5月10日から12日にかけて東京ビックサイトで開催された日本最大のIT専門展「Japan IT Week 春 2017」。同イベントの一貫として、旅行業界大手の株式会社エイチ・アイ・エスの取締役CIOと、ハウステンボス株式会社CTOを兼任する富田直美氏(以下、富田氏)による特別講演『AI、ロボット、IoTの活かし方〜店舗運営の未来を語る〜』が行われた。

講演の開始とともに、セグウェイに乗って現れた富田直美氏。来場者の度肝を抜いた


講演では、富田氏がCTOを務めるハウステンボスで実施している自動化やロボット化を通じて、高い生産性を生み出す取り組みを紹介。ハウステンボスでの事業を通して、富田氏が経験したことを軸に講演が進んだ。

講演のメインテーマは『ハウステンボスの事実』について。ハウステンボスといえば、25年間赤字続きで2003年に経営破綻。6年前から、エイチ・アイ・エスの澤田秀雄会長(以下、澤田氏)が経営を引き継いだテーマパークだ。

 

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ハウステンボスはなぜV字回復できたのか

世の中では澤田氏の手腕によってV字回復したというイメージが強いものの、「事実はちょっと違う」と話す富田氏。V字回復することができたのは、ハウステンボスが“本物”へのこだわりを持っていた場所だったからなのだという。

長崎オランダ村株式会社は、長崎県佐世保市にあるハウステンボスの土地を25年前に買い上げた。建設当時、“環境を改善する未来都市を作る”というコンセプトが掲げられ、ヘドロまみれだった土をすべて取り除き、樹木や草木を植えるなど環境づくりに尽力。2100億円かけて、地下にゴミ処理場を建設し、地下にケーブルを流して電柱や電線をなくしオランダの街並みを再現した。

その後“本物”を追い求めて破綻してしまったハウステンボスだが、2010年から澤田会長による経営支援が開始される。

「経営を引き継いだ澤田さんは、経費を2割カットし、集客を2割増やすなどの施策を実施。今では本体のエイチ・アイ・エスを超える100億円の利益を上げることに成功しました。そうして得た利益は、ロボット事業、植物工場、エネルギー技術に使われています」

25年前にヘドロだらけだった土地には一年中花が咲き誇り、富田氏が開発したハイブリットドローンが飛び交う、唯一無二のテーマパークに進化を遂げたのだ。

 

世界初のロボットが働くホテル「変なホテル」を開業

現在、ハウステンボスには多くのロボットと遊ぶことができるアトラクション「ロボットの王国」をはじめ、ドローンの操縦体験や搭乗型移動支援ロボット「ワンダーホイール」の搭乗体験ができるエリアを設けるなど、最先端技術体験の場としても人気を博している。

そして、富田氏は2015年にオープンした「変なホテル」のアドバイザーとして、ハウステンボスの運営に携わることになったという。

「『ロボットが活躍するホテルを作ろう』というコンセプトのもとに生まれたのが『変なホテル』です。とても無謀なプロジェクトでしたが、まずは未完成なものをサービスとして提供することにしました」

「変なホテル」のコンセプトは、常に変化をし続けること。そのため、最初から完璧ホテルサービスを提供するのではなく、未完成のまま宿泊してもらうというかたちでオープンしたという。

「開業当初は、ひどいところだらけでした。お客さんからは『このロボットおもしろいけど、ちょっと動きが遅いよね』というように、どんどん意見が寄せられました。そうして指摘された欠点を、チーム全員で話し合って変えていったのです」

“完璧なサービスを提供するべき”という、これまでの既成概念を覆した「変なホテル」は、2016年に「世界で初めてのロボットがマネージするホテル」というギネスレコードに認定された。

「日本人は、変化に対してあまりいいイメージを持っていない人が多いですよね。でも、誰にも打ち破られることのない“世界初”に認定されたのは、この変化にこそあると思っています」

富田氏らの変化を恐れない姿勢によって、変なホテルには今もロボットの数が増え続けているという。

「開業時に6種類82台だったロボットの数も今では、25種類200台以上のロボットがスタッフとして働いてます。僕のお気に入りは、芝刈りロボット。雨の日も風の日も、文句ひとつ言わずに芝を刈る姿がとても健気でかわいいんです」

そして、オープン時には30人ほど勤務していた従業員は、2017年5月現在では7人にまで数を減らしている。人件費の大幅カットにより、生産性も右肩上がり。今年3月には、千葉県浦安市に2棟目の「変なホテル舞浜東京ベイ」がオープンし話題となった。

「これから先、他社からもロボットホテルはどんどん増えると思います。しかし、ロボットホテルがスタンダードになったとしても、ロボットが提供できるサービスは三ツ星まででしょう。澤田さんも言っていることですが、四ツ星以上のホテルには人の温かみが必要になるはずです」

ロボットがすべてを担うのではなく、人間とともに共存していくヒントが「変なホテル」には隠されているのかもしれない。

 

人を幸せにする会社「ハピロボ」設立の意図とは

富田氏は、エイチ・アイ・エスグループのテクノロジー全般を統括し、ハウステンボスのCTOを務める傍ら、今年2月からはエイチ・アイ・エスが手がけるベンチャー企業hapi-robo st(以下、ハピロボ)の代表取締役社長としても活躍している。

「ハピロボではロボット開発会社に、実証実験の場としてハウステンボスを提供しています。私有地のハウステンボスはセグウェイや私が開発したドローンはもちろん、開発中のロボットを使うことも可能なのです」

ハピロボでは、開発会社から日々新たなロボットが持ち込まれ、ハウステンボス内で実証実験をおこなっているという。法規制が厳しく、ロボットの実証実験が難しい日本ならではの事業だ。

「企業から持ち込まれたロボットには、私がダメ出しをします。企業側は欠点を改善してから再チャレンジしてくれる。もちろん、いいロボットはハウステンボスで使用します。これが実証実験のあるべき姿なのです。ひとつの企業のテクノロジーだけでは難しい“進化”も、いろいろな企業のテクノロジーや意見を重ねることで、大きなテクノロジーになるのです」

次世代ロボットのプラットホームとなり開発会社の相談役となるのが、ハピロボの役目だという。さらにいえば、IoTやロボットを使う人々すべてのサポートをしたい、と富田氏。

「ハピロボは人を幸せにする会社です。テクノロジーを使って人にラクをさせるのではなく、人を幸せにするのが目的です。人々が自らロボットやIoTを使って幸せになる方法を考えるときの手助けをする会社を目指しています」

最後に「人を幸せにするテクノロジーとの付き合い方を考えるのは人。ぜひ考える力を養ってほしい」と強く語り、講演を締めくくった。
 

筆者:Kayo Majima (Seidansha)