北朝鮮による核弾頭搭載大陸間弾道ミサイル(ICBM)の完成がいよいよ現実的になってきたため、トランプ政権は軍事攻撃というオプションをちらつかせながら本腰を入れて北朝鮮に強力な圧力をかけ始めた。

 日本政府も、北朝鮮のICBM開発の進捗状況は日本にとって「新たな脅威レベル」であると認識し、アメリカの北朝鮮への軍事的威嚇に協力する動きを見せている。

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アメリカに貢献する日本

 具体的には、北朝鮮威嚇のために出動してきたアメリカ海軍カール・ビンソン空母打撃群が日本近海に近づくと、日本政府は海自駆逐艦を派遣して護衛に当たらせた(下の写真)。アメリカ海軍にとって、空母打撃群の護衛を海自駆逐艦によって増強してもらうことは、大いなる戦力の節約になる。

米空母カール・ビンソンを護衛する海自駆逐艦あしがら、同さみだれ(写真米海軍)


(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の写真をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50018)

 また日本国防当局には、「新たな脅威レベル」である北朝鮮弾道ミサイルを迎撃するという名目で、弾道ミサイル防衛システム(BMD)の増強を加速させようという動きが表立ってきている。THAADあるいはイージス・アショアといった超高額兵器システムである。それらのBMDはアメリカ製であるため、日本がBMDを調達すればアメリカ防衛産業は大いに潤うことになる。

 日本がアメリカ海軍の戦力の節約に寄与し、アメリカ防衛産業の懐を肥えさせれば、たしかに日米同盟の強化にプラスになると言えなくはない。「アメリカの国益からは大変ありがたいのだが、日本の防衛という視点から見ると、昨今の日本政府の姿勢に疑問を呈せざるをえない」とする米軍関係戦略家は少なくない。つまり「日本政府は日本国民よりもアメリカを向いているとしか思えない」というのだ。

アメリカの軍事攻撃が日本への反撃を引き起こす

 日本政府は地方自治体などに対して、北朝鮮の弾道ミサイルが着弾した際の対処方針を広報するよう指示を発した。北朝鮮のミサイルの脅威が現実のものとして迫っていると受け止めた人は多いだろう。

 だが、これこそが、日本政府が日本国民の生命財産の保護を最優先させるのではなく「アメリカの都合第一」という姿勢を取っていることを如実に物語っている。

 そもそも北朝鮮には、日本に弾道ミサイルを撃ち込んで先制攻撃する理由など存在しない。

 日本と北朝鮮の間には拉致問題という深刻な問題が横たわっているが、拉致問題を巡って日本と北朝鮮の間に武力衝突が発生するのは、日本側が日本国民奪還のために軍事行動を起こした場合に限られる。ただし、拉致問題解決のために日本政府が軍事行動を発動することは、当面のところ絶対にあり得ない。

 ところが、日本が北朝鮮を軍事攻撃しなくても、日本に対して北朝鮮の弾道ミサイルが撃ち込まれる可能性がある。それは、アメリカが北朝鮮を軍事攻撃した場合である。

 本コラムでも述べたように(本コラム3月30日「」、4月13日「」など)、アメリカが北朝鮮に軍事攻撃を仕掛けた場合、間髪を入れずに韓国・ソウル周辺は北朝鮮軍の猛烈な砲撃により火の海と化すことはほぼ確実である。そして極めて高い確率で日本に対しても50〜100発程度の弾道ミサイルが撃ち込まれるものと考えられている。

 要するに、日本に北朝鮮弾道ミサイルが撃ち込まれるのは、アメリカによる北朝鮮に対する軍事攻撃が実施された場合だけと言っても過言ではない。

自国民が犠牲になってもアメリカを支える日本政府

 トランプ政権が北朝鮮に対して軍事攻撃を実施するそぶりを見ると、日本政府はただちにアメリカ政府を支持する方針を公言した。だが、それは日本の国土が反撃を受けることを日本政府が受け入れたということにも等しい。

「日本国民を守るつもりならば、『日本や韓国を犠牲にしてまでも軍事攻撃を実施するのか?』とトランプ政権に対して不信を表明すべきであった。不信を表明しなかったのは、独立国の政府としてははなはだ不思議な態度である」と上記の戦略家たちは首をかしげる。

 それどころか、日本国民に対して「弾道ミサイルが着弾した場合の行動指針」という訳のわからない内容の注意喚起まで行っている。このような政府広報を発するということは、アメリカによる北朝鮮に対する軍事攻撃を日本政府は容認していた何よりもの証拠である。

 つまり「日本政府は、日本国民の生命財産を危険にさらしても、アメリカ政府の方針に全面的に追従するという、独立国としては理解に苦しむ態度を取った」ということになる。

北朝鮮の脅威を言い立ててBMDを売り込め

 また、北朝鮮の弾道ミサイルが飛来しかねないということで、弾道ミサイル防衛システムの強化をさらに推進しようという動きも活発になってきているが、これも「アメリカの都合第一」に依って立つ姿勢と言わざるを得ない。

 なぜならば、北朝鮮の弾道ミサイルが日本に飛来する原因をつくり出すのは、アメリカによる北朝鮮に対する軍事攻撃だけだからだ。その結果として日本に飛来してくるであろう北朝鮮軍の弾道ミサイルを迎撃するためのBMDを、アメリカが日本に売り込もうとしているというわけである。

 アメリカが主導して開発を進めているBMDプログラムは、アメリカ(厳密にはアメリカ本土48州)をICBM攻撃から守るために開発されており、5〜7段階の防御ラインから構築されている。その中からイージスBMD艦とPAC-3だけを取り出して日本に配備しているのが日本のBMDプログラムである。

 要するに、アメリカを守るために開発されているBMDプログラムの最初と最後のBMDだけを配備しているのが日本の弾道ミサイル防衛プログラムなのだ。アメリカのようには迎撃効果が期待できないのは当然といえる。

 それにもかかわらず、アメリカ政府が北朝鮮のICBM(そもそもICBMは日本攻撃には用いられることはない)開発を「新たなレベルの脅威」と呼んだことをそのまま日本に適用し、超高額兵器であるBMDを増強しようとしている日本政府は、まさにアメリカにとっては“かけがえのない協力者”(すなわち“単なるお人好し”)ということになる。

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筆者:北村 淳