予選7位――。フェルナンド・アロンソはマクラーレン・ホンダのマシンを駆って、母国スペインで驚異的な走りを見せた。

 もちろん、それはミラクルでもミステリーでもなく、技術的な裏づけによって評価されるべきものだ。つまり、マクラーレン・ホンダはこれだけ進化を果たしてきたのだ。


驚異的な走りで3強に次ぐ予選7番手に食い込んだアロンソ「アップデートはきちんと機能してくれたし、風が強くてトリッキーな今日のコンディションでも、僕はクルマに自信を持って走ることができた。クルマの挙動はとてもよかったんだ。だから予選のアタックでさらにコンマ数秒を縮めるための自信を与えてくれた。おかげで走るたびにどんどんリスクを負って攻めることができたんだ」

 ヨーロッパに戻りシーズンが本格的に始まる第5戦・スペインGPに、マクラーレンはより複雑なフォルムとなったフロントウイング、コンパクトに絞り込んだリアカウル、空力効率を高めたリアウイング、さらにディフューザーの小改良など、さまざまなアップデートを持ち込んだ。

 ホンダもICE(エンジン本体)の開発を制限する封印がなされていない範囲で吸気系とインジェクターを刷新し、「スペック2」へと進化させてきた。これだけでラップタイムにして約0.13秒、出力にして10kW(約13.6馬力)近い性能向上を果たしたという。一般的なパワーユニットの年間を通しての向上幅が30〜50馬力だから、これは決して小さな進歩ではない。

「アップデートの内容は昨年のイギリスGPに投入したスペック2と同じようなものですが、出力向上幅はそれよりも大きいくらいです。シーズン中のアップデートとしては十分に大きいものだと言えます。特に低回転側の出力が大きく上がっているので、その効果として回転数のオシレーション(共振)がかなり改善されていることはデータからも明らかです」(ホンダ長谷川祐介F1総責任者)

 こうしたアップデートの効果が、予選7位という結果につながった。これはつまり、メルセデスAMG、フェラーリ、レッドブルの3強チーム6台に次ぐポジションなのだ。

 しかし、手放しで喜んでばかりもいられない。2強がほぼ同等、レッドブルが0.5秒差につけているのに対して、マクラーレン・ホンダは1.899秒差も離されており、さらにそこから0.2秒以内にフォースインディア、ウイリアムズ、ハース、ルノーがひしめいているからだ。

 予選後に上機嫌だったアロンソ自身も、そのことを指摘した。

「まだトップとは2秒の差があるんだ。これは大きな差だ。パワーユニットで何秒失っているかはわかっているし、シャシーとしてはコンペティティブ(競争力がある状態)で満足しているけど、まだ完璧ではないし、空力的にもメカニカル的にも改善すべきところはある。他チームから頭ひとつ抜け出しているメルセデスAMGやフェラーリに追いつくためには、もっと努力が必要だ。だけど、僕らも車体としては彼らの背後に追いつくことは可能だと思うよ」

 パワーサーキットのロシア(ソチ・アウトドローム)では首位メルセデスAMGに3秒差をつけられ、「ストレートだけで3秒失っている」とホンダのパワー不足に不満をぶつけたアロンソだったが、本当にパワーユニットでどれだけのロスを強いられているのかというと、マクラーレンのチーフエンジニアリングオフィサーとして開発の中枢にいるマット・モリスは苦笑いをした。

「我々はメルセデスAMGに対して70kWの差を背負っている。彼らは予選で15〜20kWも出力を伸ばしてくるからね。ソチはパワーエフェクト(出力がタイムに与える影響)が大きく、通常約0.2秒/10kWのところが約0.25秒/10kWにもなる。ということは……計算すればわかるよね?」

 つまりは、ロシアGPでは3秒差のうち1.75秒がパワーユニット、残り1.25秒が車体の差だったという。車体性能としては「レッドブルには及ばない4番手」(モリス)であり、ウイリアムズやルノーなど中団勢との差もかなり小さかった。

 これがスペインGPのアップデートによって、どう変わったのか。

 バルセロナはモナコ、シンガポール、ハンガリーに次いで4番目にパワーエフェクトが小さいサーキットで、通常の約0.2秒/10kWよりも小さい。70kW(=バルセロナで約1.05秒)あったパワーユニットの差は、今回のアップデートによって0.95秒程度にまで縮まり、残り0.95秒は車体の差ということになる。

