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■どんなクルマ?

精鋭が非公式に継続した「ル・マン参戦プロジェクト」

新型フォードGTは、マスタングになるはずだったクルマだ。いや、正確に言えば、フォードがGT40の初勝利から50年目となる2016年のル・マンで、クラス優勝を勝ち取るべく投入する予定だったマスタングに代わるクルマである。

そのマスタングはローンレンジャーの愛馬にちなみ、「プロジェクト・シルバー」と呼ばれた。

問題は、シルバーが大きな馬だったように、マスタングが大きなクルマだったことだ。特にフロント・セクションの大きさは、エアロダイナミクス的には好ましくなく、それはつまり、速く走るのにも向いていないということになる。

フォードはマスタングをGTレーサーに生まれ変わらせるべく多くのモディファイを施したが、その成果は芳しくなく、計画の中止が決定する。

しかし、ル・マン参戦プロジェクトは非公式に継続された。20人に満たない精鋭たちが、暗証キーつきのデザイン・スタジオで極秘裏に進めたそこからは、マスタングではなく、GT40インスパイアのまったく新しいマシンが生まれることとなったのである。

それは、レースに出ることを目的に開発されたという点において、先代のGTよりも、初代のGT40に近いものだ。

そして、トップ・カテゴリーのLMPプロトタイプ以外は、参戦のためにホモロゲーション用の市販車が必要で、それを満たすのが、新型GTのレゾン・デートルなのである。

この市販車ベースのマシンで競われるGTEクラスは、ポルシェやアストン マーティン、フェラーリ、そしてコルベットが凌ぎを削る。

新型GTはそれらのどれとも、もちろんマスタングとも似たところのないクルマだ。4779mmと長く、1063mm(あるいは41.8インチ)と低く、ボディだけで2003mm、ミラー込みでは2238mmと幅広い。

キャビンはケータハムかというほどタイトだ。アストンやフェラーリであれば、同乗者と肘が触れあうようなキャビンなど、市販版の顧客が納得しないだろう。このGTが、そもそもロードカーとして計画されたものではないことは、この点にも見て取れる。

キャビン部分は軽く剛性の高いカーボンのタブで、ロールケージが組み込まれている。これも、通常のロードゴーイングカーには見られない要素だ。その後方には、3.5ℓV6ツイン・ターボを積み、ゲトラグ製7速DCTを介して後輪を駆動する。

ただし、レース仕様のトランスミッションはシーケンシャル・ギアボックスが採用される。

これはもちろん、開発コストの削減を目的としているわけだが、レースが血統を磨くという昔ながらの考えが真理であることを、この「GT41.8」も証明することだろう。

エンジン/サスペンションを検証

V6は比較的コンパクトで、ボディ・パネルはそれをぴったりと包む。だが、エアの導入経路は複雑だ。ターボへはボディの後部と下部から、ラジエーターへは見てわかるように後輪前から、そして吸気マニフォールドへはキャビン後部に沿ったダクトから、それぞれ取り込まれる。

フォードはこのエンジンを、IMSAのレースカーに載せてテストし、ヘッドガスケットの抜けとヘッドの破損が続くことを見出す。エンジニアたちは彼らの威信をかけてこれを改良。そのノウハウは、市販車にも活かされている。

また、GTEレギュレーションでは、性能調整により500ps程度にデチューンされたが、それでもクラス優勝を獲得。フル・ブーストをかけられたなら、LMPクラスに迫るペースで走っただろう。

レース・フィールドから公道へフィードバックできる技術はそれだけではない。コンポジット素材のシャシーは8ピースのコンポーネンツで構成され、製造のコストと時間を削減しているが、この工法が将来的にフォーカスなどの大衆車へ応用されることも期待される。

ほかにも、レース・マシンであることを一義にしたクルマだとうかがえる個所は多い。

ふつうのロードカーは、カーボン製のダッシュボードを構造体の一部やエアのベンチレーションとして使うことはないだろう。シートを固定して、ペダルを動かしてポジションを調整することもまずない。

リア・スポイラーは上下動だけでなく、下降時の角度調整も可能で、ダウンフォースを増したりドラッグを減らしたり、状況に応じたポジションが複数用意される。

サスペンションはロア・アームが長く、インボードのダンパーとスプリングとはプッシュロッドを介して接続するが、これはアンダーボディのエアロダイナミクスを最適化することを目的とした設計だ。

標準モードでは車高の2段階調整が可能だが、トラック・モードを選ぶと、スプリングは圧縮された状態で油圧により固定され、レートは2倍に。地上高が50〜70mmも落ちる。

■どんな感じ?

驚いたのは、乗り心地

車高が落ちる、といっても、一般的な上下動は、スーパーカーのモーター式でも、SUVのエアサスでも、ゆっくり穏やかなものを想像するだろう。しかし、フォードGTは違う。

トラック・モードに切り替えたり、ノーズ・リフトのスイッチを押したりすると、「プシューッ」という音とともに、文字通り落ちるように下がったり、素早く持ちあがったりする。さながら、レーシングカーのエアジャッキだ。

この動力源となるポンプは、スポイラーやステアリングの油圧アシストを作動させるのにも用いられる。スカットルもルーフも低く、地べたに座るようなドライビング・ポジションだが、適正な位置が決まれば、操舵力は適度に重く、ロック・トゥ・ロック2.5回転と過剰にクイックではないステアリングは扱いやすい。

走行モードの切り替えダイヤルは、フォードの大衆車にもありそうなチープさだが、これを「D」に入れれば、なかなか楽しいことが起こる。

たださえ耳に届くエンジン音は、高剛性のキャビンセルがちょうど反響室のように作用して、レーシングカーのようなサウンドに包まれるのだが、乗り心地は驚くほど快適なのだ。

