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米Amazonが「Echo Look」というAlexa対応のファッション向け新デバイスを4月末に米国で発表した。クローゼットの上や壁など、服を着替える場所に設置する据え置き型の小型カメラである。一言で説明すると全身鏡をスマートにするEchoデバイスだ。

Echo Lookの前に立って「Alexa, take a picture」または「Alexa, take a video」と言うだけでハンズフリーで撮影が完了、撮った写真やビデオは手元のスマートフォンですぐに確認できる。鏡だとチェックできる角度やポーズが限られるが、Echo Lookならもっと自由に客観な視点で確かめられる。また、毎日撮影することで撮りためた写真/ビデオが個人のファッション・コレクション(ルックブック)になる。そのデータを分析して、Amazonが新しいスタイルやブランドを紹介するオススメを提供するサービスも用意される。価格は199.99ドル。

Echo Look発表は大きな話題になって、プライムタイムのニュースにも取り上げられていた。だが、購入に踏み切る人は限られそうだ。こうした小型ガジェットの購入が検討される200ドルのラインを下回っているとは言え、上限ギリギリである。これまでになかった種類のデバイスであり、全身鏡に加えてEcho Lookを導入する理由が今一つ実感できない。Amazonも出足が鈍くなると予想しているようで、希望者を集めた招待制の販売からスタートする。

この雰囲気は、2014年にスマートスピーカー「Echo」が登場した時に似ている。デジタルアシスタント(Alexa)対応のスピーカーはニュースになったが、それが本当に便利なものなのか、本当にユーザーの生活を変えてくれるのか、本当のところは誰にも分からなかった。やはり招待制に限った販売で、しばらくは利用者が少なかった。だが、Echoは真っ先に試した熱心なAmazonユーザーを満足させ、その便利さが口コミで広がって少しずつユーザーを拡大して昨年のブレークに至った。では、Echo Lookは、Echoのようにアーリーアダプターを満足させられるだろうか?

アパレルは今、リアルな店が最もオンラインに利用者を奪われている分野である。昨年8月にMacy'sが約100店舗を閉店させるリストラ計画を発表した。アパレル不振が一因で、全米中でショッピングモールやデパートの閉店が続いており、巨大施設が廃墟と化しているのが社会問題になっている。リアルな店からオンラインへ消費者の流れが本格的に向き出すのは、歴史的にオンライン売上が市場全体の20%に達した時と言われている。アパレル/アクセサリーは昨年、そのラインを超えた可能性が高く、2017年〜2018年にアパレル販売のオンライン化が一気に進む時期になるという見方が多い。Macy'sのリストラは、それを象徴するような出来事であり、Cowen and Companyの分析によると、2017年中にMacy'sがトップから陥落し、代わってアパレル/アクセサリーを伸ばしているAmazonがトップになる。

長く「衣料はオンライン販売に向かない」と言われ続けてきた。理由ははっきりしている。試着してみるまで、自分に似合う色やデザイン、フィットするサイズであるか確かめられないからだ。ここ数年、オンライン販売が成長してきたのは、BonobosやEverlaneのようなオンライン中心のアパレルブランドのスタートアップに因るところが大きい。Bonobosはリアル店舗を展開しているが、リアル店舗は試着とアドバイスのみ。オンラインで販売することで、商品管理の効率化や中間業者のないコストダウンを実現している。リアル店舗で試着アドバイスを受けなかったとしても、Bonobosでは購入した商品は全て45日間なら簡単に返品できるので、試着感覚でとりあえず購入してみる利用者が多い。

「気軽な返品」は試着できない問題に対して消費者の不安を和らげたが、アパレルブランドや流通に負担がかかるソリューションであるのは否めない。ここ数年のオンライン販売の伸びは「とりあえず買って気に入らなかったら返す」というトラブルの原因にもなりやすい消費者意識の上に成り立っており、米国では衣料のオンライン販売の返品率が30〜40%である。試着できない問題のリスクが消費者からブランドや流通にシフトしただけで、リスクが高いことに変わりはなく、長期的な継続性について疑問符も付けられている。

そんなオンラインアパレルで返品率1%以下を実現しているブランドがある。Indochinoだ。細かく採寸したデータからカスタムフィットの製品を提供する。プロによる採寸が推奨されているが、インストラクション動画に従って自宅で採寸することも可能。中間業者のないオンラインブランドなので、カスタムフィットのスーツを従来よりも低価格で入手できる。

Amazonは巨大である故に衣料販売量でも目立っているが、スタートアップのオンラインアパレルブランドほど「気軽な返品」に積極的ではなく、衣料販売で先進的な存在ではなかった。しかし、同社が衣食住の一角であるアパレルを見逃すはずはない。今年4月に、Amazonのカスタム衣料製造に関する特許「On demand apparel manufacturing」が米特許商標庁から承認されており、Indochinoの買収を狙っているという噂も報じられている。アパレルのオンライン販売が本格的に伸び始める2017年〜2018年に、Amazonが何かを仕掛けてくるのは明らかだ。

カスタムフィットによって返品率は著しく引き下がるが、製造コストがかかるカスタムメイドはスーツのような高価な商品にしか適していない。Amazonの場合、広くアパレル全般で買い物体験を引き上げられるように、気軽な返品とカスタムフィットのメリットを組み合わせたバランスのよいソリューションの提供を狙っている可能性が高い。

それには写真や動画が有効な手段になり得る。採寸データはアップデートしないと不正確だが、毎日撮る写真/ビデオは新鮮なデータであり、妊娠して短期間で体型が変わるような人にも対応できる。採寸データほど正確ではなくとも、利用者の体型と製品のデザイン、「サイズ表示より少し大きめ」「表示通り」といったAmazon利用者のコメントを総合したアドバイスが提供されれば、サイズが合わずに返品される商品は減少するだろう。色やデザイン、スタイルに関しても、Alexaからの客観的なアドバイスは大いに参考になるはずだ。

使うほどに賢くなるEcho Lookを通じて、Bonobosのリアル店舗にいるプロフェッショナルなアドバイザーのように満足度の高いアドバイスをAmazonが提供してくれるようになるなら、Echo同様にEcho Lookも大化けしそうだ。リアルな店舗で服を買うのは楽しいことだが、「気軽な返品」でオンラインアパレルが急成長したことが、自宅でゆっくりとたくさんの商品を比べられることの魅力を証明している。その返品の手間すらなくなったら、どうなるかは容易に想像できる。

(Yoichi Yamashita)