CM、映画主題歌、書籍など、2017年絶好調な井上苑子


4月26日に春ツアーのファイナルで東京・中野サンプラザホール単独公演を成功させた井上苑子。


2月にスマートフォン『Galaxy S7 edge』のドラマCMで披露した槇原敬之「どんなときも。」のカバーが放送や配信で話題となり、映画『ReLIFE リライフ』の主題歌とエンディングテーマを担当、4月には初のアーティストブック『井上は。』を刊行するなど、今年に入ってからの活躍はこれまで以上に目ざましい。


夏には5枚目のシングルリリースや、新木場STUDIO COASTでのライブイベント「井上苑子夏祭り(仮)」も控えており前途も洋々だ。


2015年7月のメジャーデビューから約2年。SNSから口コミで名を広げていった彼女だが、先に述べたホール規模のワンマンライブの成功や、スポーツメーカー・ミズノのキャンペーン「ミズノ部活応援宣言!」のイメージキャラクターおよびテーマソングを務めていることから、その人気は大企業や多くのファンを取り込んだ大きな規模になりつつあることがわかる。


しかし井上苑子を支持する層の中心は、インディーズ時代から大きくは変わらず、彼女自身と同じ10代の女性たち。歌詞サイトでは西野カナ、back number、RADWIMPSなどの楽曲と並んで絶大な人気を得ており、新曲をリリースすれば毎度上位をマークしている。


ここでは井上の生み出す歌詞から、10代女子の共感を呼ぶポイント、ひいては彼女たちの恋愛観を読み解いてみよう。


 


大好きが止まらない!“恋愛初期衝動”に時代背景は関係なし?


井上苑子の楽曲で特に歌詞人気の高い「大切な君へ」「だいすき。」「ふたり」「ナツコイ」。これらに共通する特徴のひとつは、相手への“好き”という気持ちを、濃度100%でまっすぐに綴っている点だ。


“何も手につかない 頭から消えない 会いたくって会いたくってドキドキが止まらない”(「だいすき。」)


“好き 好き 好き過ぎる”(「ふたり」)


“なにもかもが大好きだ”(「ナツコイ」)




相手を全肯定、どころか相手以外目に入らない。そんな“恋愛の初期衝動”とも言える青春時代ならではのみずみずしい感情を、てらいなく素直に表現している。


「好き」が溢れている心の中に対して、実際の行動は


“ふたりだけでいる時間なのに 緊張ばかりで話せないんです”(「ナツコイ」)


“2人の話はそういつだって 私はうなずくだけの会話 それだけでも幸せで”(「大切な君へ」)




井上自身も、好きな人に自分から話しかけることができないというシャイな性格。自身の体験、実感を絶妙な塩梅で曲に織り込んでいるところが、同世代がリアルに感じ、彼女のシンガーソングライターとしての手腕が奮われている部分でもある。


大人から見れば、これほどピュアな曲が“SNS世代”の若者に本当にウケるのかと首を傾げる人もいるだろう。けれど、このストレートで普遍的な言葉こそが現代女子の心をつかんでいる。


ということは、どれほどコミュニケーションが多様化しようと、恋をしている乙女の心模様はいつの時代も変わらないのかもしれない。例えば教室で好きな人を目で追ってしまう、部屋で妄想を膨らませてドキドキが止まらない、好きな人のことをあれこれ考えては一喜一憂する、といった少女マンガさながらの現象は“不変の乙女の性”で、井上苑子はそれを曲にしている。


相手にはもちろんのこと友達の前でも言えない、ピュアな心情が曲になっているとくれば、恋愛中の女子には“そんちゃん”が自分の想いを代弁してくれていると思えるのではないだろうか。


 


リスナーに寄り添う“応援”型ラブソング


同世代の共感を得るコンテンツには“親近感”が必要不可欠だ。親近感を感じさせる手法は様々だが、井上の場合は、自分の恋愛観を吐露するだけのものとは異なる“応援”タイプのラブソングを制作している。いわばエールソングの要素を兼ね備えているのだ。


2016年12月にリリースされたシングルがまさに「エール」というタイトルだが、曲中では


“がんばれが逆にプレッシャー だよね、言わないわ”


とあり、「頑張れ」ではなく「一緒に頑張ろう」というのが彼女のスタンス。



また「ミズノ部活応援宣言!」のタイアップ曲としてこの春発表された最新曲「スタート!」のミュージックビデオでも、多様な種目のスポーツマンと井上が同じフィールドに立ち一緒に踊っている。



常にスクール世代に寄り添い、同じ目線からメッセージを編み出す。それは井上苑子のキャリアにおいて初期から現在まで一貫している。本人も、ファンとは友達のように接し、理想のアーティスト像について「もっともっと距離感を感じさせない人になりたい」と公言しているほど。


オリジナルのストーリーを紡ぎながら、今恋している人の背中をそっと押す“エール型ラブソング”は、今後も彼女のスタイルのひとつとなっていくだろう。


箸が転んでもおかしい時期と俗に言うJC・JK期を経て、現在大学に通う19歳の井上。彼女自身の年齢や経験が楽曲に反映されてきたと考えれば、これからはあらたな側面を垣間見ることになるだろう。10代のピュアネスに大人のほろ苦さがどう混じってくるのか楽しみなところだ。


TEXT BY 鳴田麻未