2016年(1-12月)に全国で新しく設立された法人(以下、新設法人)は12万7,829社だった。社数は7年連続で前年を上回ったが、増加率は2年連続で低下し2.1%増にとどまった。
 業種別では、「宿泊業」が2016年の訪日外国人観光客数が2,403万人(前年比22%増、国土交通省)と過去最高に達したことや、先行きの東京五輪・パラリンピック開催などを背景に前年比40.6%増と伸び率が最大になった。これに対し、起業ラッシュが一服した太陽光発電を含む「電気・ガス・熱供給・水道業」は同18.0%減と明暗を分けた。


  • 本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(対象327万社)から、2016年(1-12月)に新しく設立された新設法人を抽出し、分析した。

2016年の増加率2.1%、前年比で2.4ポイント低下

 2016年(1-12月)の新設法人は、12万7,829社(前年比2.1%増、前年12万5,141社)で、2010年以降、7年連続で前年を上回ったが、増加率は前年(4.5%)を2.4ポイント下回る2.1%にとどまった。これは、リーマン・ショック後では前年比マイナスになった2009年を除いて、最も低い伸び率だった。増加ペースの鈍化傾向が鮮明になってきたことで、今後は起業促進に向けた官民挙げての支援と環境作りが急がれる。
 このほか、企業倒産が26年ぶりの低水準で推移する一方で、2016年の休廃業・解散は調査開始以来、最多を記録した。2016年の新設法人数は、休廃業・解散と倒産件数の合計3万8,029件に対して、3.3倍(前年3.4倍)で推移している。

新設法人年次推移

資本金別、1千万円未満の小規模法人が増加

 資本金別では、「5百万円以上1千万円未満」が2万5,495社(前年比4.1%増)、「1百万円未満」が2万6,600社(同2.9%増)、「1百万円以上5百万円未満」が5万7,061社(同1.9%増)と、それぞれ増加した。
 一方、「1億円以上」は414社(同18.0%減)、「5千万円以上1億円未満」は601社(同7.1%減)、「1千万円以上5千万円未満」は5,542社(同4.4%減)と前年を下回った。
 資本金1千万円未満の「増加」に対して、1千万円以上が「減少」と対照的な動きを示した。
 最低資本金制度の廃止が浸透し、1千万円未満の小規模な資本金の法人が12万1,272社(構成比94.8%)を占めている。

産業別、増加率トップは建設業の9.2%増

 産業別では、10産業のうち7産業で前年より増加した。増加率トップは、建設業の前年比9.2%増(前年7.6%増)で、前年より1.6ポイント上昇した。
 次いで、農・林・漁・鉱業(同8.4%増)、不動産業(同6.1%増)、製造業(同6.1%増)、情報通信業(同1.9%増)、運輸業(同0.9%増)、サービス業他(同0.4%増)の順。
 建設業は2020年の東京五輪・パラリンピック開催を控え、社会インフラ整備や民間投資など先行きの建築投資増が期待されており、設立が増えたとみられる。

 一方で、金融・保険業(同8.2%減)、小売業(同2.5%減)、卸売業(同0.5%減)の3産業は前年を下回った。金融・保険業は、マイナス金利の導入で低金利が長期化し、運用益をあげることが難しい環境が影響したとみられる。また、小売業は消費者の支出が低迷するなかで飲食料品小売、通販など無店舗小売業が減少した。「安心」、「安全」の両面に加え、販売チャネルの多様化や価格競争の影響を受ける流通業界の苦戦を反映した格好となった。

産業別新設法人

業種別、宿泊業が前年比1.4倍増

 業種別で、最も高い伸びを示したのが宿泊業(前年比40.6%増、606→852社)。訪日外国人の増加や2020年の東京五輪・パラリンピック開催などをにらみ、今後への期待を反映している。
 また、家具・装備品製造が前年比31.1%増(122→160社)、印刷・同関連業が同15.8%増(203→235件)、化学工業,石油製品製造が同11.6%増(630→703件)、繊維工業が同9.4%増(1,176→1,287社)など、いずれも高い伸びを示し、先行き景気への期待をうかがわせた。
 一方、電気・ガス・熱供給・水道業は同18.0%減(2,203→1,807社)と大きく前年を下回った。これまで太陽光など再生可能エネルギーの発電(売電)を目的に多くの法人が相次いで設立されたが、固定価格買取制度の見直しなど環境が激変し、2年連続で前年を下回った。

増加率トップは九州

 地区別は、全国9地区のうち、北陸・中国・四国を除く6地区で前年を上回った。前年比増加率は、九州が5.0%増(1万2,295→1万2,906社)でトップ。九州は都道府県別の増加率上位の10位内に4県(大分、鹿児島、沖縄、福岡)がランクインし増加が目立った。
 次いで、東北3.4%増(5,156→5,330社)、近畿3.1%増(1万9,973→2万591社)、中部3.0%増(1万1,542→1万1,883社)、北海道2.0%増(4,235→4,320社)、関東1.5%増(6万2,859→6万3,772社)の順。一方、減少は四国が1.6%減(2,464→2,425社)、中国0.2%減(4,791→4,780社)、北陸0.2%減(1,826→1,822社)だった。

地区別新設法人

都道府県別、31都道府県で前年を上回る

 都道府県別では、東京都が3万7,679社(構成比29.4%)で最多。次いで、大阪府が1万1,396社(同8.9%)、神奈川県が8,364社(同6.5%)、愛知県が6,139社(同4.8%)だった。
 これに対し、新設法人数が最も少なかったのは島根県の309社。次いで、鳥取県335社、高知県369社、秋田県389社、福井県444社、徳島県479社、佐賀県482社の順。

