「中国で息子と2人暮らしをしていた」と言うと、日本の人々は「すごいですね」「大変だったでしょう」と驚く。しかし、「仕事と子育ての両立」に関して言えば、中国の方がずっと楽だった。写真は筆者撮影。勤務先の職場イベントでも、子連れ参加は当たり前。

写真拡大

小さな子どもを2人抱える日本の知人が、下の子の急な病気で出社できなくなったとき、「忙しい時期にすみません」と、上司や同僚に謝りながら休暇を申請していた。その姿を見て、私も息子が小さかった頃はあちこちに謝ってばかりだったなあと、同情せずにはいられなかった。

「中国で息子と2人暮らしをしていた」と言うと、日本の人たちは「すごいですね」「大変だったでしょう」と驚く。しかし、「仕事と子育ての両立」に関して言えば、中国の方がずっと楽だった。

中国は共働きの国だ。日本の大使館に赴任した外交官の妻でさえも、「自分で稼いだお金で買い物をしたい」と言う。中国人女性向けのイベントで講師をした際、専業主婦がいるか問いかけたら、1人しか手が挙がらなかった。

中国の女性にとっては、定年まで働くことも、子どもを持つことも当然の選択。ゆえに、子育てと仕事の両立は、特定の層にとどまらない社会全体のニーズである。例えば、中国の小学生は1人で下校せず、保護者が迎えに来る。祖父母に頼めない夫婦は託児所を利用することが多いが、どちらかが職場を抜けて子どもをピックアップし、自分の仕事が終わるまで職場で宿題をさせていても、誰も何も言わない。

小学校が午前中で終わるときは、子どもを勤務先の食堂に連れて来て一緒にご飯を食べる。学校の運動会で、手の込んだお弁当を持ってくる子はいない。パンを持ってきたり、近くの食堂に食べに行ったりする。そもそも、運動会の日が前日に通知されたりするので、日本のように朝5時に起きてお弁当作り、という気にもならない。

中国のいい加減さも、子育てにはむしろプラスに働く。息子が通っていた現地の小学校では、その日の夜になって「明日は職員研修のため、学校は休み」と連絡が来ることがたまにあった。当初は、連絡を受けて慌てふためいたりもしたが、そのうち動じなくなった。普段、放課後に息子を預けている託児所に頼めば、朝から預かってくれるし、勤務先に事情を説明すれば、休むことも、子連れ出勤も難しくない。

仕事は大事だが、子どもはもっと大事。そして、子どもの学校は突然休みになったり、午前下校になったりする(学校に限らず、直前に予定が変わることはしょっちゅうある)。近くに祖父母がいない場合は、親が見るしかない。親が共働きなんだから、どちらかが休むしかない。全て当たり前で、お互い様だから「ごめんなさい」と言う必要もない。「ありがとう」で十分だ。

中国には日本のような手厚い育児休暇はない。半年の産休があるのみだ。昨年2月に出産した同僚は、4月に職場復帰した。ただし、午前中の2時間だけ勤務して帰宅する。時短という制度はなく、ニーズに合わせて現場で柔軟に対応している。

小さな子どもは、自分の思い通りには動いてくれない。日本の保育園待機児童問題や、男性の育児休業取得率のニュースを見るたびに、子育てという不条理を制度でカバーするには限界があるのではないかと感じる。中国のルーズさと属人主義は、この国とビジネスをする相手を大いに悩ませるが、細かい決まりがないからこそ各自が融通を利かせ合い、臨機応変に対応し、働く母親の負担を吸収することもできる。

日本の働く母親は謝ってばかりだ。謝っているうちに、自分の選択に自信が持てなくなり、何かを断念する人も少なくない。最近は、女性活用ブームで、北欧の事例などがしばしば報道されるが、そんな遠くまで行かなくても、すぐ隣の国に私たちワーキングマザーがもう少し楽に働けるヒントは落ちている。

■筆者プロフィール:浦上早苗
大卒後、地方新聞社に12年半勤務。国費留学生として中国・大連に留学し、少数民族中心の大学で日本語講師に。並行して、中国語、英語のメディア・ニュース翻訳に従事。日本人役としての映画出演やマナー講師の経験も持つ。