 ちなみにメルセデスAMGとフェラーリのパワーユニット性能はいまや同等で、ルノーもバルセロナ換算で0.3秒差にいる。これをもとに算出すれば、車体性能ではフェラーリとメルセデスAMGが僅差でワンツー、レッドブルも0.2秒差まで大きく肉薄し、それに次いで0.95秒差のマクラーレンがいる。ウイリアムズやフォースインディアなど中団勢は1.6〜1.7秒差で大きく遅れている。

 つまり、マクラーレンは車体面でもそれだけ中団勢よりも大きな進歩を果たしたということになる。

 金曜フリー走行では、走り出してすぐにアロンソのパワーユニットが派手なブローに見舞われて「エンジンの下にぽっかり穴が空いていた」(長谷川総責任者)という事態に陥った。だが、ピットガレージは慌ててはいなかった。

「最初にオイルフィードポンプが壊れたようです。それで油圧が落ちて、すぐに止めてくれと指示を出したんですがそのまま走ってしまったので、その結果としてエンジンブローが起きました。完全に油圧がなくなったところで普通にシフトアップして、回転数を全開まで上げてストレートを走っていってしまったので……」

 そうなってしまった理由は、マシンデータをリアルタイムで監視するテレメトリーの電波がしばらく途切れ、電波が戻ったときにはすでに油圧がゼロになっていたこと、そのせいでエンジニアからの「止めろ」という指示が遅れたこと、そしてそれを聞いたドライバーがすぐにスロットルを緩めなかったことが合わさって起きたオペレーション上の問題だ。また、昨年まではステアリング上にあった警告灯を今年は使わないようにしていたことも影響した。


ピットストップ直後の不運も重なり入賞の望みは絶たれてしまった いずれにしても、ポンプが壊れたことは事実で、ポンプを交換すればまた普通に使えたはずのパワーユニットが1基丸々失われてしまったことも事実だ。

「問題そのものはたいしたものではなくても、今のように毎レースでトラブルが起きてしまうと、ドライバーにとっては非常にフラストレーションが溜まりますし、なにより信頼できないという風になってしまいます。そちらのほうが深刻だと思っています。彼らの不信感に対しては、なによりもまず結果で応えるしかないと思っています」(長谷川総責任者)

「ポイントが獲れない理由はない」とアロンソが7番グリッドから臨んだ決勝は、スタート直後の攻防のなかでの接触からコースオフして後退。その後、ハースに引っかかったためアンダーカット狙いで2ストップから3ストップに戦略を変更し、早めにピットインしたものの、今度はトロロッソに引っかかってしまった。さらに2回目のピットストップ直後にはストフェル・バンドーンが接触でリタイアし、その事故処理のために出たVSC(バーチャルセーフティカー)でライバルたちがタイムロスなくピットインを済ませたため、アロンソの入賞の望みは完全に絶たれてしまった。

「これじゃ走る意味がない」

 失望感から戦うモチベーションを失いかけたアロンソだったが、最後にソフトタイヤを履いてファステストラップを狙いにいき、最終ラップにトップから0.301秒差の4番手タイムを記録してなんとか溜飲を下げた。

「ターン2でフェリペ(・マッサ/ウイリアムズ)と接触してしまったのは少し不運だったし、ピットストップの後にクビアト(トロロッソ)の後ろで長く過ごしすぎた。僕らのレースは予定どおりに行かなかった。でもそれは別にしても、今日の僕らにはポイントを獲るだけの十分な速さがなかったと思うよ。レースペースが遅すぎて1ポイントも獲ることができなかった。少しガッカリしているよ」

 レースを終えた直後のアロンソは失望の表情でそう語ったが、レース後のデブリーフィングで分析した結果、普通にレースができていればフォースインディア勢に次ぐ6位でフィニッシュしていた、という結論に至った。ただし、それも上位3台がリタイアしたからでしかない。

 それでも、マシンパッケージとしての進化には手応えがあった。エンジンブローをした直後ですら、アロンソは週末に向けてポジティブな見通しを持っていたくらいだ。

「レース週末全体としてはポジティブだった。ポイントを獲ることはできなかったけど、昨日はいい走りができたし、今日は完走できたからいい場面もいくつかあったし、前進したと言える。僕らの”新しいチャンピオンシップ”は第一歩を踏み出したと言えるんじゃないかな」

 車体もパワーユニットもオペレーションも、何もかもが熟成不足のままで迎えたマクラーレン・ホンダの2017年シーズンは、ようやくここから再出発を切ることができそうだ。

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