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東北大学は、東日本大震災で大きな被害を受けた人の追跡調査データを分析し、被災者はうつやPTSDなどの精神的健康のみならず、口腔の健康も悪化しやすいことが明らかになったと発表した。

同研究は、東北大学大学院歯学研究科の松山祐輔歯科医師、相田潤准教授らの研究グループによるもので、5月4日付で「American Journal of Epidemiology 2017」に掲載された。災害の健康への影響は長期におよぶものの、被災者の歯の健康状態を被災前後で比較した研究はなかったため、同研究では、震災被害の歯の本数への長期的な影響を明らかにすることを目的としている。

同研究グループは、JAGES(Japan Gerontological Evaluation Study, 日本老年学的評価研究)の一環として、東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県岩沼市に住む、65歳以上高齢者3,039人の震災前(2010年8月)と震災後(2013年10月) の追跡調査データを分析した。震災の被害は、「震災による経済状況の変化 」、「家屋の被害」、「家族・友人の喪失」について調査し、歯の本数の変化は、2010年の回答と2013年の回答を比較して、2013年でより少ない本数を答えている人を歯の喪失ありと定義した。また、その他の要因の影響を取り除くため、性別、年齢、 教育歴、震災前の所得・健康状態、震災後の精神的ストレスを統計的に調整し、さらに、調査で測定できていない未知の要因の影響を取り除くため、操作変数法をもちいた回帰分析での分析を行った。

分析の結果、回答者の平均年齢は73歳、男性が45%であり、回答者のうち8.2%が歯を喪失し、震災被害が大きい群で歯の喪失が多いという関連が見られた。また、すべての要因を考慮後、経済状況の悪化は歯の喪失リスクを 8.1% (95% CI: 0.5, 15.7)増加、家屋の被害は歯の喪失リスクを1.7% (95% CI: 0.2, 3.3※)増加させていた。ただし、経済状況と家屋の被害は、異なるモデルに入れているので単純に比較はできず、経済状況の影響が家屋被害よりも大きいとは言えない。経済状況の悪化は家屋被害からもたらされる部分も大きい現状があるという。なお、家族・友人の喪失と歯の喪失リスクとの間に統計的には有意な関連は認められなかった。 ※95%信頼区間。仮に調査を100回した場合、そのうちの95回は歯の喪失リスクが0.2%~3.3%の間にあるということ。

同研究により、被災者はうつやPTSDなどの精神的健康のみならず、口腔の健康も悪化しやすいことが明らかとなった。震災直後の避難所での口腔衛生の支援、歯ブラシの配布、歯みがきする場所の確保、家屋の早期再建などが対策として考えられ、継続的な支援が必要とされるという。また、これまで議論のあった社会経済状態が健康状態に影響するという因果関係を、高いレベルで明らかにした点でも学術的意義があるということだ。

(シマダマヨ)