「カナダの大学が「ダークマター」の可視化に成功──宇宙を支える「巨大な網目」が浮かび上がった」の写真・リンク付きの記事はこちら

これまで不可視だった暗黒物質が、ついに“見えた”。宇宙の大規模構造の説明に有力な、「冷たい暗黒物質」(コールドダークマター)モデルを裏付けるような画像の可視化に、カナダのウォータールー大学の研究者たちが初めて成功した。

われわれが光学的に観測できる物質だけでは、宇宙は完全たりえない──見ることのできる物質だけでは、回転する銀河の遠心力と重力の釣り合いが取れなく、銀河内の星々を繋ぎ止めておくだけの重力が足りないからだ。

しかし、銀河が形を保持するに十分な重力を補っているこの“欠損質量”は、星のように輝いたりしないし、光を吸収することも反射することもない。しかも、ほかの物質とはほとんど相互作用しないくせに、なぜだか銀河のある場所にくまなく存在している。

電磁波を観測する天体望遠鏡では直接見ることはできないが、背景の天体像のゆがみを引き起こす重力的な作用から、間接的にその存在をおぼろげにする巨大な質量──謎に包まれたこの物質が、暗黒物質(ダークマター)と呼ばれるゆえんである。

不可視なものを「見る」技術

われわれに観測可能な星や銀河の分布は、クモの巣のような網目構造をつくっていることが、これまでの研究からわかっている。そしてこの網目のネットワークは、ビッグバン後まもなく密度がわずかに高い場所にダークマターが凝集してフィラメント(膜のような構造)をつくり、クモの巣状に進化したのではないか、というのが現在までで最も有力な説だ。

今回、直接観測することができない不可視の物質を、「弱い重力レンズ」の影響を調査することで可視化に成功したのは、マイケル・ハドソン博士率いるカナダのウォータールー大学の研究者たちだ。

重力レンズとは、星や銀河などの光源と地球の観測者までの間に巨大な重力源があると、周辺の時空が曲げられて、対象となる星や銀河が歪んだ像となって見える現象のことをいう。そのなかでも「弱い重力レンズ」とは、レンズ源の影響が比較的弱く、多くの天体画像を集計することで、統計的に僅かな歪みがあると判断することができる技術のことだ。

彼らは、45億光年先にある銀河のペアの画像2万3,000枚を合成し、銀河間に存在するとみられる「弱い重力レンズ」の影響を解析。その結果、宇宙の大規模な構造に大きく関与しているとみられる、熱運動の速度が非常に小さく、ほかの物質とは重力だけしか相互作用しない、「冷たい暗黒物質」(コールドダークマター)を可視化することに成功した。

冒頭の画像では、ダークマターのフィラメントが銀河間を橋のように繋いでいる様子を確認することができる。またこの解析結果は、2つの銀河の距離が4,000万光年未満である場合、銀河間を繋ぐフィラメントの力が最も強く働くことも突き止めた。

「研究者たちは、ダークマターのフィラメントがクモの巣のような巨大構造を織りなし、銀河同士を繋いでいることを、何十年も前から予測していました」と、ハドソンはプレスリリースにて述べる。「この画像は、予測の域を超えて、(ダークマターを)われわれが見て計測できる“何か”にしてくれることでしょう」

これまで数々のシミュレーションでは、暗黒物質の分布が「冷たい暗黒物質」モデルの特徴と一致することを示唆していた。今回発表された画像も、同モデルを裏付けるものだ。この研究の詳細は、『Royal Astronomical Society』に掲載されている。

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