「独りメシ」には慣れている YONHAP NEWS/AFLO

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 韓国の朴槿恵大統領が弾劾で罷免されたあげく、とうとう逮捕されてしまった。よってたかって“魔女狩り”というか何というか、韓国社会のああいう一気呵成の「ワーッ!」という現象は、振り返ってみるとどこか恐ろしい。わずか半年足らずの予想外の展開だ。誰も止められない。コリア・ウオッチャー(私・黒田勝弘)としては、あらためて肝に銘じておきたい。

 歴代大統領で逮捕されたのは彼女で3人目だが、先の全斗煥、盧泰愚は男で軍人上がりだった。2人はことさら苦痛ではなかっただろう。民主化という時代の変化を背景に、あらたに権力を握った政治勢力の“捕虜”になったようなものだ。惨めに思う必要はなかった。

 それに2人は軍隊生活や給食には慣れているので、獄中の「臭いメシ」にも違和感はなかった?

 ところが朴槿恵は女性である。世間知らずの“姫”育ちだったから獄中生活はつらいはずだ。

 彼女は政治的力不足はあったとしても、罷免させられるほどの悪を働いたわけではない。政治的非難、批判で済む話だ。それを無理やり(?)逮捕して獄に放り込むというのは、政治的魔女狩りの結果として“見せしめ”というほかない。

 そこで“魔女狩り快感”を高めるため、韓国マスコミは朴槿恵の獄中暮らしを、面白おかしく精力的に伝えている。見せしめだから当局も喜んで情報提供する。

 その関心ネタの一つが食事だ。収監初日の朝食は食パンにチーズとケチャップという質素なもので価格は1440ウォン(約140円)だったとか(未決の拘置所段階だから自前で間食の購入はできるが)。独房なので独りで食べて、規則に従い食器は自分で洗って戻したという。

 韓国は伝統的に「メシ食ったか?」の言葉があいさつ代わりの国だから食事は何よりも重要。そこで朴槿恵を「独りで食べるわずか140円の臭いメシ」で伝えることによって、その惨めさはいっそう印象的になる。

 ただ朴槿恵のために弁明すれば、彼女は「独りメシ(韓国語でホンバップという)」には慣れている。

 大統領在任中もそうだったが、公式行事の食事や公務中の会食以外は大統領官邸での「独りメシ」が習慣になっていたからだ。問題の40年来の悪友・崔順実がやってきても食事を共にすることはなかったという。

 ただ政治家にとっては食事は仕事の延長である。いつも誰かと食を共にしながら“政治”をやるものだが、彼女はそれがなかったため「不通(プルトン)」「孤独な女王」と悪口を言われ続けた。

 韓国人は人脈に生きる人たちだ。食事でも酒でもお茶でも、そして寝る時も、何をするにも連れ立ってやる。独りでは何もできない“さびしがり屋”だ。そのため、逆に独りメシは白い目で見られた。人との折り合いが悪い、性格に問題がある“欠陥人間”というわけだ。

 ところが「朴槿恵の独りメシ」の影響というわけではないが、韓国では最近、独りメシが急速に増えている。食堂でもコーヒーショップでも独り客が目につく。その結果、カウンター席など独り席の店が増えた。日本風の軽食系が人気なのもそのせいだ。社会や仕事の多様化、多忙化が背景のようだが、スマホの影響もあるかな。

 小じゃれた女性がレストランでワインを片手に独りメシという風景が、今や最先端のカッコいい女性だと、マスコミが競って伝えている。現代に生きる自立した強い女性というわけだ。朴槿恵はアルコールはたしなまなかったが、この際、その「独りメシ」はむしろ先駆的でカッコよかったのだと、思ってあげたい。

文■黒田勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)

【PROFILE】1941年生まれ。京都大学卒業。共同通信ソウル支局長、産経新聞ソウル支局長を経て産経新聞ソウル駐在客員論説委員。著書に『決定版どうしても“日本離れ”できない韓国』(文春新書)、『韓国はどこへ?』(海竜社)など多数。

※SAPIO2017年6月号