懸念された右手首の状態は、本人の「ほぼ100%」という言葉を素直に信じていいだろう。いや、それ以前に前日の練習で、スタン・ワウリンカ(スイス)と1時間以上にわたって戦った姿からも、不安はほとんど感じられなかった。”アニマル”の異名を取るほどの豪打自慢相手に見せた、実戦さながらの激しい打ち合い──。特に、心地よい快音を響かせてコーナーをとらえるサーブの速度が、状態のよさを誇るようだった。


右手首の状態に注目が集まった錦織圭だったが...... その好調のサーブが、この日の試合でも勝利のカギとなる。BNLイタリア国際の初戦(1回戦免除の2回戦)で相対したのは、先週のマドリード・マスターズでも当たったばかりのダビド・フェレール(スペイン)だった。

 両者の対戦は13を数え、過去には常に「身体を壊されるほど」の激しい死闘を強いられてきた相手だが、ここ8度の対戦で錦織圭が喫した敗戦はわずかに1。キャリアの節目節目で交錯し、自身の成長を測るヤードスティックのような存在であったフェレールは、それだけに手のうちを知る組みやすい相手かもしれない。典型的なクレーコートプレーヤーであるフェレールは、コートカバーの広さと粘りが身上。その相手に勝つだけなく、可能なかぎり試合時間を短くするためにも、サーブは重要なファクターだった。

 錦織が試合の流れを引き寄せた最初の機は、第1セットの第4ゲームを奪った最後のポイントだ。時速197キロのサーブで機先を制してラリーの主導権を握ると、深いフォアで相手をベースライン後方に押し込んだ後、ネット際に沈める柔らかなドロップショット……。これはフェレールもさすがの快足を飛ばして返すものの、それも予期していたかのように最後はバックの強打をオープンコートに叩き込む。フォアハンドで構築する早い展開と深いストローク、そして意表を突くドロップショット……赤土の上に絵筆を走らせるような自在のプレーが、錦織の創造性を際立たせた。

 もちろん、反省材料がなかったわけではない。特に第1セットのゲームカウント4-4の場面では、3本連続のブレークポイントを握りながらも、スマッシュのミスもあって逃す。

「あそこは獲りたかったですね。0-40ですごくチャンスでもあったし、特にスマッシュのミスであったり……」

 その落胆を引きずったか、続くゲームでは相手に2ポイント連取されて0-30となるも、ここで効力を発揮したのがサーブだ。切れ味のいいサーブをコーナーに打ち分け、2連続でサービスウイナー。その後も軽快にポイントを重ねて危機を脱すると、続くゲームをブレークする。

 浮き沈みの激しい展開ながら第1セットを取りきり、続く第2セットも最初のゲームをブレークした時点で、事実上の勝敗は決しただろう。終わってみれば7-5、6-2。試合時間1時間21分の快勝だった。

 先週のマドリードでは準々決勝を戦わずして棄権したため、今大会の出場にも直前まで慎重な姿勢を見せていた錦織。それでもコーチやトレーナーを含むチーム全体としての「大丈夫」との判断があり、錦織本人も「自信をつけてフレンチ(オープン)に挑みたいので、なるべく多くの試合ができるように今週はがんばりたい」と上位進出に意欲を燃やす。

 その上位進出の前に立ちはだかる関門が、次の3回戦で相対するフアン・マルティン・デル・ポトロ(アルゼンチン)だ。両者の初対戦は錦織が18歳、デル・ポトロ19歳時。そこから錦織が4連敗を喫したが、その後、デル・ポトロは度重なる左手首の手術のために長期間ツアーを離脱。約4年ぶりの対戦となった昨年10月、ついに錦織が初勝利を奪い取った同世代の強敵だ。

 デル・ポトロとの対戦は、かつては錦織にとって、大きな”チャレンジ”だった。だが今回の対戦では、依然ケガからの完全復活の道中にいるデル・ポトロのほうが、自身を挑戦者ととらえている。

「僕にとって、とても難しい試合になるだろう。彼(錦織)は勝利のために必要なすべてを備えているのだから。でも、クレーでの対戦は初めて。だから面白い試合になると思う。もちろん僕は、今日よりもさらにいいプレーをしなくてはいけない」

 謙虚に、しかしだからこそ油断なく、デル・ポトロは来る戦いに照準を合わせた。

 幾度も苦杯を舐めさせられてきた強打自慢の宿敵が、挑戦者として牙をむく──。それは、さらなる強さを求める錦織にとっても、新たな挑戦となる。

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