超模範社員が「夜は別の顔」で懲役30年

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■周囲の人の自分評価は「けっこういい加減」

捜査が長引いていた重大事件(殺人やレイプ、誘拐事件など)で犯人が逮捕されたとき、ワイドショーではよく“近所の住人”や“職場の同僚”が登場し、マイクに向かって興奮気味にコメントする。

「あんな大それた事をする人には見えませんでした」
「挨拶する程度でしたが、感じのいい人でした」
「努力家で仕事熱心な、若手のホープ的存在でした」

驚きを隠せない、というのが相場のようになっているが、リポーターが怪しいところはなかったのかと突っ込むと、歩調を合わせるように意見が変わったりする。

「そういえば、ときどき部屋から怒鳴り声のようなものが聞こえたかしら」
「ゴミの分別がでたらめでしたね。見かねてやり直したことがあります」
「仕事はできたけど、冷たいというか、周囲に心を開かない男でしたね」

どれも嘘ではないだろう。でも、犯人の人柄や性格がそれでわかるかと言えば答えはノーだ。もともと「感じのいい人」の一面もあり、容疑者リストに上っていなかったから周囲が驚いたわけで、日頃からトラブルメーカーだったとか異常な言動が目立っていたなら、もっと早く捕まっていてもおかしくない。

事件を起こしそうにない人が真犯人だったから意外性がある。

でも、いざイメージが変わってしまうと、周囲の人はあっさりと意見を変えてしまう。なぜそうなるのか。

■自分への評価はあるきっかけで180度変わる

我々は、それなりの期間そばにいる相手について、それなりにわかった気になっているが、じつは相手の一面しか見ていない。そして、周囲の人という“ボンヤリした”距離感で接している人は、じつは相手に大した興味は持っていなくて、いい人だった→そういえば怪しかった、というように、たやすく意見を変えることができるのではないだろうか。

それなりにキャリアを積んだ人なら、社内外に大勢の知人がいるはずだが、その人たちの大多数はあなたの周囲であり、あなたはその人たちの周囲だ。

顔見知り程度の関係、趣味でつながる仲間、上司と部下、飲み屋でよく合う客まで、さまざまな距離感の人がいる。その人たちは、あなたの一面と付き合い、何らかの印象を抱いている。比較的親しい関係の人も、何かのきっかけであなたのイメージが変われば何食わぬ顔で軌道修正し、距離を取るだろう。

そんなものかと思うかもしれないが、あなたもやっていることだ。周囲の人とまんべんなく濃密に付き合っていたら時間がいくらあっても足りない。その必要もない。周囲で満たされない部分は、家族や肉親、友人など、あなたをよく知る人が補ってくれる。

気をつけて欲しいのは、心を開ける相手がいない寂しさや、周囲の目を気にしすぎて、自分を見失ってしまうことだ。

■無遅刻無欠勤の営業マンはなぜ強姦魔になったのか?

数年前、連続強姦事件の裁判を傍聴したことがある。罪を全面的に認めた被告人は30代。虫も殺さぬような優しい顔をした中堅企業の営業マンだった。

勤務状態は極めて良好で、無遅刻、無欠勤はもちろん繁忙期には進んで残業もし、休日出勤もいとわない模範社員。同僚の話では人柄もよく、親切で誰からも好かれていたという。子どもはいなかったが、夫婦仲も円満だと思われていた。

しかし、被告人には裏の顔があった。ある時期から、仕事を終えてから帰宅するまでの数時間を、獲物探しや犯罪の実行に費やすようになったのだ。

コンビニの入り口を見張り、好みの女性が見つかると後をつけるのがその手口。自宅まで尾行し、ひとり暮らしだとわかると侵入して襲いかかる。ときには外で、公園や神社の茂みに引きずりこみ、ナイフで脅してレイプすることもあり、わずか18日間で被害者は4人に達した。

目的を果たすと、被告人は何食わぬ顔で帰宅していたため、妻はまったく気づいていなかった。会社での態度も変わらない。顔を見られてしまったり、他にも証拠を残していたりしたために逮捕できたが、より慎重なタイプであれば、さらに犠牲者が増えたかもしれない。

