5月10日、厚生労働省労働基準局監督課が、「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として法令違反した企業名を初めて公表した。2016年10月1日以降に労働基準関係法令に違反し、書類送検した334件(社数は332社)を同省ホームページ上に掲載している。社名一覧の公表は2016年12月に同省が発表した「過労死等ゼロ」緊急対策の一環で、違反企業は毎月定期的に掲載する。
 東京商工リサーチでは、今回公表された労働基準関係法令に違反し書類送検された334件(332社)について分析した。違反企業の産業別では、建設業が115社(構成比34.6%)と3割を占めた。次いで、製造業76社(同22.8%)、サービス業他68社(同20.4%)の順だった。売上高別では、10億円未満が164社(同67.2%)と圧倒的に多く、100億円以上は21社(同8.6%)にとどまった。
 政府が積極的に「働き方改革」を推進し、社会的に違法な労働環境を許さない気運も高まり、劣悪な労働環境を強いる企業への風当たりは厳しくなっている。一方、今回の公表企業は、下請けや厳しい過当競争を強いられるサービス業などの小規模事業者が大半を占めている。広く警鐘を鳴らす目的でスタートした一覧公表だが、値下げ圧力のなかで受注や納期、利益確保に向けて取り組まなければならない中小・零細企業の厳しい現実を浮き彫りにもしている。こうした法令違反の企業名公表が、産業界の構造的な問題にどこまで踏み込んでいけるか今後の展開が注目される。


  • 本調査は厚生労働省が5月10日にホームページ上に掲載した「労働基準関係法令違反に係る公表事案」で公表された違反企業332社について、TSR企業データベース(309万社)から産業別、業種別、売上高別などで分析した。

「労働安全衛生法違反」が最多の6割

 一覧公表された334件のうち、違反した労働基準関係法令の内訳は、労働安全衛生法違反が211件(構成比59.1%)で6割を占めた。建設作業現場や製造現場などでの安全管理義務を怠ったことで事故が発生したケースが中心になっている。
 次いで、違法な長時間労働などの労働基準法違反が63件(同17.6%)、賃金未払いや最低賃金を遵守しない最低賃金法違反が62件(同17.3%)と続く。
 また、その他法(2件、0.5%)は、粉塵による疾病予防と健康管理が義務付けられているじん肺法違反と、家内労働者(内職者)保護を目的としている家内労働法違反が各1件。


  • 一覧公表されている334件のうち、複数の法令に違反しているケースがあり、法令違反の総数は357件。

建設業、製造業、サービス業他の3産業が突出

 社名公表された332社のうち、産業別で最多は建設業で115社(構成比34.6%)だった。次いで、製造業の76社(同22.8%)、サービス業他68社(同20.4%)の3産業が突出し、この3産業で全体の約8割(同78.0%)を占めた。
 建設業と製造業の合計191社では、労働安全衛生法違反が156社(同81.6%)と8割に達した。

労働基準関係法令違反 一覧公表企業 産業別

労働基準法違反企業はサービス業他が最多の4割

 社会問題化している時間外労働の割増賃金未払いや36協定無視など、長時間労働に関する労働基準法違反は63社だった。
 63社の産業別内訳は、最多がサービス業他26社(構成比41.2%)で4割を超えた。女性社員が違法な長時間労働で過労死し、社長の引責辞任に発展した広告最大手の(株)電通もこの中に含まれる。
 労働基準法に違反したサービス業他26社では、最多は縫製加工業の8社。次いで、飲食業が4社、医療・介護サービスが4社と続き、業種に偏りがみられる。

労働基準法違反63社 産業別内訳

売上高10億円未満の中小・零細規模が7割

 公表332社のうち、売上高が判明した244社を売上高でみると、1〜5億円未満が77社(構成比31.5%)と最も多く、次いで、1億円未満が58社(同23.7%)、10〜50億円未満が43社(同17.6%)と続く。
 売上高10億円未満の中小・零細企業が164社(同67.2%)と、全体の約7割を占めた。なお、売上高が判明しない企業の多くは個人企業などで、労働基準関係法令の違反企業は中堅以下の小規模企業に集中している実態が浮き彫りとなった。
 一方、売上高100億円以上は21社(同8.6%)だった。売上高の最大企業はパナソニック(株)で、富山県内の工場で労働者3名に36協定の延長時間を超える違法な時間外労働を行わせたとして労働基準法違反で書類送検された。次いで、日本郵便(株)は新大阪郵便局で休業4日以上の労働災害が発生したが、労働者死傷病報告を提出しなかった。

労働基準関係法令違反 一覧公表企業 売上高別

 今回社名を公表された332社のうち、倒産企業は16社(負債1千万円未満を含む)、休廃業・解散は判明分で2社、合計18社(構成比5.4%)が含まれ、大半は小・零細企業だった。また、売上高10億円未満の企業が約7割を占め、業績悪化や資金力の乏しさが労働基準関係法令の違反に直接、間接に繋がった可能性も示唆している。事業維持のため、従業員の犠牲のもとで経営が成り立っている構図も浮き彫りにしており、受注先や消費者に左右される中小・零細企業の苦境を反映している。


 2016年12月に厚生労働省が取り決めた「過労死等ゼロ」緊急対策では、特に違法な長時間労働を許さない取り組みが強化されている。これまで事業場単位で行われていた労働基準監督署の監督指導が、本社など全社的に指導・立入調査が行われる。また、違法な長時間労働でも是正指導段階で企業名を公表(過去実績1件)する際の要件をより厳しくする措置も予定されている。
 今回の一覧公表は、政府の進める「働き方改革」に繋がっている。企業名公表を受け、今後は多くの企業が労働環境や条件の見直し、在宅勤務など従業員の働き方そのものの改革に着手するだろう。ただ、改革に着手できるのは業績が安定し、経営的にも資金的にも人的にも余裕のある大企業に限られるとの指摘もあり、国内の企業全体への浸透はまだ入口に立ったに過ぎない。
 違法な労働条件を許さない世論や風潮は着実に広がっている。それだけに労働基準関係法令の違反企業は、今後はより厳しい社会的制裁を避けて通れない。社名公表は信用に直結するリスクだけに、規模の大小を問わず最優先課題として取り組む姿勢が求められている。