韓国社会は金正恩の術中に嵌った

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 秘密の通信を行う暗号といえば、ドイツのエニグマなどスパイ活動と切っても切り離せない。北朝鮮も、長らく短波やAMラジオ波を利用した乱数表による暗号で連絡をとることで知られていた。しばらく利用されていなかったが、約1年前から北朝鮮で復活している。ジャーナリストの李策氏が、乱数放送がなぜ復活したのか、その狙いは何なのかについて報告する。

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 北朝鮮は昨年6月、2000年の南北首脳会談を機に中断していた乱数放送を再開。概ね2週間ほどの間隔を置き、AMラジオで流し続けている。

 内容は例えば、「今から27号探査隊員のための遠隔教育大学数学復習課題をお伝えします」とし、「542ページ66番、662ページ6番……」という具合に暗号化されたメッセージを読み上げるものだ。

 暗号を伝える場合、短符と長符を組み合わせたモールス信号は相当の訓練を積まないと受信できないが、音声による数字の読み上げなら、北朝鮮の工作員が韓国などで獲得した協力者など、アマチュアに近い人物でも容易に受信できる。さらに、乱数放送は受信者の特定が極めて困難であるという特徴もある。

 日本の公安関係者によれば、「北朝鮮は、乱数放送を中断していた間は、一部でモールス信号を併用しながら最新の暗号化技術を用いた電子メールで国外の工作員に命令を伝達していた」という。

「しかし、北朝鮮が海外に設置した工作拠点や、日本の在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総聯)の関係者に送った指令メールが韓国当局により傍受され、受信者が露呈。その行動が徹底的に洗われたことで、韓国国内に築いた地下組織が次々に摘発された」

 例えば2011年8月、韓国・ソウル中央地方検察庁は、北朝鮮の工作機関「225局」の指示で地下組織「旺載山(ワンジェサン)」を立ち上げ、諜報活動に従事した5人の韓国人を国家保安法違反で起訴している。

 乱数放送の再開が、こうした失敗に学んでのものであることは確実だ。

 そこで流される暗号が何を意味し、誰が受信しているかはいまだ謎だが、韓国の大統領選にからむ指令が含まれていたとしても、何ら不思議はないだろう。北の老獪な工作活動が、韓国社会を内から瓦解させようとしている。

●李策(り・ちぇく)/1972年生まれ。朝鮮大学校卒。日本の裏経済、ヤクザ社会に精通。現在は、北朝鮮専門サイト「デイリーNKジャパン」などを足場に、朝鮮半島関連の取材を精力的に行っている。

※SAPIO2017年6月号