2011年にカナダで発見されたノドサウルス系の鎧竜恐竜の骨格化石。ミイラ化した恐竜化石は非常に珍しい。(c)Royal Tyrrell Museum

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ミイラ恐竜の大発見

 15日のNational Geographicに、カナダアルバータ州で“ミイラ化”した新種の鎧竜化石が発見されたことが発表されました。まるで彫刻のようなインパクトのある姿をとどめた化石発見は、今後の恐竜研究にどのような可能性を与えるのでしょうか。

 古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、報告します。

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 「一度(ひとたび)生を享け、滅せぬもののあるべきか」。織田信長が好んだというこの「人間50年」からはじまる有名な敦盛の唄の一節には、古今東西、時空を越えた人類共通の生命観のようなものひそんでいるようだ。

 しかし化石研究者は、長大な太古の時代から残された遺物 ― 化石 ─ に、何かしら「永遠の命」または「不老不死」のイメージをのぞいているのではないだろうか?たとえ非常に限られものしか化石記録として残らない運命(さだめ)だとしても。(化石として保存され、我々に発見される太古の生物は、確率として非常にわずかなもののはずだ。)

 化石記録において、時として我々の常識を大きく超えたものが発見される時がある。例えば以前に紹介した恐竜の皮膚の化石(こちら参照(https://thepage.jp/detail/20161024-00000013-wordleaf))や氷付けのマンモス(こちら参照(https://thepage.jp/detail/20170323-00000004-wordleaf))。最古の生物の記録も(その「古さ」という点において)、驚きに値する(こちら参照(https://thepage.jp/detail/20161013-00000009-wordleaf))。

 5月15日にNational Geographicにおいて発表された、「ミイラ化」した恐竜化石発見のニュースは、化石記録における我々の常識を大きく揺さぶるには十分すぎるインパクトを備えている。
http://www.nationalgeographic.com/magazine/2017/06/dinosaur-nodosaur-fossil-discovery/

 あらかじめ断っておきたい。これは優れた恐竜アーティスト ─ 例えば荒木一成氏のような ─ によって復元された模型ではない。本物の白亜紀の化石骨格なのだ。「事実は小説より奇なり」とはまさにこのことだろう。

 このミイラ化した恐竜の全身骨格の化石は、約1億1千万年前に死んだにもかかわらず、いまだに生きているようなたたずまいを備えている。「ふぅー」と今にも息をはき出しそうに(私には)映る。まさにミイラと呼ぶにふさわしい化石だ。

 立体感をそなえ、完全な形で残されている頭骨。首から背中と尻尾にかけてぎっしり並んでいる、大小さまざまな鎧状の硬質な皮膚の骨の数々。ほぼ全てそろっているこうした鎧の骨は、首から尻のあたりにかけて、きれいなつながったまま保存されている。その鎧の下には手足や脊椎などたくさんの骨が、岩石とともに隠れているそうだ。

 今回の発見は、世界中に多数ある今まで見つかってきた鎧竜の化石標本の中でも、「最高の保存状態」だという。

 この恐竜がどのようにして具体的に死に至ったのかは、今のところはっきり分かっていない。しかし硬い硬質の皮膚で(背中側が)覆われている鎧竜という条件を差し引いても、これだけ良質のミイラ化した保存状態は、化石研究者にとって望むべくもない。我々にとって望む限り「最高の骨格化石」の一つであるのは間違いないだろう。(顎や手足の骨の一部、または歯の化石一つ見つけただけで大喜びしている私にとっては、まるで夢物語のような発見だ。)

新種の鎧竜

 この化石骨格は2011年に鉱物の採掘地で、現場の従業員によって偶然発見された。すぐに博物館に連絡がとられ、発掘がはじまった。やがて博物館の化石修復ラボに運ばれてきた。この化石の硬い岩石などを骨から慎重に取り除く「クリーニング」とよばれる作業は、のべ9000時間がトータルで費やされたという。

 ちなみに上記のリンク(http://www.nationalgeographic.com/magazine/2017/06/dinosaur-nodosaur-fossil-discovery/)を通して多数の写真を見ることができる(興味のある方は是非閲覧をおすすめする)。ちなみにこのミイラ化した化石標本は、この夏カナダ・アルバータ州にある(恐竜研究のメッカとして名高い)「The Royal Tyrrell Museum」で直接見ることができるそうだ。夏休みにカナダのロッキー山脈のふもとで大自然を満喫しつつ、この「バッドランド」と呼ばれる独特の景観を備えた荒野の彼方に位置する町へ、足を向けてみてはいかがだろうか?

