「粗大ゴミ」でもわかる経済の読み解き方

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現在の「アベノミクス景気」が、「いざなぎ景気」の57カ月を抜き、戦後最長の景気拡大となりそうです。しかしそうした実感はあるでしょうか。三井住友アセットマネジメントの宅森昭吉チーフエコノミストは、「不安心理」「小数点第2位」「粗大ゴミ」というユニークな視点からその中身を読み解きます。身近な社会データからみえてくる日本経済の実力とは――。

■日銀の景気判断は「拡大」に

2012年12月から始まった「アベノミクス景気」は17年2月分まで景気拡張局面だとすると51カ月の長さになり、戦後3番目の長さであった86年12月から始まったバブル景気の51カ月に並んだ。景気動向指数の3月分でも「改善」判断になるとみられ、単独3位の52カ月間の景気拡張期間になっているものと思われる。さらに、今年の11月上旬に発表される9月分まで「改善」が続くと、65年11月から始まった「いざなぎ景気」の57カ月を抜き、景気拡張の長さは戦後単独第2位の58カ月となる。

景気拡張の長さは戦後単独第2位と言っても「景気が良い」という実感に乏しい人も多いと思われる。これは景気動向指数を使った景気判断は景気局面を谷から山の「拡張」・山から谷の「後退」の2局面に分ける、景気変化の方向性を重視した判断だからだ。緩やかでも上向きの状況が続けば景気拡張局面だ。今回の景気拡張も、昨年秋まで約1年半もの「足踏み」状況が続いたように、極めて緩やかなものだ。

■「好況」と「不況」だけではない

2局面分割の他に景気判断は4局面分割の考え方もある。4局面分割は、正常な水準から出発して、好況(拡大)、後退、不況(収縮)、回復の各局面を経て、再びスタートに戻ると考えるものだ。日本銀行が4月27日発表の「展望レポート」の景気の総括判断を「緩やかな拡大に転じつつある」に上方修正した。「拡大」はリーマン・ショック前となる08年3月以来9年ぶりで、好調な海外経済を背景にした輸出や生産が堅調な中で、判断を一歩前進させたとみられる。

景気判断をこれまでの「回復」から「拡大」に強めたのは、景気は上向いている中、日銀の需給ギャップは16年7〜9月期で+0.09%と15年1〜3月期以来のプラスに転じ、10〜12月期で+0.61%になった(図表1)ことを正常な水準に戻ったとみて、4局面分割的視点から、判断を強めたものと考えられる。

■景気ウォッチャーでは「不安」が強い

但し、「景気ウォッチャー調査」をみると、直近3月調査の現状判断DI(季節調整値)は前月差1.2ポイント低下の47.4で、先行き判断DI(季節調整値)は前月差2.5ポイント低下の48.1となった。なお、原数値でみると、現状判断DIは前月差2.1ポイント上昇の50.6となり、先行き判断DIは前月差2.5ポイント低下の49.0となった。

いずれにしろ、景気判断ははっきりしない状況だ。“景気ウォッチャー調査の見方”に対する内閣府の判断は「持ち直しが続いているものの引き続き一服感がみられる。……」となった。「一服感」は1月以降3カ月連続して使われている。

景気ウォッチャーの使用している言葉を分析し、景況感の足を引っ張っているものを探るキーワード分析を行ってみると、1月の段階では就任したばかりで大統領令を多発したことなどもあり「米国大統領」が挙げられたが、2月・3月ではそれといったものはない(図表2)。「不安」という言葉が漠然と使われるケースが多い。先行き不安といっても国際情勢や、少子高齢化が進む中での年金等の問題、天候不順への懸念など様々なものがあるだろうが、何に対して不安なのかはっきりしない。具体的に「北朝鮮」や「テロ」などの言葉を挙げた人はほとんどいない状況だ。4月後半の日経経済新聞では「円安」記事数が「円高」記事数を3月前半以来上回り、円高から円安方向の転換を示唆している。

■鉱工業生産はみかけより上向き

よほどの外生的ショックがなければ、今年秋に「いざなぎ景気」超えを果たしそうなのは、景気の一致系列の最重要指標の鉱工業生産指数が増加基調にあるからだ。スマートフォンの需要は世界的に今年も強い。在庫循環的に、17年1〜3月期の出荷の前年同期比は+3.6%とプラス、在庫は同▲3.3%のマイナスで「意図せざる在庫減局面」で生産が増加しやすい。

そうは言っても、直近3月速報分の鉱工業生産指数の前月比は▲2.1%と2カ月ぶりの減少、最近月をみても2月の前月比は+3.2%と増加だったが、1月は▲2.1%の減少では、見かけからみて生産が強いと思えないという人も多いだろう。

