【六川亨の日本サッカー見聞録】JリーグがタイでのTV放送を開始。成否を握るのは札幌加入のチャナティップか

写真拡大

▽Jリーグは昨18日、タイの大手衛星放送局TRUE VISIONSとJ1、J2、ルヴァンカップのテレビ放映を6月から開始することで合意に達し、バンコクで記者会見を開いた。過去にはJリーグ創設当初、ジーコやリネカー、リトバルスキーら外国人助っ人を補強したおかげで、ブラジルなどでテレビ放映されたこともあった。しかし長くは続かず、Jリーグの商品価値が落ちると海外でのテレビ放映は打ち切られた。

▽欧州や南米でJリーグの放映権を売るのは至難の業。そこでJリーグはアジア戦略を推進し、これまでにも各クラブはタイやカンボジアなどのクラブとパートナーシップを締結し、サッカー教室などを開催してきた。ただし、それは限定された活動であり、市場を拡大するまでには至らなかった。

▽転機となったのは今シーズンだ。J3の鹿児島が初めてタイ人選手(シティチョーク・パソ)を獲得。さらに札幌には今夏、タイ代表でもある人気選手のチャナティップ・ソングラシンのレンタル加入も決まっている。彼らがスタメンで活躍できるかどうかは分からないものの、かつてカズがイタリアへ渡り、その後は多くのJリーガーが参戦したことで、日本でも欧州リーグを見たいというファンが増えた。同様のケースを想定してのテレビ放映であり、タイで成功すれば、今後は東南アジア諸国に放映権を販売していくことだろう。

▽アジア戦略を重視するJリーグにとっては画期的な1歩と言えるが、不安がないわけではない。まずタイは、イングランドのプレミアリーグが一番人気で、目の肥えたファンをJリーグが獲得できるかどうか。そしてチャナティップ・ソングラシンに続くタイ人選手のJリーグ参戦があるのかどうか未定だからだ。

▽それというのもタイは、UAEなどの中東諸国と同様、国内リーグでかなり高額のサラリーを受け取っている。それと同額のサラリーを払ってまでJクラブが獲得に乗り出す可能性のあるタレントがいるのかどうか。現在、アルビレックス新潟シンガポールのチェアマンをつとめている是永氏は、「東南アジアのリーグでプレーしている選手は、まずタイのクラブに移籍することを目標にします。それはギャラが高額で、スター選手ともなれば衣食住も保証してくれるからです」と話していた。

▽まずはチャナティップ・ソングラシンが札幌で活躍することが、今回のテレビ放映の成否を握っていると言っていいだろう。そして18日に行われた記者会見には、懐かしい名前もあった。現在、タイサッカー協会の技術委員長を務めているヴィタヤ・ラオハクル氏だ。

▽同氏は1977-1978年の1シーズンをヤンマー(現C大阪)でプレーした、JSL(日本サッカーリーグ)史上初めてのアジア人の外国籍選手だった。その後は西ドイツのヘルタ・ベルリンへ移籍し、ヨーロッパのクラブでプレーする初めてのタイ人選手となった。晩年は松下電器(現G大阪)でヘッドコーチ兼選手として活躍し、1990年に引退後はタイ代表や鳥取(JFL)の監督などを務めたが、タイでの交通事故により鳥取の監督を辞任しなければならなかった。

▽日本とタイの橋渡しのパイオニアとなったヴィタヤ氏が健在なことも、今回のテレビ放映権の締結と無関係ではないような気がしてならない。【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。