この4月に大きなヤマ場を迎えた北朝鮮と米国の軍事衝突の危機はひとまず通り過ぎた。核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射強行の可能性を横目でにらみながら、今後はしばらくの間、「外交の季節」となる模様だ。もちろん、単純な「対話」ではなく複雑で難解な経済制裁をめぐる「やりとり」の局面が、今後半年から一年間にわたり続くことになる。

外交モードも強気の対応

他方、この制裁期間に合わせて、北朝鮮は「外交モード」に切り替える様相を見せている。その兆候なのだろう、2017年4月開催の最高人民会議(国会)で「外交委員会」が19年ぶりに復活した。

ただし、同委員会の復活が、6カ国協議への復帰や日朝交渉の再開など、平和外交に転じる軟化の兆しと見るのは早計だ。むしろ「堂々たる核保有国の地位にふさわしい外交」、つまり力を背景にした強気の外交を繰り出すことに真意がある。核保有国の米国や中国とは対等にわたり合う一方、核を持たない韓国や日本には「核の優位」を誇示する高圧的な外交を展開する腹積もりとみられる。

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その片りんは、既にうかがうことができる。金正男氏暗殺事件をめぐっては、平壌駐在のマレーシア大使館員を「人質」に取り、長年の友好国であるマレーシア政府の捜査要求にほとんど応じなかった。恒例の米豪合同軍事演習の機会には、北朝鮮はオーストラリアに「核攻撃」の脅しを公然とかけている。

その一方で、経済制裁の強化をめぐり、北朝鮮は最近、中国を名指しで激しく非難している。そこには「無謀な妄動がもたらす重大な結果」や「破局的な事態」などの異様な表現が並ぶ。核武装を背景にした北朝鮮の脅し文句だ。

危機の現実の直視を

ともかく、一時的ではあれ軍事的衝突の危機は先送りとなった。関係国としては、これによって生まれた時間の余裕を有効に使い、経済制裁の効果を見守りつつ、直面する危機の現実を吟味し直す作業が急がれる。それが近い将来に再び訪れるであろう大きな危機に備えることにつながる。

一触即発の危機感を反映して、北朝鮮問題が専門ではない学者や評論家が多数加わり、各種メディアに解説や提言があふれた。うなずけるものもあるが、首をかしげたくなる議論も多い。20年以上も前に散々語られた非現実的な議論が蒸し返されていた。軍事衝突の初日だけでソウルで100万人以上の犠牲者が発生する、あるいは日本に10万人以上の北朝鮮難民が大量に流入する――。これらの議論は根拠が著しく乏しいか、根拠を一切欠いている。常識的に見てあり得ない想定を積み重ねてつくり上げられた「物語」だ。現実的な想定で計算し直せば、被害規模は少なくとも3桁は縮むとみられる。

李英和(関西大学教授)※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載