観衆は1万人にも満たなかったが、スタジアムを包み込んだ熱狂は、その数には比例しなかった。こぢんまりとしたサッカー専用スタジアムの特権だろう。ひとつの感情が2倍にも3倍にも膨れ上がり、選手たちの背中を強く押した。


大宮が同点ゴールを決めると仙台は一気に勢いを失っていった 早い段階で先制を許し、前半の大宮アルディージャのゴール裏はシュンとしていたが、60分に同点に追いつくと、そのエネルギーが一気に爆発する。チャンスと見るや大歓声が沸き起こり、相手のファウルや消極的なプレーには大ブーイングが鳴り響く。そして89分、悩める新エース・大前元紀が鮮やかなトラップから逆転ゴールを叩き込むと、NACK5スタジアムの雰囲気は最高潮に達した。

 まるで、生きるか死ぬかがかかったシーズン終盤の残留争いの様相である。観衆が作り上げた情熱的な空気は、間違いなくこの日、大宮の勝因のひとつとなっていた。

 一方、敗れたベガルタ仙台はその雰囲気に飲まれてしまったのだろうか。同点に追いつかれてからの彼らのパフォーマンスは、どこか臆病で、消極的で、実に歯がゆく映った。

 開幕2連勝――。幸先のいいスタートを切った2017シーズンの仙台だったが、その勢いは持続せず、J1リーグ第11節を終えて14位と、気づけば降格圏が背後に迫っている。

 最下位に沈む大宮の本拠地に乗り込んだ第11節。23分に先制しながらも、60分にセットプレーから同点に追いつかれると、終了間際に大前の鮮やかな個人技に屈して被弾。1-2の逆転負けに渡邉晋監督も「逆転負けは今季初めてで、まだ正直整理がつかない」と肩を落とした。

 これまでの仙台に抱いていた印象は、堅守速攻のチーム。手倉森誠監督に率いられた2012年もこのスタイルで躍進を遂げ、悲願の初優勝にあと一歩と迫った。ところが2014年途中から指揮を執る渡邉監督は、ポゼッションを高めて主導権を握る戦いを志向。毎年のように残留争いに巻き込まれながらも、何とか踏みとどまり、スタイルの成熟に力を注いできた。

 今季はそのスタイルをより強調すべく、これまでの4バックから3-4-2-1にシステムを変更。攻撃では最終ラインからしっかりとボールをつなぎ、守備では高い位置からプレッシャーをかけて、相手陣内でのプレー時間を増やすという狙いを持つ。キャプテンを務めるMF富田晋伍は「一番やりたいのは、敵陣で自分たちがボールを握り続けるサッカー」と、理想のスタイルを掲げる。実際に今季の仙台はボールを大事にするサッカーを体現し、ポゼッションで相手を上回る試合が増えている。

 もっとも、ハマれば機能するものの、その調子の波は一定ではない。ここまで4勝はすべて完封勝利である一方、6敗のうち4つは完敗。とりわけ第6節の浦和戦では0-7という屈辱的なスコアで負けており、一度流れを失うと立て直しがきかず、そのままずるずると引き下がってしまう傾向がうかがえる。ひと言でいえば不安定。変化と進化を求めるなか、今の仙台は産みの苦しみを味わっている段階なのだろう。

 大宮戦でも「良し」と「悪し」の二面性がはっきり浮かび上がった。前半は前からの守備がハマり、大宮に付け入る隙を与えない戦いを披露。最終ラインからしっかりとつなぎ、サイドを巧みに使った攻撃でチャンスを作った。先制点もサイドからのアーリークロスを受けたFWクリスランがエリア内で倒されてPKを奪取。このPKはGK塩田仁史にセーブされたものの、こぼれ球をキッカーのクリスランが自ら詰めて先制に成功している。

 ところが後半、大前を投入した大宮が攻勢に打って出ると、とたんにトーンダウンした。前への積極性が消えて受けてしまう時間が多く、後ろからつなごうとしてもミスを頻発。同点に追いつかれるとますます消極的となり、大宮の勢いを助長した。

「決して負ける内容ではなかったんですが、ミスから相手に流れを与えてしまった。完全に自分たちで、こういうゲーム展開にしてしまったのかなと思います」

 富田は自滅に近い形で敗れたことを認めている。そして、こうも付け加えた。

「前半は相手がブロックを作って前に来なかったのである程度やれましたが、後半は前に出てきたなかで自分たちがチャレンジできない部分もあったし、簡単なミスを繰り返してしまうところもあった。そういうところから、ゲームの流れは変わってしまった」

 つまり、引いた相手には回すことができるが、相手の出方が変わると、それに対応できなかった。そこには精度の問題もあるだろうが、スタイルの柔軟性の欠如も浮かび上がる。相手が前に出てきたのなら、シンプルに裏を突く選択肢があってもよかったが、仙台がカウンターを仕掛ける場面は少なく、ビルドアップからのサイド攻撃に固執するきらいがあった。

 もちろん、理想を求めることはクラブのアイデンティティを築くうえでも重要だ。しかし、結果は理想だけでは得られないのもまた事実である。

 注目したいのは仙台の今後だ。「やり続けることが重要」と富田は言うが、このまま下降線をたどるのであれば、方向転換を強いられるときが来るかもしれない。

 チャレンジなくして、進化は生まれない。しかし、降格のあるサッカーというスポーツでは、時に現実を見る必要性が出てくる。やり続けるのか、あるいは苦渋の決断を下すのか――。果たして仙台は、どこまで我慢できるだろうか。

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