(博物館の公式サイトはこちらにて(http://www.tyrrellmuseum.com/))

 この化石骨格はノドサウルス科(Nodosauridae)に属する、一般に「鎧竜(よろいりゅう)」(注:正式には「曲竜類」Ankyolosauria)と呼ばれている恐竜の仲間だ。博物館の研究者は、今のところ新種新属と考えているそうだ。ノドサウルス類は、近縁のアンキロサウルス科(Ankylosauridae)の仲間と同様に、白亜紀を通し世界各地に繁栄していた四脚の草食恐竜だ。ノドサウルスの仲間は、体長5メートルに達する種もいた。アンキロサウルス科の種によくみられる、尻尾の先の棍棒のようなものを、ノドサウルスの仲間は持っていなかった。

 この骨格標本に見られるように、鎧竜の全身(=背中側)は戦車のように、骨質の鱗状の皮膚で覆われていた。鎧竜と呼ばれる名前の由来だ。こうした背中の鎧は、亀の甲羅のように大型肉食恐竜などの外敵から身を守るのに適していたと、一般に考えられている。

 さてこの惚れ惚れするような化石骨格が、サイエンス上、どうして重要となるのだろうか? 古生物学や生物進化を探求する際、何を直接学べられるのだろうか? 正式な研究の成果は近々発表されるであろう、同博物館所属のDr.Brown率いる研究チームのものを待つべきだ。いくつか私の思いつく点を、ここでいくつか記してみたい。

 鎧竜の鎧(骨化した皮膚)の化石は世界各地で見つかる。しかしこうした化石のほとんどが実は鎧の骨一つきりだ。(断片だけのケースも非常に多い。)こうした鎧の欠片(かけら)の一部を手にして、種や属の判定を行うことはかなり難しい。背中の具体的にどの部分に位置していたのか、こうした解剖学上の判定を下すことさえ不可能な時が多い。

 しかし今回発見されたような(全身の骨がほぼ揃いつながっている状態の)化石標本は、たくさんの解剖学上の貴重な情報を与えてくれるはずだ。背中にぎっしり詰まっている大小さまざまな形をした鱗状の骨の数々。こうしたピースを一つ一つ丁寧に調べれば、背中全体における具体的な特徴やパターンをつかむことができるだろう。

 古脊椎動物学において、解剖学上のデータや知識は、一連の形態がどのように変化(=進化)したのかを探る上でカギとなる。例えば、鎧竜は具体的にどのようにして、硬質の皮膚を手に入れたのだろか? 鎧は特定の地質年代及び環境下において、必要だったのだろうか? こうした重要な問いかけに対するヒント(のようなもの)を、我々に与えてくれるかもしれない。

ミイラ化した恐竜化石にみられるミステリー

 全身がきれいにつながった骨格化石からは、胃などに位置するモノ(内容物)も合わせて保存されているかもしれない。こうしたデータから、当時の鎧竜の食生活の様子を探ることもできるはずだ。ちなみに(興味深いことに)胃や腸の周りとみられる部位から、丸みを帯びた石ころの存在が多数確認されているそうだ(こちらのサイトの写真参照(http://www.nationalgeographic.com/magazine/2017/06/dinosaur-nodosaur-fossil-discovery/))。こうした体内に飲み込んで蓄えられた石は、(現生の一部の鳥などに見られるように)食物を消化する際に用いられていた可能性が高い。もちろん完璧に保存されているアゴと歯の化石からも、多くの重要な食生活に関するデータが手に入ることだろう。

 三次元的に保存されている立体的な化石骨格の中には、軟組織 ─ 例えば筋肉や消化器官等 ─ の跡が残っていないだろうか?「心臓の輪郭などでも残っていないだろうか」と、私は自分勝手に期待してしまう。しかしこれだけの大きさの化石骨格だと、病院のCTスキャンなどでは小さすぎて間に合わないだろう(注:化石の重量約1.5トン、長さ約5.5m)。何か最新のテクノロジーを用いて、貴重な化石を切り刻まずに岩石の中を調べるいい方法はないものだろうか。

 きれいに保存されている鎧だが、表面に引っかき傷のような跡は残っていないだろうか? 肉食恐竜と格闘した際の名残がないか、(個人的に)気になるところだ。爪によるものだろうか、それとも歯によるものになるのだろうか?

 もしかして卵の化石か赤ちゃん恐竜の骨が、母体の中に残っていないだろうか?(注:オスの場合は当然こうした跡は見られないはずだ。)思いつくままにいろいろ書き連ねてみたが、この骨格化石には、非常にたくさんの恐竜の進化や生態におけるミステリーが隠されているのは間違いないだろう。

 古代エジプト人は死体をミイラとして処理することで、その後数千年に渡って保存することに成功した。何かしら神秘的なパワーを得ようとしたのだろうか。不老不死の理念を実現しようと試みたのだろうか。しかし自然の力によっても、ミイラ及び死蝋(しろう)が形成される可能性があることは、今回の発見でも明らかだ。(注:その他にもいくつかミイラ化した恐竜化石の存在は知られている。)1億年以上も前に死んだ動物の死体が、現在、ミイラ化した化石として見つかる ── こうした事実を前にして、古代エジプト人ははたしてどのような反応を示すのだろうか?

 追:今回この記事を書くに当たってカナダのアルバータ州にあるThe Royal Tyrrell Museumから、直接この化石標本のイメージ(写真)を使わせていただく許可を得ることができた。同博物館のスタッフの方にこの場をかりて深くお礼を述べさせて頂きたい。(Special thanks go to Dr. Caleb Brown and Ms. Carrie Lunde!)