米国カリフォルニア州キャンプ・ペンドルトンで行われている米海兵隊の技術演習「S2ME2 ANTX」の様子。(出所:米海軍、U.S. Navy photo by Dawn M. Stankus/Released)


 陸上自衛隊の迷走が続いている。彼らの口癖は「予算がない、人員がない」である。その中で今年は「陸上自衛隊創隊以来の大改革」の実質的初年度であると言いながら、真っ先に手を付けたのは特別儀仗隊の制服を52年ぶりに一新することだった。予算は隊員280人分で計約1億4000万円というのだから、恐れ入る。2018年末には陸自のグリーンの制服を紫に変更するという話まで出ている。こちらの予算総額はいくらなのだろうか。

 別にコスプレ遊びをしているわけではないだろうが、陸自の決して本質的とは言えない「創設以来の大改革」をよそに、米国では米4軍で最も守旧的とされる海兵隊が革新的な技術を実戦投入すべく、果敢な模索を続けている。今回は米海兵隊の研究プロジェクトを紹介しよう。

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米海兵隊が50の新技術を実験

 米海兵隊は、2017年4月より「揚陸機動調査・実験 先進海洋技術試験2017」(S2ME2 ANTX:the Ship To Shore Maneuver Exploration and Experimentation Advanced Naval Technology Exercise 2017)と呼ばれる演習を9カ月の予定で開始した。

 この演習を米国の軍事専門誌「ブレーキングディフェンス」(3月23日、27日号)が報じている。それらを引用しつつ、本演習の意義を紹介しよう。

 第1に注目すべきなのは、この演習に対する国防総省と海兵隊の並々ならぬ熱意、そして技術開発の速度を加速させようという強力な意志である。

 通常、この種の技術演習は準備に18〜24カ月の期間を要する。だが、本演習の準備が始まったのは昨年夏だった。そして技術提案の募集を開始したのが10月だった。このように、本演習はこれまでにないスピードで実施にこぎつけた。本演習にかける海兵隊の強い意欲の表れと言えるだろう。

 第2に注目すべきなのは、「トライ&エラー」、つまり失敗することを前提としている点である。

 本演習で海兵隊は海軍および海兵隊内部等から100以上もの技術提案を採用した。50を今回の演習で実証実験し、残りの50は高官への展示のみを行うという。演習を取り仕切る担当者は「実験を行う50の技術は、おそらく早期に、かつ頻繁に失敗するだろう。だが、失敗はイノベーションの母である。もしも失敗しなければ、それは我々がきちんと仕事をしなかったということだ。この演習は、海兵隊が大規模な調達計画を決定する前の『失敗する時間』なのだ」と述べている。

 第3に注目すべきなのは、現在の戦略環境下で、いかに水陸両用作戦を成功させるかを課題にしている点だ。

 現在、中国、ロシア、イランがミサイル戦力を中核とするA2/AD戦力を獲得している。その状況下で、脆弱極まりない海兵隊の戦力をいかに展開させるか、という課題である。

 海兵隊の水陸両用作戦能力の脆弱さは、海兵隊が主力装備としているAAV7水陸両用車を見れば一目瞭然である。AAV7水陸両用車は、小銃弾しか跳ね返せず、対戦車ロケットでたやすく撃破される。しかも、水上では穏やかな時ですら時速13キロメートルときわめて鈍足で、波が高くなればより遅くなる。要するに「動く棺桶」でしかないのだ(このAAV7を、陸自は1両6億円以上で調達しようとしている)。

 他方、中国などは、今や目標を発見するためのセンサーとネットワークを保持し数百マイルの射程を持つ精密誘導巡航ミサイル、航空攻撃、潜水艦、無人機などを膨大に装備し、それらを一元的に運用するA2/AD戦力を備えている。これらに「動く棺桶」をそのまま突っ込ませれば、どうなるかは火を見るよりも明らかである。

 本演習の担当者もその状況を十分に承知しており、「かつては米国だけが精密誘導兵器を持ち、無人機を持っていた。制空権も制海権も当然だった。しかし今となっては、強襲揚陸能力を技術革新によって維持しなければならない」と述べている。要するに、中国やテロ組織の技術革新には米国の技術革新で立ち向かうというわけだ。

海兵隊の驚くべき兵器群

 さて、海兵隊はこうした問題意識のもとに、具体的にどのような兵器群を研究しているのだろうか。ここでは3つの兵器を紹介しよう。

 第1に挙げられるのが、「携帯3Dプリンタ工場(EXMAN)」である。本コラムでも繰り返し述べたように、米軍はこれまでのサプライチェーンを「サプライスポット」化しようと目論んでいる。EXMANには、標準的な輸送用容器に3Dプリンタ、3軸ミル/旋盤、3Dスキャナ、専用ソフトウエア付きワークステーション(高性能コンピュータ)などがセットで装備されている。海兵隊はこの工場を利用して最前線でも部品を作れるようにするという。

 第2に、価格がわずか600ドル(日本円にして約6.6万円、従来のパラシュート付貨物箱の1/3のコスト)という「格安ステルス輸送機(RAIN)」である。これはLogistics Gliders社が開発した「LG-1000」という機体で、オスプレイなどの輸送機から投下すると翼を生やして120キロメートル(東京〜軽井沢の距離に匹敵)先まで飛んでいくことができるグライダー無人輸送機である。

 LG-1000は1トンの荷物を積載でき、パラシュート投下と違って建物の間に着陸することもできる。また、金属を使用していないステルス機なので発見されにくい。中国やロシアなどが地対空ミサイル網で輸送機を撃墜しようとしても、米軍輸送機は射程外から大量の貨物箱をばら撒き、その貨物箱がグライダーに変形して発見されずに自動飛行するというわけである。

 第3は、ロボット兵器群である。手のひらサイズの偵察機から水陸両用車(攻撃を引き付けるおとりタイプも存在)までを無人化する実験を進めている。果ては超巨大なLCAC輸送ホバークラフトを無人化し、ロケット弾を大量に積み込んで対地攻撃をさせることも計画しているという。

技術開発への姿勢が大きく異なる海兵隊と自衛隊

 海兵隊は「米軍の中で、最も技術革新に後ろ向きの組織」だとして、米国内でしばしば批判的に語られることが多い。海兵隊員自身すら「自分たちは技術に対して保守的である」と認めることもままある。

 しかし、その海兵隊すら、中国やロシア等のA2/AD戦力の急速な拡充を認め、トライ&エラーを繰り返して新技術を実戦投入可能にしようと必死に努力している。技術開発上の失敗をなかったことにして、同じ失敗を繰り返す我が国とは大違いである。

 ジーン・スタックリー海軍長官代行は海兵隊の上記の演習を高く評価し、「この演習は、戦士たちが水陸両用強襲作戦に必要な新技術と革新的な技術を評価するためのまたとない機会を提供する」「我々は技術革新の速度をさらに高め、迅速にプロトタイプを作成し、急速に完成をさせていく」との声明を出している。

 他方、我が国の自衛隊はこうした取り組みをまったく行っていない。脆弱極まりないAAV7やオスプレイ、輸送艦などの水陸両用戦力を、どのように中国のA2/AD戦力から保護するかという取り組みも、まったく見えてこない。隊内での議論も乏しい。あまつさえ、何の意味があるのか分からない“新しい制服作り”に国民の血税を投入していそしんでいる。

 日清戦争直前、新興国の大日本帝国は急速な軍拡を実現し、老いたる大国の清朝は軍事費を頤和園建設に投入し、戦力が逆転したことで、日清戦争は日本の大勝利に終わった。これ以上は何も言うまい。

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筆者:部谷 直亮