千葉・幕張海浜公園で開催されるレッドブルエアレース・ワールドチャンピオンシップ第3戦(6月2、3日)をおよそ3週間後に控え、日本人パイロットの室屋義秀がメディア対応を行なった。


圧倒的な強さで第2戦を制した室屋 室屋は日本でのレースを目前に控えたこの時期、活動拠点のふくしまスカイパークでメディアの取材を一括して受けるのは恒例だが、今年はメディアの注目度も今まで以上に高まっている印象を受ける。やはり直近のレース、すなわち4月にアメリカ・サンディエゴで行なわれた今季第2戦を制したことが大きく影響しているのだろう。

 日本でレッドブルエアレースが開催されるのは、今年で3年連続3回目。パイロットのみならず、機体、チーム体制を含め、室屋のコンディションは過去最高の状態にあるのは間違いない。

 昨季の千葉戦を振り返ってみると、室屋は結果的に優勝できたが、決して順調にレースを迎えたわけではなかった。昨季開幕直前に取り換えられたGメーター(飛行機に取り付けられた荷重測定機器。レース中の最大荷重はルールにより10Gに制限されている)への対応に苦しみ、開幕から2戦連続でオーバーG(10Gを超える違反)を犯し、DNF(ゴールせず)で敗退していた。

 2戦続けての優勝や表彰台はおろか、ラウンド・オブ・8に進出するのが精一杯という結果では、レース前に優勝を期待するのは難しい状況にあったというのが、昨季の千葉戦だったのである。

 しかし、今季は開幕戦こそエンジンの不調に見舞われ、昨季同様オーバーGを犯してラウンド・オブ・14で敗退したが、エンジンの問題が解消された第2戦では、各ラウンドで対戦相手をねじ伏せて見事に優勝。結果だけでなく、内容的に見ても「圧巻の強さ」と表現していい勝ちっぷりだった。

 室屋自身、1年前を振り返り、「昨季の今の時期は、機体の性能的にもう一歩速くならないと1位は取れない、という状態だった」と明かす。

 実際、昨季は千葉戦の直前、空気抵抗を減らすために機体の胴体とタイヤをつなぐ脚の部分に新型のカバーを取りつけている。室屋が「ファイナル4での2位とのタイム差は0.1秒しかなかったことを考えると、新型カバーで速くなった分が優勝につながったと言えるかもしれない」と話しているように、コンマ1秒を縮めるために、最後の最後まで機体の改造を続けなければいけなかったわけだ。

 だが、今季は違う。室屋の言葉を借りれば、「改造の予定はなく、ファインチューンするだけ」。不安なくレースに臨める状態まで、すでに機体は仕上がっている。

「今年はサンディエゴで勝っているので、その(機体の性能で劣る)心配はない。焦って改造する必要はなく、リラックスして楽にレースを迎えられる状態にある」

 アブダビでの開幕戦で室屋を悩ませたエンジントラブルも、すでに原因の特定に至り、解決に至っている。

 新たに導入したクーリング(エンジン冷却)システムの問題なのか、あるいはエンジンのシリンダーとピストンを交換したことが原因なのか。レース当時は、問題点がはっきりしなかったが、その後、クーリングシステムがうまく機能していなかったことが判明。アブダビ戦後、(詳細はここでは記さないが)再び新システムを機能させるべく、試作とテストを繰り返し、結局、導入断念という結論に達した。

 結果として、大まかなクーリングの仕組みとしては昨季のシステムに戻すことになったため、一歩後退の印象も受けるが、それでも十分に戦えることはサンディエゴ戦での優勝が証明している。室屋が語る。

「それだけ昨季の機体の状態がよかったということでもあるし、実際はオイルクーラーなど、少し改良している部分もある。また、(レース機は空冷エンジンのため)たくさん空気を取り込んで冷やせば、エンジンには余裕が出るが、その分、抵抗が大きくなってしまうなかで、最適値を求めてセッティングを詰めてきたので、それで(昨季より)速くなっているんだと思う」

「ピースは揃っているが、それがかみ合わなかった」と表現する昨季を経て、今季は「昨季までに性能的に揃ってきたものが、レースでうまく使えるようになってきた」と室屋。次の第3戦でも、この日本人パイロットが表彰台の真ん中に立つ可能性は十二分にある。そう言い切ってしまうことは、もはや希望的観測でも何でもないだろう。

 千葉でのレーストラックの形状は、まだ公式発表はされていないが、室屋によれば「昨季とは全然違う」。昨季までは屈指の高速コースとして名を馳せた千葉のレーストラックだが、「今までよりもテクニカルなコースに変更され、難しくなる」とのことだ。

 それでも昨季、各パイロットを恐れさせた、通称”マクハリターン”(観客席から見て、コース右端に設けられるバーティカルターン)は今季も健在。室屋は「タイムを縮めようとすると、バーティカルターンに入る前のゲートが難しくなる。(ファイナル4などで)際どい勝負になれば、そこでパイロンヒットも出てくるだろう。(観客席から見てコース左端の)水平ターンと合わせて、この2カ所が見どころになると思う」と語る。

 室屋は来る今季第3戦に、”ふたつの連覇”をかけて挑むことになる。ふたつの連覇とはすなわち、昨季からの千葉戦での連覇と、今季第2戦からの連覇である。

 千葉戦を前に、室屋の話を直接聞けるラストチャンスとあって、この日は福島に多くのメディアが集まった。室屋が言うように「地元の応援があるので、千葉戦は有利」な一方で、相応にプレッシャーも大きいのは間違いない。室屋のコンディションが過去最高であるように、地元優勝への期待もまた、過去最高と言っていいだろう。

 時折笑顔を見せ、冗談を口にしながら、長時間にわたる取材対応を順次こなしていく室屋。レース3週間前にこれだけしっかりとした取材機会を設けているのは、裏を返せば、これを最後にレースに集中させてもらいます、という室屋からの合図でもある。

「千葉戦は(今季全8戦の)3戦目ではあるが、次(第4戦)のブダペストからはヨーロッパラウンドに入っていくので、そこからは後半戦という感じ。千葉戦は、いわば前半戦の最後なので、十分な準備をして100%の力を出し切りたい」

 ふたつの連覇達成へ。室屋は周囲の期待をひととき忘れ、静かに臨戦態勢へと入っていく。

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