出鱈目な健康情報が出来上がる過程がここに

写真拡大

2017年5月15日、「鼻くそを食べることは健康によく、歯を虫歯から守る」という冗談ともニュースとも判断しかねる情報がネットニュースから出され、いくつかのまとめサイトやツイッター上でも面白おかしく取り上げられている。

調べてみると、5月5日(現地時間)ごろに英デイリー・メール紙オンライン版をはじめとする海外のタブロイド紙が同様のニュースを報じており、発端となっているようだ。中には「論文が発表された」と報じている記事もあるが、真相はどうなのか。

ハーバード大やマサチューセッツ工科大の研究?

まずデイリー・メールの記事を読むと「Why picking your nose and eating it could be good for your health: Bogey bacteria may boost your immune system and it's great for your teeth(なぜ鼻をほじって食べるのが健康によいのか:鼻くそのバクテリアが免疫システムを高め歯によい効果をもたらす)」と題して、カナダのサスカチュワン大学に在籍しているスコット・ナッパー教授のコメントとマサチューセッツ工科大学の研究結果とされる内容を記載している。どちらも「鼻にたまった細菌などを鼻くそとして食べれば免疫系が改善できる」という趣旨だ。

そこで、ナッパー教授の名前や「鼻をほじる」「鼻くそ」といったキーワードで海外の新聞などを調べてみると、5月5日付のデイリー・テレグラフによる「Eating bogies is good for teeth and overall health, scientists conclude(鼻くそを食べることは歯や健康に良いと科学者が結論)」という記事が確認された。

こちらはより詳細になっており、「ハーバード大学の研究者らが鼻水を食べることは歯の健康に良いと米微生物学会誌で発表し、鼻くその成分を含む歯磨き粉やガムを開発しようとしている」という情報とともに、前述のナッパー教授のコメントが掲載されている。しかし、米微生物学会誌の論文を「鼻水」や「鼻くそ」といったキーワードで検索したもののそれらしき論文は確認できなかった。

今度はナッパー教授の名前でウェブ検索を行ったところ、2013年4月にカナダのテレビ局がナッパー教授に取材を行った記事が出てきた。記事の中でナッパー教授は「大学の粘液に関する講義で学生が退屈そうにしていたので、『(細菌に曝露した粘液の残りかすである)鼻くそを食べれば予防接種のように機能して免疫系の改善につながるかもしれない。鼻くそは甘いだろう』と話した」と答えており、冗談として話したが検証する価値はあるかもしれないとしている。サスカチュワン大学のウェブサイトに掲載されているナッパー教授の業績を確認する限り、5月16日現在までに鼻くそを食べることによる健康効果の論文はないようだ。

そもそも鼻水は関係なかった

該当する論文が見当たらずフェイクニュースかと思われたが、豪州の健康情報メディアが4月23日に発表した記事からようやく判明した。記事の内容は鼻水に含まれる成分が虫歯から歯を保護するというもので、専門家のコメントとして「鼻水は細菌に対するフィルターであり、鼻水が腸に入ればワクチンなどと同様の効果があるのではないか」という意見が掲載されている。ここから情報が転載されていくうちに、鼻くそを食べるという話になってしまったのだろうか。

この記事で元ネタとなっている2014年に米微生物学会誌に掲載された論文「Salivary mucins protect surfaces from colonization by cariogenic bacteria.」を読んでみると、そもそも鼻水の話ではなく口や食道、胃、腸などの粘膜を覆う粘液に含まれる「MUC5B」という成分が、虫歯の原因菌から歯を守るという内容だった。著者はハーバード大学とマサチューセッツ工科大学に在籍する2人の研究者で、MUC5Bに関する論文を2017年5月11日にも別の専門誌で発表しているが、やはり鼻水の話ではない。

どうしてMUC5Bという成分が鼻水になってしまったのかは不明だが、誤解したまま伝言ゲームのように広がり、ナッパー教授の発言などが加わって誤った情報がニュースになってしまったというのが真相のようだ。