大前研一氏が「ギグ・エコノミー」について解説

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 インターネットの発達によって人々の生活は大きく変わってきた。そして、仕事のやり方も根本から変わろうとしている。経営コンサルタントの大前研一氏が、ネット経由のフリーランサーとして、年間億円単位で稼ぐ人も現れた新しい経済の形「ギグ・エコノミー」について解説する。

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 欧米で「ギグ・エコノミー(Gig Economy/単発請負型経済)」が拡大している。ギグ・エコノミーとは、インターネットを通じて単発の仕事を請け負う労働形態、およびそれによって成り立つ経済のことで、代表的な例はスマートフォンを活用した配車サービス「ウーバー(Uber)」のドライバー、民泊サイト「エアビーアンドビー(Airbnb)」のホスト、ネット経由で企業からデザインやコンテンツ制作、システム開発、翻訳といった業務を受注する専門職のフリーランサーなどである。

 ちなみに「ギグ」は、もともとジャズミュージシャンが使い始めたスラングで、一度だけの短いセッションをやること。それが転じて「単発の仕事」という意味で使われるようになったのである。

 そもそもアメリカでは20年くらい前に、ニューヨークなどに住んでいた人々がコロラド州などに続々と移住して仕事するようになった。ネットとパソコンの普及によって、いつでもどこでも仕事ができるようになった職種の人たちが大移動し、SOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)が隆盛した時期があった。

 金融業界も様変わりしている。お金の運用はもはや場所を選ばなくなった。たとえば、アメリカのゴールドマン・サックスでは株式売買の自動化システム導入により、以前は600人いたトレーダーが今は数人に減ったという。本社機能以外のかなりの部分はコンピューターによる高速取引で代替されたし、運用の基本的な作業はウォール・ストリートにいる必要がなくなったからだ。このため富裕層相手のファンド・マネージャーの多くはニューヨークからボストンに移住した。

 ともすればクラウドソーシングの仕事はブラックになりがちだが、アップワークには世界屈指のプログラマーも多い。だから、たとえばニューヨーク証券取引所に上場しているベラルーシのソフトウェア会社「EPAMシステムズ」は、人が足りなくなった時はアップワークで補充している。世界の最適人材を必要な時に必要なだけ使っているわけで、もはや自社の社員にこだわったり、手配師になって丸投げ外注したりしている時代ではないのである。

 一方、アップワークの登録者は、お客さんから高い評価を得れば時給がどんどん上がっていくので、最も優秀な人はおそらく年間億円単位で稼げている。

 ギグの良い点は、時間と場所の制約から解放されるということだ。その仕事ができればどこにいてもかまわないので、通勤しなくてよいし、コアタイムや会議も必要ない。「成果」だけでつながればよいのである。

 安倍晋三首相は「非正規を正規に」などと言っているがむしろ今は正社員のほうが使えない時代になっている。「君はトランペットを吹けるのか、それともサックスか?」と聞いても、「私は総合職ですから……」と言って何の役にも立たない輩があふれている。

 したがって、これから日本企業は正社員を思い切り減らして優秀なギグを世界中から(ネットで)集めるべきであり、そうなれば大きい成果を出すフリーランサーのほうが正社員より高給をもらえる時代がやってくるだろう。

※週刊ポスト2017年5月26日号