種)。そこから、朱鷺との共生を目指して、佐渡では稲作に対する考え方を変えていったのです。ということで、朱鷺を目にした僕たちは、次のお目当てへと向かう。相田忠明さんが待つ、相田さんの田んぼだ。

「朱鷺に水田は不可欠なんです」

相田さんは言った。相田さんのことは「稲職人」と紹介されるも、「農家の2代目とも言いますけどね」は、相田さんの自己紹介の弁である。

朱鷺絶滅の理由の一つは水田なんですよね、相田さん?

「乱獲ももちろんあったようですが、朱鷺の餌であるどじょうや蛙、ミミズが水田からいなくなってしまったことも原因の一つでしょうね」

なぜ、いなくなったんですかね?

「化学肥料や農薬を大量に使ったことが大きいですよ」

どじょうや蛙、ミミズが不快に思って逃げ出した水田で作られた米を僕らは食べていたというわけですよね。複雑だなぁ。

とにかく、農薬、化学肥料の5割減減を掲げて、相田さんをはじめとする佐渡の農家さんたちは、朱鷺と一緒に暮らし始めたというわけ。それは、イコール米の品質向上に繋がっていく。稲を育てるのはたいへんだけれど、一緒に朱鷺も育んでいく。絶滅の危機は去った。むしろ増えている。放鳥当初の1.5倍の朱鷺が、いま佐渡にいる。

 

▼相田さんと牡蠣殻と稲作
「佐渡のため、朱鷺のための稲作を考えている」と、相田忠明さんは言いました。実践しているのは、自身が考案した牡蠣殻農法。牡蠣殻(佐渡は牡蠣の養殖が盛ん!)を集めてドラム缶に詰め込み、そこを通して水田に水を引きます。牡蠣殻を粉末にして田んぼの土に混ぜたりもします。牡蠣殻に含まれるカルシウムや亜鉛、ミネラル分を稲作に生かそうというわけ。さらに農薬、化学肥料5割減で作られた米は“相田家産佐渡スーパーコシヒカリ”として出荷。特徴はコシヒカリよりも甘味や粘りがあること。早朝、田んぼに朱鷺が餌をついばみにやって来る風景も見られますよ。佐渡相田ライスファーミング(http://www.aidarice.net)

相田さんが田んぼを前にして言う。

「いまの子供たちは幸せですよ。僕らが子供の頃は佐渡の田んぼでホタルを見たことがなかった。最近は普通にホタル、いますからね。蛙だとかどじょうだとか、本来いるべき生き物もいる。朱鷺もいるわけでしょ。お米もおいしくなった。うらやましい。もう一度、子供に戻って佐渡で暮らしたいですよ」

いいな、佐渡の子供たち。その一端を担う相田さんの農業も素敵な仕事だなぁ。

▼佐渡と朱鷺と稲作
朱鷺の放鳥以降、佐渡では朱鷺との共生を目指し、さまざまな取り組みを行なっています。その一つが“朱鷺と暮らす郷づくり認証米”。安全でおいしい佐渡米を認証する制度で、農薬や化学肥料を減らし、「生きものを育む農法」で栽培された米を目指すというもの。農薬や化学肥料を減らすだけではなく、水田の周囲に棲息する魚や昆虫など、生き物の生活環境も良好なものにするよう努めます。佐渡島の稲作は、朱鷺が棲む島として、重要な意味を持っているんです。

(dancyu編集部 江部 拓弥 文・江部拓弥 撮影・石渡朋)