そういうスポーツカーはこれまでにもあった。

ロータスやマクラーレンなら、メルセデスEクラスとでも比べない限り、非常にしなやかだと評価できる。しかし、このGTはちょっと様子が違う。乗り心地とハンドリングのバランスが傑出しているのだ。

20年ばかりさまざまなクルマを試乗してきたが、これを超えるものがあったか定かではないほどのレベルである。従順にしてロールは小さく、ボディの動きは実にうまく制御されている。ただただ驚かされるばかりだ。

これは公道での楽しみを追求したクルマではないのに、結果としてそういうものになっているのが不思議だ。ステアリングは適度に重く、リニアで、セルフ・センタリングの程度も望ましい。

フィードバックの荷重が路面状況に左右されず、ハードなコーナリングをしても重さが過剰に増すこともない。ロードカーであれば、コーナリングフォースの高まりを、ステアリングの重さで伝えるのが一般的だが、それがないのだ。

フェラーリ458スペチアーレやマクラーレン675LTを目指した

2点間の移動が速いのは疑うべくもないが、敏捷で挙動が予測しやすく、レスポンスにも優れるため、ただ速いという以上の満足が得られる。ややしわがれ気味の、洗練性に欠けるエンジン音さえ好きになれる。アストンやAMGならば、この手のノイズは開発段階で消されているだろうという類のものであるにもかかわらず、である。

しかし、それこそ偽りのないエンジン音なのだ。また、大出力ターボながらラグは最小限。スポーツ・モードにすれば、アンチ・ラグ・システムが極めて効果的に働いてくれる。

5500〜7000rpmでの飛び出すような加速は、0-97km/hが3秒以下というスペックを痛感させ、その先348km/hまで伸びるというトップスピードにも確信が持てるものだ。

ただし、驚異的なメカニカル・グリップ限界の高さやほぼ発生しないロール、ややオーバーサーボ気味のブレーキなどを感じさせた今回の試乗車は、アストン マーティンV12ヴァンテージSやポルシェ911 GT3ほどコミュニケーションに富んだロードカーではなかった。もっとも、その差はわずかだが。

このクルマのベスト・パフォーマンスは、車高を落とし、スプリング・レートを上げた状態で、サーキットを走ったときにこそ発揮される。メカニカル・レイアウトの全ては、そこでこそ真の意味を知らしめるのだ。

車高やスプリング・レートが変わっても、縁石まで使って攻めるときでさえ十分にソフトで、ダンピングは並外れて利く。

コーナーをいくつか抜けただけで、これが十分な安心感と柔軟性を備えたスーパーカーであることがわかる。ストレートで656psを全開にして、コーナー手前でカーボン・セラミック・ブレーキを思い切り利かせるような走りを楽しめるはずだ。

わずかながらアンダーステア気味だが、抑えるのは容易で、コーナーではオーバーステアに持ち込める。しかし、この新型GTを存分に楽しみたいなら、適切なドライビングを心がけるのが一番だ。

ブレーキを残しつつコーナーに進入し、エイペックスを過ぎたらパワーオン。そう、レーシング・ドライバーのような走りこそ、このクルマにはふさわしい。

当初、フォードが目指したのは、フェラーリ458スペチアーレやマクラーレン675LTだったという。そこでそれらを手に入れて検証し、GTがどうあるべきかを改めて決めた。

開発に携わったエンジニアによれば、テストを行った全てのサーキットで、GTはそれらベンチマークとしたモデルを上回る速さを見せたというが、それは信じるに足る話だ。

ただし、楽しさという点はまた別の話で、それはそれでいいのだと思う。675LTはレーシングカーではなく、公道上で夢中になれる走りを追求したクルマだ。

対してこのGTは、レース活動上の必要に迫られて、公道仕様を造らざるを得なかったクルマなのである。そうでありながら、ここまでのクルマができあがったというのは、またすごいことではある。

■「買い」か?

プライスゆえの、皮肉な考え

フォードが計画する生産台数は、今後4年間に1000台で、レースのレギュレーションを十分満たせる。価格は、£420,000(6,167万円)だ。

このプライスゆえに、皮肉な考えを抱いてしまう。

ホモロゲーションがなければ、このクルマはここになかったわけだが、もっとふつうの、£200,000(2,937万円)程度のGTカーを造って、それをもとにレースに出るという考えは浮かばなかったのか。それでは売れないかというと、そんなことはないだろう。

なにしろ、はっきり言ってしまえば、フィエスタを造っているメーカーの商品だ。この金額ならば「買いたい方はお好きにどうぞ」としか言えないというのが正直なところだ。

この値付けで売ろうという勇気と、実際に販売できる能力を持ちあわせたメーカーというのは、そうあるものではない。

という意地の悪い指摘はそれくらいにしておこう。

同様にGTレースを想定したモデルを10車種ほど並べて、ロードカーとしてのベストを選ぶなら、それはフォードGTではないだろう。

とはいえ、これは公道上でも非常に優秀で、サーキットでは他を圧倒するクルマで、大衆車メーカーの商品とは思えないくらいにソソるヤツだ。素晴らしいことじゃないか。

フォードGT

■価格 £420,000(6,167万円) 
■最高速度 348km/h 
■0-100km/h加速 2.8秒 
■燃費 5.0km/ℓ 
■乾燥重量 1385kg 
■エンジン V型6気筒3497ccツイン・ターボ・ガソリン 
■最高出力 656ps/6250rpm 
■最大トルク 76.0kg-m/5900rpm 
■ギアボックス 7速デュアル・クラッチ