「Thinkstock」より

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●貧乏が怖いとリスクがとれない

 拙著『20代のいま、やっておくべきお金のこと』(ダイヤモンド社)のプロローグで、私は「貧乏は財産だ。金持ちではない親に感謝しよう!」と書いた。

 たとえば、子どもの頃から必要なもの欲しいものはすべて与えてもらって不自由がない、いい学校からいい会社に入って高い給料をもらうというのは、一見よさそうだが、実はそうでもない。冒険ができない体質になりやすく、今を手放してリスクがとることができなくなる。

 やりたいことが今の会社の外にあっても、1000万円の給料が300万円に、場合によってはゼロになるリスクがあると、動けない。今の快適な生活を失うなんて、想像できない。これからもずっと、安全な道、保証されたことだけを選んで生きていくことになる。これは、あまりエキサイティングな人生とはいえない。小さな失敗で絶望してしまう人もいる。

 しかし、貧乏な生活を経験したことがあれば違う。狭くても古くても住む場所を見つけて、月10万円でなんとか生きていける。頭と体と行動力はある。友達もいる。「失敗してもなんとかなるさ」とリスクをとることができる。貧乏生活に陥ってもあきらめず、希望をなくさずに進んでいくことができる。

 日本でも世界でも、成功者の多くはリスクをとって自分のビジネスをスタートさせ、浮き沈みを経験して乗り越えてきた人たちだ。


●耳の聞こえない両親のもとで育った女の子の話

 最近、このことを実感する話を聞いた。

 この女の子は、耳の聞こえない両親の家に生まれた。両親は高校までで、大学卒の学歴がないので、彼女が物心ついた頃から、生活のために忙しく働いていた。韓国の話。

 やがて弟が生まれる。幸運なことに子どもは2人とも耳が聞こえた。2人は両親から手話を学び、テレビや近所の人たちから話し言葉を学んだ。両親は不在がちだったので、テレビが2人の友達で先生だった。彼女は特にドキュメンタリー番組を愛した。見たことのない世界、会ったことのない人たちを彼女に紹介してくれた。

 高校生のとき、彼女は学校に行くのをやめた。不登校。韓国の学校教育は、日本以上の受験文化、詰め込み教育だという。彼女は読みたい本ややりたいことがあったのに、高校に行って言われた通りに勉強をしていたら、自分のやりたいことをやる時間がない、と気付いたのだ。学校に行くのをやめて読みたい本を読んだ。

 そして、彼女は旅行に出ようと思い立ち、カンボジアやベトナム、タイやマレーシアに行った。小さいときに学校以外、近所の人やテレビからいろいろなことを学んだように、異国の旅先で出会う人々から、旅そのものから、多くのことが学べるはずと確信したのだ。

 でも、お金はなかった。両親は朝から晩まで働いていたが、家族4人が生活するだけで精一杯だった。16歳の彼女は、自分の旅の計画をつくり、分厚いフォルダーにして、資金を出してくれそうなところを回った。高校の先生がメンターになってくれた。何カ所も回って、お金が集まった。最初はひとり旅に反対した両親も、計画ができ資金が集まったときには、何も言わず送り出してくれた。彼女は8週間の旅に出た。

 そして、自分の旅の経験をもとに、ドキュメンタリー映画を撮りたいと思った。学校の外で、旅が、道が、子どもたちにいろいろなことを教えてくれる。そのことを世の中の人に伝えたいと思った。

●映像で伝えたいことがある

 彼女は最低限の機材を揃えて、映画を撮り始めた。17歳。『Road-Schooler(道路がいろんなことを教えてくれる学校)』という彼女の最初の作品は、こうやって生まれた。小さな映画祭で上映され、たくさんの人たちが共感してくれたとき、とてもうれしかった。海外への旅を通して英語も話せるようになった。

 18歳で報道を学ぶために、大学に入学。映画も撮り続ける。やはりお金はないから、アルバイトで生活費や学費を稼ぎながら、映画のための資金集めをする。クラウドファンディングも利用した。

 そうやって撮った2作目のドキュメンタリーは、耳の聞こえない両親と自分と弟、4人家族の生い立ちと日常を撮った『きらめく拍手の音』(2014年)。

 耳の聞こえない人の文化と、聞こえる人の文化、私は2つの文化を知っている、と彼女は語る。この映画は15年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で賞を受け、今年6月からポレポレ東中野などで公開される。 


●お金がないことは、障害にはならない

「お金がなくても、やりたいことを実現できる」と言うのは、イギル・ボラさん、27歳。 
「ファンドを集めるのはとても大変で、責任が大きくて、とても大変だけど」と笑う。

 お金がなかったからこそ、彼女は学校の外でたくさんのことを学び、お金を集めるためにたくさんのことを学び、責任を果たすためにたくさんのことを学び、そして今も学び続けている。その経験のなかから、自分がやりたいことを見つけて、それを実現するために、決してお金がないことや何かが足りないことを理由にすることなく、一歩一歩進んでいる。

 彼女はとてもチャーミングで、日本語がわからないのに、数カ月前に日本に来て、シェアオフィスを借り、そこで3本目の映画の編集をしている。すごい度胸だ。まわりの人たちとのやりとりはだいたい英語。「すごい」とか「おつかれさま」とかは日本語。

 貧乏は財産だ。金持ちではない親に感謝しよう。そして、これにもうひとつ加えたい。「貧乏は学校だ」。そこであなたは、本当にやりたいことを見つけられる。お金がなくても実現する方法を見つけられる。あなたにも、私自身にも、もう一度伝えたい大切なメッセージです。

 もちろん外からの助けが必要な貧しさもある。それは国や地方自治体が、そしてそれに気づいた一人ひとりが、手を差し延べて助ける必要があると信じる。

 先日、私は『きらめく拍手の音』を観ました。両親の耳が聞こえないということで、いろいろな苦労をしただけでなく、Boraさんと弟はいじめられたり、差別されたり、特別扱いされたりという経験をしてきた。自分たちと違う人を理解することは本当に難しい。「かわいそう」と上から目線で見るのは、かえって傷つけることになる。「障がいがあるから」とレッテルを貼らない。障がいのある人は私たちと違う世界を持っていて、私たちの人生とは違う種類の宿題がある。それを認めて尊敬できたらいいなと思った。障がいのある人もない人も、ありのまま受け入れられる大きな人間になりたい。
(文=中村芳子/アルファアンドアソシエイツ代表、ファイナンシャルプランナー)