文在寅新大統領が就任 北朝鮮への対応に注目(写真:AP/アフロ)

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 韓国の大統領に、文在寅(ムン・ジェイン)氏が就任した。これにより、韓国の政治は約9年間続いた保守系政権から革新系政権に転換した。一方、北朝鮮の対応は一段と読みにくくなっており、文氏が目指す北朝鮮に対する太陽政策がうまく作用するかは疑問だ。むしろ、朝鮮半島情勢の不透明感を高める恐れがある。

 文政権の政策を外交、経済、対北朝鮮に分けて考えてみる。外交面では、日米との距離をとることが重視されている。これは、中長期的に韓国の安全保障面でプラスにはならないだろう。経済面では、サムスンや現代などの10大財閥を解体することが念頭に置かれている。さらに外交面では親北朝鮮の考えをはっきりと示した。

 北朝鮮に対する米国の圧力、それを受けた中国による関与の強化をもってしても、金正恩独裁政権による核・ミサイル開発を止めることはできない。金正恩氏率いる平壌の独裁政権との対話のパイプを持つことは重要だが、その対話は国際社会の安定に資するものでなければならない。文新大統領が米国と距離を取ろうとするなか、韓国の対北融和政策が国際社会の安定に資するとは考えづらい。この点で、韓国社会の不安定化、それを受けた朝鮮半島情勢の混迷への懸念は高まっていると考えるべきだ。

●国民の不満に支えられた文氏の大統領当選
 
 現在、米国も中国もロシアも、北朝鮮にどう対応すべきか手を焼いている。このなかで韓国の有権者は、従来と対照的な政策を重視する人物を国家の最高権力者に選んだ。

 北朝鮮問題への懸念があるなか、韓国の指導者は国家の脅威をどう抑えるかを考えるべきだ。しかし文氏の政策には、北朝鮮の抑止とは異なる部分がある。客観的にみると、そうした政治が進むことは、先行きへの不安を高めることにつながるだろう。

 韓国の大統領選挙にて有権者が優先したものは、これまでの政治との決別だった。従来、韓国は米国との安全保障を重視して北朝鮮への抑止力を確保してきた。同時に歴代の政権は、サムスンなどの財閥企業に対して優先的に事業の許認可を与え、輸出の拡大による成長を追求してきた。ただ、この政策は一族経営の側面が強い財閥企業と、独裁的な権限を持つ大統領、その親族との癒着を生んだ。

 韓国にとって重要なのは、国際社会との連携強化だ。これができないと、経済の改革すら難しくなると懸念される。米国など主要国との距離感が大きくなるなかで韓国が財閥解体などを進めると、同国の政治・経済はふらつき始める恐れがある。韓国経済の貿易依存度はかなり高い。簡単にいえば、国内企業の利益と給料の多くの部分を輸出と輸入に依存しているということだ。トランプ米大統領が自国の輸出拡大を重視した政策を目指すなか、本来であれば韓国は米国との関係をうまく調整しつつ、日本やアジア各国との関係を強化し、経済運営の基礎を固めるべきだ。 

 それが中長期的な韓国経済の安定と、数の上での支持国の獲得につながるだろう。韓国が38度線を挟んで対峙する北朝鮮の脅威を国際社会に伝え、自国の利益を守るためにもそうした取り組みは不可欠だろう。

●一段と混迷深まる朝鮮半島情勢
 
 すでに、日米と距離を取ろうとする文新大統領への懸念は顕在化している。特に5月14日の、北朝鮮による新型と見られるミサイルの発射は、新大統領の就任と無関係ではあるまい。また、このミサイル発射により米中の対北朝鮮政策はさらに困難、かつ強硬なものになる恐れがある。

 トランプ政権は、核・ミサイル開発の放棄などを条件に対話の可能性を示してきた。中国も基本的には米国に賛同している。専門家のなかには米国がロシア、中国と今後の北朝鮮のあり方で一定の認識を共有したとの見方もある。これは、国際社会が制裁の強化などを通して将来的な北朝鮮問題の鎮静化を目指していることを示唆する。

 14日の新型ミサイルの発射は、米中などが態度を改めるべきだという金体制の意思表示と読み解くことができる。金政権は米国を射程圏内に入れたミサイルの脅威を突き付けることで、トランプ政権に強硬姿勢の緩和といった譲歩を求めた。同日「一帯一路」に関する国際会議を主催した中国に対しても、北朝鮮は制裁解除などの配慮を求めたと考えられる。

 この背景には、韓国での新政権誕生に付け込もうとする北朝鮮の思惑も影響しているだろう。国際社会が北朝鮮への批判を強めるなかで、文氏は批判よりも融和を重視してきた。その人物が大統領に就任したことを受けて、北朝鮮が「挑発を続ければ状況の悪化を懸念した韓国が自国に配慮を示したり、金書記長の考えを世界に伝える媒体になる」と考える可能性は十分にあるからだ。

 文氏の当選は、韓国が米国を軸とする安全保障の傘から離れることにつながると考えられる。それは朝鮮半島における米国の影響力を低下させ、朝鮮半島情勢の不安定さを高める恐れがある。このように文氏の政策には、北朝鮮の暴走を助長し世界の地政学リスクに無視できない影響を与える恐れがある。今後も北朝鮮が軍事的挑発を続けた場合、かつての盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権のように融和を重視する政策があだとなり、韓国の政治が混乱することが懸念される。

●日本のとるべき大人の対応策
 
 朝鮮半島情勢が混迷すれば、日本には無視できない影響が及ぶだろう。北朝鮮が核実験に踏み切れば、日本の安全保障に関するリスクは高まる。朝鮮半島発の地政学リスクの高まりは、世界の投資家や企業のリスクテイクを阻害する恐れもある。その場合、日本の輸出や生産活動は落ち込み、景気回復のペースが鈍化する展開も考えられる。こうしたシナリオを念頭に置いて、政府は今後の改革を進めるべきだ。

 重要なことは、国際社会における日本の発言力を高めることだ。どうするかといえば、日本の考えを支持し、ともに行動しようとする国の数を増やすことだ。多数決の論理に従い、日本の主張が国際社会で受け入れられやすい環境を自ら整備するしかない。

 米国が自国第一主義に走るなかで日本が発言力を高めていくためには、アジアを中心に各国との関係を強化することが欠かせない。米国は自国の産業を保護し、その上で自国に有利な自由貿易協定(FTA)を各国と締結することで輸出を増やし、貿易赤字を削減しようとしている。

 この問題に対して、主要国は保護主義的な政策の進行に待ったをかけることができていない。そのなか、日本はアベノミクスの目玉といわれてきた構造改革を進め、これまで以上に市場原理を重視した改革を進めるべきだ。それは、自由貿易体制を強化し、多国間の経済連携を進めることにつながる。

 日本は、11カ国での環太平洋パートナーシップ(TPP)に関する協力を取りまとめ、米国が主張するFTA以上のメリットを国際社会に提示し、賛同を集めることに注力すればよい。そのなかで、日本への支持拡大など、相応のメリットがあると判断できる場合は、インフラ開発などに関する支援をヒト、モノ、カネの面から行うべきだ。冷静に現状を分析し、実利ある行動を選択することが求められる。

 中国もシルクロード経済圏構想の強化を狙うなか、日本は迅速に多国間の経済連携を進め、経済基盤と発言力の強化に取り組むべきだ。それが、朝鮮半島情勢の混迷が懸念される今後の状況を乗り切るためには不可欠だろう。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)