 新設法人数の増減率は、31都道府県(前年度33都道府県)が前年を上回った。増加率トップは、独自の創業支援施設「ベンチャーファクトリー大分」を推進する大分県の10.3%増だった。次いで、京都府9.5%増、鹿児島県9.2%増、沖縄県9.2%増、三重県8.5%増と続く。
 一方、減少した16県では、山梨県の10.9%減を筆頭に、高知県10.4%減、熊本県9.7%減、秋田県7.2%減、香川県6.5%減、長野県6.1%減、島根県5.5%減、滋賀県5.4%減と続く。

 新設法人数と人口を対比すると、人口が経済の活力源であることがわかる。人口一人当たりの新設法人比率では、高比率上位に東京都、大阪府などの大都市圏が軒並みランクインしている。
 一方、東北4県(秋田、山形、岩手、青森)、中国2県(島根、山口)など、人口減少の目立つ県がワーストに並び、人口動態が新設法人にも影響していることが窺える。
 こうしたなか、高比率の上位に沖縄県と熊本県が入った。沖縄県はホテル、民宿など宿泊業が2.2倍増(26→59社)と、魅力ある観光県の力量を発揮した。また、2016年に熊本地震のあった熊本県は建設業が1.5倍増(171→257社)と前年(2.8%減)から大幅に増加、復興需要を反映した格好になった。

新設法人率、都道府県別で沖縄県がトップ

 2016年の新設法人数を「国税庁統計年報」に基づく普通法人数(最新は2015年度データ)で除して算出した「新設法人率」では、沖縄県が8.7%で最も高かった。
 沖縄県は、失業率が全国平均より高いが、起業意欲が高く、創業時には家族・親族などの支援が得られやすい土地柄も影響しているとみられる。
 次いで、東京都6.9%、福岡県5.8%、千葉県5.3%、大阪府5.1%の順。これに対し、低かったのは、秋田県2.5%、長野県2.6%、新潟県と福井県が各2.7%の順。人口減少率(総務省人口推計・2016年10月現在)が大きな地域ほど新設法人の割合が低いことがわかった。

2016年新設法人の最多商号は「アシスト」

 2016年の新設法人で最も多かった商号は「アシスト」(前年3位)で46社。「アシスト」は、英語で「人を助けること」「仕事を手伝うこと」「力を貸す」を意味があり、社会に役立つ企業理念を表しているとみられる。
 次いで、2位が「ライズ」(前年1位)37社、3位が「さくら」36社、4位が「サンライズ」35社、5位が「ネクスト」34社と続く。
 前年比較で最も増加したのは、「和」(16→29社)と「H&S」(2→15社)の各13社増。次いで、「トラスト」(21→32社)と「INFINITY」(10→21社)が各11社増、「grow」(9→19社)と「太陽」(9→19社)が各10社と続く。
 一方、最も減少したのは前年の新設法人で最多の「ライズ」で、19社減(56→37社)だった。また、商号の文字種類別では、カタカナのみの商号が全体の30.0%を占めた。

新設法人 商号

法人格別、「社会保険労務士法人」が大幅増

 法人格別の社数では、株式会社が9万925社(構成比71.1%)で全体の7割を占めた。次いで、合同会社が2万3,704社(同18.5%)、一般社団法人が5,996社(同4.6%)、特定非営利活動法人(NPO法人)が2,371社(同1.8%)、医療法人が1,294社(同1.0%)と続く。
 前年比では、有料老人ホーム経営などの社会福祉法人が前年比29.7%増(182→236社)。法人化が進む専門資格職業では、社会保険労務士法人が同193.3%増(99→291社)と大幅に増えた。2016年1月からのマイナンバー制度の本格運用で、従業員の個人情報の保護強化のため顧客企業から法人化の要望が強まったことも影響したとみられる。この他では、弁護士法人が同23.8%増(101→125社)、行政書士法人が同17.6%増(51→60社)と増加した。
 一方、特定目的会社が同44.0%減(159→89社)、集落単位で農家が農地を持ち寄り、農機具の共同所有や農作業を行う農事組合法人が同22.1%減(750→584社)、「士業」では税理士法人が同7.1%減(323→300社)、特定非営利活動法人(NPO法人)が同6.7%減(2,540→2,371社)だった。


 政府は2013年6月に新成長戦略「日本再興戦略」を閣議決定し、開業率を欧米並みの10%台に引き上げることを目標に、企業の新陳代謝を促進して経済を活性化する方針を打ち出した。
 だが、2016年の新設法人は、社数が7年連続で前年を上回ったものの、増加率は2.1%にとどまった。リーマン・ショック後では前年より減少した2009年を除いて、最も低い伸び率になり、目標達成は容易ではない。
 東京商工リサーチが算出した2016年都道府県別の法人全体に占める新設法人の割合(新設法人率)は、沖縄県、東京都、福岡県、千葉県など、人口増の都県(総務省人口推計・2016年10月現在)の比率が高かった。一方で、秋田県、新潟県、山形県、高知県などの人口減少県は比率が低く好対照をみせた。
 さらに、年齢別人口(総務省人口推計・2016年10月現在)でも、65歳以上の人口割合が30%を下回る、沖縄県(20.4%)、東京都(22.9%)、福岡県(26.6%)などは「新設法人率」が高いのに対し、65歳以上の人口割合が30%を超えた秋田県(34.7%)、長野県(30.7%)、新潟県(30.6%)などは「新設法人率」が低かった。
 新設法人などの起業促進は、人口減少や高齢化と関連性が高く人口問題と切り離せない。生産と消費、サービスの基盤を構築できないまま、補助金等で強引に開業率アップを図っても長続きは難しいだろう。まずは開業率を高める土台となる着実な地方底上げを急ぐべきだ。