東京大学医学部2号館(より)


 4月26日号で『認定料目当てに早くも贅沢三昧、日本専門医機構』という文章を発表し、日本専門医機構(以下、機構)のガバナンスを批判した。

 この中で、機構は収入がないのに、賃料が1坪あたり12万6421円の東京フォーラムに事務所を借り、交通費3699万円、会議費463万円の「無駄遣い」をしていることを紹介した。その後、私のところには様々な情報提供が寄せられた。

 「我々は、間違ったことはしていない。お金の問題は一切ない」と連絡してきた大学教授もいた。「19領域の学会関係者が関わるので、年間に3699万円もの交通費が必要になったのでしょう」という教授もいた。

 もちろん、こんな説明は通用しない。

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こっそり退職していた事務局長

 そもそも、19領域の学会関係者の議論に機構が旅費を支給する必要はないし、仮にそうだとしたら、機構は最初から予算に計上すればいい。年初に計上された交通費の予算は1万円なのだから、「使途不明」と言われても仕方ない。

 私のところに寄せられた連絡の多くは、このように中味のないものだったが、例外もあった。知人の専門医機構関係者からは「事務局体制がお粗末で、特に事務局長が、がんでした」と連絡があった。

 この人物のことを調べたらK氏だった。どのような経緯かは分からないが、昨年末に機構を退職していた。

 このK氏は医療ガバナンスの研究者の間では知らない人がいない有名人だ。1994年に自治医大を揺るがした「茎崎病院事件」で「中心的役割を果たしたとされる人物」(『選択』2013年9月号)とされている。

 この事件では自治医大が医師派遣の見返りとして金銭授受を行っていたことが分かっている。併せて同時期に資産運用の失敗や二重帳簿が内部告発によって問題化している。

 金銭の授受については、多くのメディアが報じ、K氏も「15万円を7〜8回にわたって受け取ったのは事実」(朝日新聞1994年2月22日)と認めている。

 その後、K氏は、自治医大関連の「地域医学研究基金」へ出向している。

 前出の『選択』2013年9月号では、「このK(筆者変更。本文では実名)を重用したのが高久(筆者注;郄久史麿・日本医学会会長)である。Kはその後も専門医制評価・認定機構や、医療安全全国共同行動の事務局を仕切ると同時に、会長選で高久の集票マシーンとして動いた」と説明されている。

 新専門医制度は医師派遣を通じて、大きな利権を生み出す。その事務局を、かつて医師派遣で金銭的問題の「前科」のある人物が仕切っていた。これは、一般的な社会常識と乖離する。

地域医療振興協会との利益相反も

 問題は、これだけではない。理事長を務める吉村博邦氏の肩書きだ。

 吉村氏は昭和41年に東京大学医学部を卒業した胸部外科医で、北里大学の医学部長を務めた。ただ、現在の主たる肩書きは地域医療振興協会の顧問だ。

 同協会が経営する練馬光が丘病院で、呼吸器外科の外来を担当している。同病院は、2011年に日本大学から運営権を引き継ぐ際に、必要な医師数が揃えられなかったことで社会の批判を浴びた。

 地域医療振興協会は、自治医大の卒業生が中心となって立ち上げた組織だ。事務局は千代田区平河町の都道府県会館の中にある。同じフロアには、自治医科大学も入居している。

 会長を務めるのは郄久氏だ。理事には自治医大と東大卒業生が名を連ねる。

 この組織は経常収入1123億円を上げる巨大グループで、その中核事業は、医師派遣・診療支援事業だ。機構の仕事と見事に重なる。

 機構の理事長である吉村氏が、地域医療振興協会の顧問を務めることは、常識的に考えて利益相反だ。

 このように専門医制度のことを調べると、自治医大・東大関係者の陰がちらつく。郄久氏を頂点としたピラミッドがお手盛りで決めているように見える。有力者が密室ですべてを決める点は、自民党の派閥全盛時代を髣髴させる。

 情報開示が進んだ昨今、こんなやり方は通用しない。

組織は頭から腐る

 前回もご紹介したが、郄久氏は2016年6月18日に公開されたエムスリーのインタビューで「立ち止まっていたら、きりがなく、財政的にももたなくなる」と語っていた。従来のようなごり押しが効かなくなっていることを認めている。

 私は郄久氏のことを尊敬している。本当に実力のある人物だ。戦後の日本の医学界を、現在のレベルにまで押し上げたのは彼の功績だ。

 残念なのは、彼の弟子に人材が育たなかったこと。彼をかつぎ、そのやり方をそのまま踏襲したが、いつの間にか時代に合わなくなった。その時に、どうすればいいか、郄久氏のように柔軟に対応できない。

 新専門医制度は、その象徴だ。

 厚労省と医学会が一致して決めたことが、在野の医師が反発し、それが国民に伝わり、抜本的見直しを余儀なくされつつある。

 どうして、医療界の合意を形成するか。時代に見合った透明でオープンなやり方を確立しなければならない。

筆者:上 昌広