AV出演に頷くと、急に動き出した。男性経験がほとんどなかった彼女は“ほぼ処女”と売り出された。
 「撮影は苦痛でしょうがなかったけど、現場には私の気持ちを共有してくれる人は誰もいなくて、みんな笑っていた。撮り直しは嫌だし、取り繕わなければ先に進まない。ノリノリな雰囲気を出したけど、本当に苦痛だった」

 女優が嫌がるから監督の裁量で撮影中止、みたいなことはありえない。撮影の段階でメーカーはプロダクションに出演料を支払い、スタッフなどの撮影経費が発生する。撮影に突入すれば、基本的には女優がどんな状態だろうと、乗り切るしかない。
 「精神的にも身体的にも、ドン底まで落ちました。自分がそこまで性行為をやらされると思っていなかったし、本当にツラかった。想像を超えていました」

 最終的に2本に出演、出演料はたった5万円だけだったという。
 「悪質なスカウトや事務所は、騙すことをやめて欲しいって気持ちだけ。自分はピュアで繊細な性格で、AV強要が原因で自殺する子もいるって聞いて、ドーンときた。騙され続けている女の子がたくさんいると思うし、それをなんとかしたい。デビューできるよ、音楽できるよって言われたら、本気にしちゃう女の子ってたくさんいる。100%信じちゃう子はいる。でも、嘘と分かった場合、あまりにもショックで自殺しちゃうのは理解できる」
 騙されて出演した上に、労働の対価が支払われないという被害に遭ったことが、告発を決意させている。

 AV業界は、違法な存在で地下に潜って活動するスカウトマンの管理はできない。出演を希望するAV女優が騙されていないか、AV業界が見抜くしかないが、それは難しい。社会問題化を受けて、一部の悪徳スカウトと関係を断ち切るために、スカウトへの依存をやめるしか方法はないが、AV業界は現状維持を続ける。
 政府はAV業界の対策をどうするのか、まだ審議中だ。

 AV業界が提案する対応策が受け入られなかった場合、法規制が入ることもありえる。現段階で規制される可能性が高いのは“本番禁止”“本番撮影現場への人材斡旋禁止”“女優から商品回収の要望があった場合、応じなければならない”“出演契約書は無効”などだ。本番撮影だけでは留まらず、フェラチオやクンニなど、性的類似行為まで禁じられる可能性もある。
 本番が禁止されれば、どう見積もっても大規模な客離れが起こる。AVメーカーと販売店は続々と潰れ、AV業界は大幅な市場縮小となる。

 長年、AV業界は他の行き場所がない人々のセーフティーネットとなってきた側面を持つ。厳しい法規制がかかっても作り続けるしかない。厳しい監視が入る“認定AV”から弾かれた関係者らが地下に潜り、出演強要、未成年、無修整など何でもありの違法承知の別のAV業界を作る可能性もある。
 需要が消えることのない欲望産業は、法律で締めつけたからといって消滅することはない。予断を許さない状況だ。