トンネルの崩壊」という非常に単純なシチュエーションを扱いつつ、最後まで観客を引きずり回すディザスタームービーの良作。それが『トンネル 闇に鎖された男』である。


閉所恐怖症になりそうな最悪の密室サバイバル


舞台は現代の韓国。カーディーラーに勤務する営業マンのイ・ジョンスは、娘の誕生日を祝うべく家路を急いでいた。しかし車が山道に入りトンネルに差し掛かった時、轟音と揺れが襲いかかる。全長2km近いトンネルが崩壊したのだ。なすすべなく車ごと生き埋めになるジョンス。手元にあるのは水の500mlペットボトルが2本、電池残量78%の携帯電話、そして娘のために買ったケーキが1ホールだけ。一方トンネル崩壊の現場に駆けつけた救助隊長のキムたちが目の当たりにしたのは、想像を絶する崩落現場の惨状だった。果たしてジョンスは生きて妻と娘の元に戻ることができるのか! というお話である。

文字にしてしまえば単純なストーリー。しかし、生き埋めのシチュエーションは徹底して怖く、さながらホラー映画である。ジョンスは車に乗っている状態で崩れたトンネルのコンクリート壁に埋まってしまうので、身動きできる空間はひしゃげた車内のみ。明かりは車の車内灯だけ。おまけに視界の聞かない暗闇の向こう側からガラガラと何かが崩れる音だけが聞こえてくる。閉所恐怖症の人は見ると体調を崩すのでは……? という情け容赦のない最悪の密室描写だ。

この身動きすら取れない車の中で、なんとか生き抜くためのサバイバルが展開される。携帯のバッテリーをどう保たせ、残り少ない水をどう配分するか。限られたリソースを活かしてサバイバルするという状況設定は、昨年の『オデッセイ』を思わせるものがある(あっちは火星だったけど)。思わぬアクシデントの連続に必死で対応する感じも、かなり『オデッセイ』っぽい。とにかく映画ないのルールとシチュエーションがはっきりしているので、見ているだけで自然に感情移入できるのはお見事である。

一方地上でも極限の人間ドラマが……


生き埋めになってしまったジョンスのサバイバルと並行して描かれるのが、地上での救助隊の悪戦苦闘、そして周囲の人々の身勝手さだ。

救助隊の隊長キムはジョンスを救出するために全力で体を張るのだが、周囲のマスコミは無遠慮な行動をとる。ジョンスの携帯のバッテリーは限られているのに勝手に彼に電話をかけ、救急隊のドローンをトンネル内部に飛ばす時には後ろから大量にドローンを飛ばして追いかけ、事件をセンセーショナルなニュースに仕立てて世論を煽る。

その上、自分のことしか考えない救助隊の長官や、崩落したトンネル近くでの第二トンネルの爆破工事再開を進めたい政治家といった権力者たちが、救出計画に横槍を入れる。これらの各勢力に翻弄されながらなんとかジョンスを助け出そうとするキムと、疲弊しながらも夫の生還を待つ気丈な妻セヒョンのドラマは社会派っぽい手触り。畳み掛けるような救助妨害の連打と生き埋めになったジョンスが並行して描かれることで、「どっちも限界」という雰囲気を盛り上げる。

というわけで、崩壊したトンネル内のサバイバル部分と地上での人間ドラマが交錯するのがこの『トンネル』の大きな見所。身悶えするような閉所の恐怖と、最後まで観客をハラハラさせながら突っ走るストーリーテリングが見事な作品である。映画全体にもしっかりお金がかかっててトンネル崩壊のシーンなど派手な部分でもチープさは全くなし。娯楽作でありながらマスコミや政治家への批判も盛り込んであるという、なかなか贅沢な一本なのだ。
(しげる)