昨年の愛知製鋼の爆発事故、熊本地震などの影響が残り、季節調整値は月々の振れが出やすい状況のようだ。加えて中華圏の春節の時期が昨年比でズレたことも影響していよう。3月分速報値の鉱工業生産指数の前年同月比は+3.3%と5カ月連続の増加になった。振れが少なく基調判断に適した前年同月比をみると、生産の増加基調が続いていることが確認できる。経済産業省の基調判断は16年11月分〜17年3月分まで5カ月連続「総じてみれば、生産は持ち直しの動きがみられる」という判断になっている。

経済産業省の鉱工業生産指数の先行き試算値では、4月分の前月比は最頻値で+5.3%、90%の確率に収まる範囲で+4.3%〜+6.4%と高い伸び率となっている。製造工業生産予測指数の前月比+8.9%よりは下振れるものの、4月分は高い伸び率が予測されている。昨年4月の熊本地震も影響していそうだ。

先行きの鉱工業生産指数4月分・5月分を製造工業予測指数前月比(+8.9%、▲3.7%)で延長し、6月分を横這いとした場合、4〜6月期の前期比は+5.9%の増加になる見込みだ。一方、4月分を先行き試算値最頻値前月比(+5.3%)、5月分は予測指数の前月比で延長し、6月分を横這いとした場合は4〜6月期の前期比は+2.4%の増加になる見込みだ。いずれにしてもかなり堅調な前期比になりそうだ。

鉱工業生産指数は、17年1〜3月期の前期比+0.1%と若干のプラスだが、3月分確報値の指数が0.2ポイントの低下・前月比▲2.3%までの下方修正にとどまれば前期比+0.1%のプラスの伸び率を維持できる。16年4〜6月期以降17年4〜6月期にかけ前期比プラスは5四半期連続になる。

■経済統計は「小数点第2位」までみる

なお、最近、詳細にみると、新聞の見出しとは異なった面が見える統計が多い。たとえば、「3月分の完全失業率は2.8%で低水準ながら2月分と同水準にとどまった」というのが一般的な見方であろう。

しかし、小数点第2位までみると1月分で2.95%、2月分2.84%、3月分2.75%で、ほぼ0.1%ずつ毎月着実に低下しているのである。2.8%は94年6月分以来だが、2.75%としてみると93年11月分の2.74%以来の低水準になる。

また、3月調査の日銀短観、大企業・製造業・業況判断DIは+12で、先行きが+11に低下している(図表3)。このため新聞報道では「海外の政治情勢などが見極めづらく、先行きには慎重な見方も根強い」とやや悲観的な見方が書かれていた。

ここで内訳をみると景色が変わってみえる。製造業は素材業種と加工業種の他の項目はなく2つに分かれる。素材業種と加工業種の現状の業況判断DIはともに+12である。製造業全体の業況判断DI+12と一致する。先行きの判断DIは素材業種と加工業種ともに+12で現状と、どちらも変わらない。しかし、両者を合わせた製造業は+11に低下する。「慎重な見方も根強い」と書くほど実態は弱くはないかもしれない。

■「粗大ゴミ」でテレビ需要がわかる

1作業日当たりの粗大ゴミ(東京23区清掃一部事務組合)の前年同月比の推移(図表4)をみると、戦後1番目の長さの「いざなみ景気」の景気局面の終盤の06〜07年にプラスの山がある。その後08年のリーマン・ショックの後に09〜11年にかけて大きなプラスの山がある。そして消費税引き上げにより、14年〜15年にかけてマイナスの谷がある。しかし駆け込み需要が出てもおかしくなかった13年には大きな動きはない。

粗大ゴミの動きは耐久消費財の動きを裏面から見るようなものだ。09年〜11年にかけ家電エコポイント制度が実施され、家電合計で約4500万件、中でもカラーテレビは約3,200万件の申請があった。カラーテレビの平均使用年数は8〜9年程度のようだ(図表5)。

今年3月の調査では約3分の2が故障による買い替えだ。09〜11年に需要の山があったと考えると、今年や来年あたりからカラーテレビの買い替え需要が出てきて景気の下支え要因になりそうだ。

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宅森昭吉(たくもり・あきよし)
三井住友アセットマネジメント 理事・チーフエコノミスト。三井銀行(現・三井住友銀行)で都市銀行初のマーケットエコノミストを務める。さくら証券チーフエコノミストなどを経て現職。パイオニアである日本の月次経済指標予測に定評がある。身近な社会データを予告信号とする、経済・金融のナウキャスト的予測手法を開発。その他、「景気ウォッチャー調査」などの開発・改善に取り組んできており、最近では政府の経済統計改革にも参画。「景気循環学会」常務理事。著書に『ジンクスで読む日本経済』(東洋経済新報社)など。

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(三井住友アセットマネジメント 理事・チーフエコノミスト 宅森 昭吉)