2年にわたり続けてきた「ピラティス講師」と「OL」のデュアルワークに終止符を打とうと決め、フリーランスのピラティス講師となった柴森雅子(しばもり・まさこ)さん。
 
仕事をしながら資格を取得し、晴れてピラティス・ヨガ講師としてスタジオと契約したところまではよかったものの、とにかく最初の実績を積むまでが大変だったそう。

「最初の頃は代行やイベントレッスンなどを担当させてもらえるのがやっと。そこからコツコツ小さな小さな実績を積み重ねて、ようやく本業一本で食べられるところまできました」
 
そう語る柴森さんに、夢を叶える「小さな目標の立てかた」について聞きました。

資格はあっても仕事はない

28歳の時、転んで腰を傷めたことをきっかけに始め、すぐにハマってしまったというピラティス。飲食店で働きながらピラティス講師の養成講座に通い、30歳で講師の資格を取得します。その講座は、必須受講クラス100時間ほど、さらに自主練習100時間以上をクリアした上で、60種類のエクササイズ実技も教える技術も身につけないと受験資格を得られない試験があるなど、厳しいものでした。
 
「資格試験に合格するのも大変なんですが、資格を取得したからといって、すぐに仕事があるわけじゃないんです。幸い、講師として自動的にスタジオ契約してもらえるシステムでしたが、クラスを持てるチャンスは、そう簡単にはめぐってきません」
 
新米講師がまず担当するのは、先輩の代行。先輩の講師がクラスを休まざるをえない時に、「替わりにお願いね」と頼んでもらえるかどうかが、最初のハードルなのだそう。
 
「人柄もスキルもわからない新米講師に自分の代役を任せるのは、怖いこと。だから、信頼を得て1回でもいいから代行をやらせてもらえるだけでも大変なことなんです」
 
運よく、過去に生徒として参加していたクラスの先輩が、代行を頼んでくれたことをきっかけに、柴森さんはようやく「最初の代行」をつかみます。
 
「まずは、代行でお客様やスタッフのからの信頼を得ること。そして、次のチャンスは祝日のイベントレッスン。そこで信頼を積み重ねていき、『この講師にレギュラーを任せたい』と思ってもらえるかどうか。お客様からの信頼もコツコツ積み重ねて、やっとレギュラーのお話をもらえるようになりました」

ベテラン講師に敬遠されがちな20分のクラスも、新人が割り込めるチャンスです。自分から積極的にスタジオに売り込みをかけて、20分クラスを担当できるようにお願いしたのだそう。でも、20分クラスのフィーは、1時間クラスの3分の1だけです。「それでもチャンスはチャンス」と柴森さん。

「イベントレッスンが成功したおかげで20分のレギュラーを週2本担当させていただくことになり、ちょっとずつですが、ステップアップしていきました」
 
「まずはピラティスだけで月3万円稼ごう」と目標を立てて、OLとの二足のわらじ生活を始めます。1時間のレギュラー1本に続いて、20分クラスを2本獲得、本当に少しずつですが、ピラティス講師の収入は増えていきました。
 
「資格を取ってからもパーソナルトレーニングは続けていたので、パーソナルトレーニングを受けてから、近くのスタジオに移動して20分クラスを週2回担当するようにしていました。できるだけ時間を有効に使えるように工夫していたんです」

1年目はまだ赤字だったけれど…

「レギュラークラスを担当する」それが、ピラティス・ヨガ講師として最初の大きな目標でした。

「とにかく、何としてもレギュラークラスを担当したくて。最初に担当させてもらえた時は、資格取得から8ヵ月、スタジオに登録してから半年が過ぎていましたが、それでも早い方でした。一緒に養成コースに通った同期生20人のうち試験を受けて合格したのが半分の10人くらい。全員がすぐにレギュラーを担当できるわけではない、狭き門です」

ようやくレギュラークラス1本をゲットした柴森さんでしたが、その時点ではまだ「ピラティスだけ月3万円」という目標には届いていなかったそう。目標を達成したのは、20分のクラスを含めレギュラークラスを3本担当できた頃。3万円の次は5万円と少しずつ目標を上げていきました。
 
「二足のわらじを履き始めて1年目は、月4万円くらいしか稼げませんでした。しかも業務委託なので、源泉徴収で10%引かれてしまう。パーソナルトレーニングに毎月3、4万円かかっていたので、ピラティスの収入だけでは赤字でした」
 
ピラティス講師の収入がOLの収入に並び、「本業一本で食べていこう」と決めたのは、ちょうど2年が経った頃でした。その時点で担当していたレギュラークラスは、なんと12本。「代行」や「20分クラス」から始めてようやく辿りついた一つのゴールでした。
 

ピラティス講師+αを考える時期

フリーランスとなってもうすぐ1年。今の柴森さんはどんな「小さな目標」を立てているのでしょうか?
 
「今はほとんどグループレッスンなんですが、今後はパーソナルレッスン数をもっと増やしたいんです。現在パーソナルレッスンを担当している方に、育児ストレスから不眠症になって、薬を飲んでも眠れないという女性がいて。トレーニングするうちにみるみる元気になって、すごくやりがいを感じました」
 
グループレッスンを極めたら、次はパーソナルレッスン。でも、柴森さんの目標はもはやピラティス・ヨガという枠の中には収まりきらないようです。インタビューも終盤に差しかかった頃、柴森さんがぽろりと言いました。
 
「実は、大学の願書を出す資料を集めないといけないんですが、忙しくてまだできていなくて」
 
何でも最近は「勉強したい」という気持ちがこうじて、大学に行きたくなってしまったんだそう。
 
「通信制の大学に入ろうと思うんです。でも、まだ科目を決めていなくて。会計税務か、マネジメントか、経営学で迷ってるんです。最初はスポーツ科学にしようと考えてたんですが、スポーツ科学を修めた指導者っていっぱいいるよな、と気づいて。この先もフリーランスで生きていくなら、簿記や経営の方が有利かも、と」
 
4年かけて築いてきたピラティス講師という土台に、次は何をプラスしていくか。それを考えるポイントに柴森さんは来ているようです。「会計税理か経営のどちらかにすると思うんですが、法律も知りたいかも。フリーで生きてると契約書の知識も必要だな、と感じることがあって」なんでも自分でやらなきゃいけないフリーランスという立場だから、どんどん知りたいこと、やりたいことが増えていく。
 
「今の私にとって、ピラティスは“本気の遊び”です。心から打ち込める趣味の延長なんです。だからそれをやりきるために必要な知識は全部身につけたい」
 
かつての柴森さんの勉強嫌いについては、前回に書いた通り。それが「大学に行こう」という心境にまでなった。確かに、安定した収入を確保しながら副業として続けた方がラクはラク。でも、「本業でやる」と覚悟を決めたから湧いてくるエネルギーがあることを、柴森さんを取材しているとひしひしと感じました。
 
柴森さんのブログはこちらから。

第1回:「OL辞めてピラティス講師一本で」二足のわらじを脱ぐ覚悟がつくまで
第2回:「稼ぐ」と「学ぶ」が5割ずつ 脱・OLピラティス講師のワークスタイル

ウートピ編集部