金正恩氏

金正恩党委員長は、北朝鮮住民が脱北しようとすることを非常に嫌っている。彼の意を汲んで北朝鮮当局もありとあらゆる手段を使って、脱北行為を未然に防ごうとしている。金正恩氏は、なぜそこまで脱北を嫌うのだろうか。

女子大生を拷問

金正恩氏が脱北を嫌う理由の一つに、自分が統治する体制から逃げた──すなわち、面子を汚されたという屈辱があるだろう。それに加えて、外国の様々な情報や娯楽コンテンツが北朝鮮に流入する過程で、脱北者や中朝を往来する北朝鮮住民が、橋渡し役になっていることもあるようだ。

たとえば北朝鮮当局は、韓流ドラマやハリウッド映画など、外国の自由で豊かな社会の実像を伝えるものが入り込むことに、極めてナーバスになっている。こうした情報が体制不安につながりかねないと考えるからだ。

韓流ドラマに関しては、そのファイルを保有していたという容疑だけで女子大生を拷問し、悲劇的な末路に追い込むほど、残忍な方法で対処する。

また、北朝鮮体制の内幕や、金正恩氏の恥部情報が外部に流出していることもある。たとえば、金正恩氏は、現地指導などで遠出をする際、トイレで不自由な思いをしているという。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

最高指導者のトップシークレットに関わる情報も脱北者の持つ独自ルートを通じてもたらされることが多い。

こうしたことも含めて、金正恩氏はなんとかして脱北を防止したいようだ。そして防止するための一つの手段なのかもしれないが、北朝鮮当局が国境地帯にブービートラップを仕掛けているという。

地雷が爆発する瞬間

国境警備隊で勤務経験を持つ脱北者のAさんは、東亜日報系のテレビ局、チャンネルAの「今、会いに行きます」に出演した際、国境地帯に「足竹」と呼ばれるブービートラップが仕掛けられていると証言した。

このブービートラップは、竹の側面に釘を差して置いてある。踏み抜けば釘は足首に達し、容易に抜けない。そのため、足の切断を余儀なくされることもあるという残忍な罠だ。

1990年代中盤に導入されたが、金正日体制下では脱北者の取り締まりが緩かったため、多くは仕掛けられていなかったが、金正恩体制に入ってから急増したという。

実は、北朝鮮は中朝国境ではなく、南北軍事境界線付近で似たようなことをしている。

2015年8月、韓国京畿道(キョンギド)の非武装地帯(DMZ)内で北朝鮮が仕掛けた地雷が爆発し、韓国軍兵士の身体が吹き飛ばされる事件が起きた。

韓国政府はこの事件について「北朝鮮による挑発」と位置付けていたが、筆者は北朝鮮が朝鮮人民軍(北朝鮮軍)兵士の脱走を防止するために仕掛けたと見ている。地雷が爆発する瞬間のショッキングな映像は韓国軍によって公開された。

筆者も、中朝国境地帯を取材する中で、鉄条網や監視カメラが設置されるなど、年々脱北防止策が厳しくなっていることは確認している。

それでも、数の増減はあれど、脱北を完全に防ぐことは不可能なようだ。

かつて脱北者と言えば、飢えから逃れるためやむにやまれず国境を越えた人が多かった。それが最近では家族のより良い未来のため、時間をかけて綿密に準備した上で国境を越える。そして、情報の流出入によって北朝鮮住民の外部社会に対する関心が高まり、さらに脱北をしようとする人が増えるという、脱北を嫌う金正恩氏にとっては都合の悪いサイクルになっているようだ。

いくらブービートラップを仕掛けようと、閉塞感漂う北朝鮮社会から自由な社会へ行って新たな人生を築きたいと願う北朝鮮住民の意思は止められない。