ボクサー役で共演した菅田将暉&ヤン・イクチュン
 - (C) 2017『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ

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 歌人、劇作家の寺山修司さんの長編小説を映画化する『あゝ、荒野』の撮影現場で、主演の菅田将暉(24)と『息もできない』などの映画監督、俳優のヤン・イクチュン(41)がインタビューに応じ、肉体改造を含めた過酷な“ボクサー生活”を明かした。本作で、菅田はかつて自分を裏切った詐欺師仲間に復讐しようとする新次、ヤンは吃音のコンプレックスを克服しようとするバリカンこと健二と、それぞれ異なる目的でボクサーを目指すアウトローにふんしている。

 2016年9月5日、まだ残暑が続く栃木県足利市で行われたのは、ボクシングジム「海洋拳闘クラブ」内のシーン。長袖のトレーナー&ジャージを着用した菅田は汗だくで、湯気が立ち上りそうな様子だ。2011年に故・蜷川幸雄演出、嵐・松本潤主演で舞台化もされている名作小説「あゝ、荒野」の映画化でメガホンをとるのは、これまでドキュメンタリーを多く手掛け、初の長編劇映画『二重生活』以来、菅田と2度目のタッグを組む岸善幸。菅田は、「『二重生活』の時はご一緒させていただいたのは2日ほどだったのですが今回この長編でご一緒してよくわかりました。大変です」と岸組のハードルの高さを吐露しつつ、「カットごとに違うことが生まれてくる」現場を楽しんでいるという。

 本作が初共演となる菅田とヤンだが、菅田が「『息もできない』のときは怖いイメージでしたが、実はチャーミングで年下かなと感じるぐらい笑顔がピュア」とヤンの人柄を褒めれば、ヤンは菅田のアクションシーンの動きを「スパークリングをしているときは虎のよう」「男の中の男」と絶賛し、互いの才能にほれ込んでいる様子。

 ボクサーを演じるにあたって菅田は、役者人生初の肉体改造に挑戦。「クランクインまで半年かけて、たくさん食べて筋トレで、55キロから65キロへ、10キロ増量しました。ラストファイトのシーン撮影が近づくと今度は体重を絞る作業に入り、炭水化物を減らして飲み物も糖分が入っているものは控えた」と言い、最終的には炭水化物を完璧にカットしていった。一方、ヤンはラストファイトのシーン撮影までに、半年かけて63キロを目指し10キロ減量。「肉体の左側だけを使うのは初めての経験で、ボクシングの練習をしているうちに自信がついてきて『かかってこい!』というような心境になる」とトレーニングの成果に驚き、「ケンカしたいわけじゃないですけど、(相手が)かかってきたら返せると思います」と自信を見せる。

 この日撮影されたシーンの中で、「新次みたいになりたい」と言うバリカンに、新次が「無理無理、アニキはアニキ。俺は俺」と返す場面がある。それは両者のすれ違いを表す哀しい場面でもあり、撮り終えた直後にヤンは「新次はバリカンにとって家、親のような存在だったかもしれない。すごく愛している相手、恋人同士が別れるしかないと思った瞬間のように」と述懐。菅田は、「友達って淘汰されていくじゃないですか。例えば僕が俳優になるにあたって上京して、遠く離れるという物理的な理由で会わなくなるというのはまだわかる。でも、会える距離にいるのに会わなくなる友達もいますよね。僕にはそういう存在が何人かいて、バリカンはそんな奴をイメージしていました」とすれ違う新次とバリカンの関係に自身と友人たちの姿を重ねる。

 さらに「バリカンと新次がお互いに尊敬し合って、面白いところ、ダメなところ、バカなところを知っていくという対等な関係から、それぞれボクサーを目指して切磋琢磨するなかでどこか対等じゃなくなってしまう。それは新次からしたらすごく悲しいことなんですよね」と、突き放すかのような言動をとる新次に思いを巡らせる菅田。「『こっちがステップアップしているんだから、(バリカンにも)同じようにステップアップしてほしい。そうすればつながっていられるのに』と。『もう弱かったころのアニキではないんだからアニキはアニキで、新次は新次で好きに生きていけばいいじゃないか』と言っているような気がします」。

 ヤンも菅田の深い分析に触発されたようで、次のように続ける。「もともと脚本の中に泣くとかいう表現はなかったんですけど、今日泣きました。台本を読んだときにはこのシーンでこんな感情が沸いてくると思っていませんでしたが、やってみてすごく重要なシーンだとわかり、すごく不思議な気分になりました」。菅田いわく、監督と話し合いラストは「新次とバリカンのセレモニーのように」なる予定。過酷な肉体作り、監督のスパルタ演出を経験し、絆をはぐくんできた菅田とヤンのボクシングシーン、胸アツのドラマに期待したい。(編集部・石井百合子)

映画『あゝ、荒野』は10月7日(前篇)、10月21日(後篇)公開