法廷で動機を訊かれた被告人は、仕事と家庭のストレスから逃れたかったと答えた。

ストレスのきつさを動機に挙げる被告人はたくさんいる。信用できるかどうかは疑問だが、覚せい剤関係やチカン、露出狂はほとんどがそうだ。仕事が忙しくて残業続きだった、無理なノルマを課せられていた、業績が振るわないことの責任を押し付けられプレッシャーだらけの日々だった。このあたりがお決まりの理由だ。

ところが、この被告人は一味違う。自分で作り上げた模範社員、模範亭主像がカンペキすぎて、それを演じることに耐えきれなくなってしまったのである。

■「デキる男」という虚像を演じると壊れる

だったら、少しレベルを下げるなりすればいいのだが、上司、部下、取引先のすべてに好かれ、信頼されていなければ安心できない。入社以来ずっと、いい人の仮面をつけているので、失敗は許されないと思いこんでいる。

せめて家庭でリラックスできればよいものを、愛する妻を失望させたくなかったらしく、良い夫の仮面を頑なに脱ごうとしなかった。ゴミ捨てに行くときでさえ、きちんとした服に着替え、すれ違う近所の住民に愛敬を振りまき、評判を上げることに腐心するのだ。家事をこなし、妻の話に耳を傾け、欲しがるものは買い与え、妻の親戚関係にも気を使う。

スタイルも気にし、筋トレに余念がなかった。夜は夜で忙しい、性的満足感を与えるタフガイでなければならないと、週に最低2回は妻を抱くのをノルマにしていたからだ。

誰にも心を開かず、実の親との関係も似たり寄ったり。素の自分で接することができないから、友人と呼べる相手もできない。

被告人は自分を取り巻くすべての人からホメられていたかった。欠点のない人間でいれば、仕事も家庭もうまくいくと思い込んでいたようだ。その挙句、精神的に追い詰められ、自分が自分らしく生きていると実感できることがレイプ魔だったとしたら、一体何のために虚像を演じてきたのだろう(判決は懲役30年だった)。

できる男と思われたい。異性には好感を持たれたい。ライバルにスキを見せたくない。ビジネスマンならそれくらいのことは思っている。でも、まわりの人に個性をさらけださなければならないとか、欠点を隠さなければならないとか、考え過ぎは良くない。

■「みんなに愛されるキャラ」は案外脆い

自分を振り返ってみて欲しい。多くの人の周囲でもあるあなたは、すべての人を細かく観察したり、自分と比較して心のなかで優劣をつけたりしていないだろう。そんなことをしていたら疲れるし、そんなことができるほどヒマだとしたらそっちのほうが問題だ。

といって、周囲などどうでもいいと開き直り、好き放題に振る舞うこともしていないだろう。ビジネスマンは組織のルールが身についているから、ちょっとやそっちじゃその枠からはみ出さないものだ。

いまのままで万事OKと言いたいのではない。それでは何も変わらない。人はどうしてもよく思われたくて無理をしがちだ。自己演出が過剰になっていないか、そこを見直すことでほんの少し、余裕が生まれると思う。

その第一歩が、周囲との関係だ。みんなに愛されるキャラクターは一見強いが、何かあればギャップの大きさから、みんなに疎まれる存在になりかねず危険。それよりも、目指すべきは多様性だ。

あなたを信頼している人、仕事ができると思っている人、ユニークだと思っている人、早く禁煙しろと思っている人、やや批判的な目で見ている人。いろんな角度から見られることは、あなたがピンチのときに、いち早く気づく人がいるということでもある。本当に助けが必要なとき、遠ざかってゆく人がいる一方で、逆に近寄ってきてくれる人がいる。目指すはそんなビジネスマンだ。

あなたが思うほど、周囲はあなたに興味を持っていない。しかし、あなたが真摯に生きていれば、周囲の誰かがそれに気がつき、広めてくれるのである。

(コラムニスト 北尾 トロ)