14日に両国国技館で初日を迎える大相撲夏場所では、春場所で劇的な逆転優勝を果たし、連覇を飾った横綱・稀勢の里(30歳・田子ノ浦部屋)の動向に注目が集まっている。

 先場所13日目に負傷した左腕は完治しておらず、爆弾を抱えながらの過酷な土俵に挑む横綱。場所前に元横綱・北の富士が「出るも地獄、休むも地獄」と評した険しい道を乗り切って3連覇を達成するのか。それとも、道半ばで力尽きるのか。今後の力士生命を左右する可能性もある、緊迫の15日間になるだろう。

 一方で、忘れてはならないのが横綱・白鵬(32歳・宮城野部屋)の逆襲だ。


両国国技館で行なわれた稽古総見で順調な仕上がりを見せた白鵬 先場所は4日目に平幕の勢(いきおい)に敗れた際、右足親指の捻挫と右太ももの筋肉損傷を併発して5日目から休場に追い込まれた。場所後は、春巡業の前半を休んでモンゴルへ帰国するなど治療に専念。幸いケガは順調に回復して精力的に出稽古を重ねてきた。昨年の夏場所以来となる、1年ぶりの賜杯奪還に向けて態勢を整えている。

 白鵬だけではない。同じ横綱の日馬富士(33歳・伊勢ケ浜部屋)、鶴竜(31歳・井筒部屋)もケガを抱えながら綱の責任を果たすべく優勝を目指す。さらに、春場所で稀勢の里と決定戦まで優勝を争った大関・照ノ富士(25歳・伊勢ケ浜部屋)も、悔しさを糧に2年ぶり2度目の賜杯へ挑む。

 夏場所は、稀勢の里にモンゴル勢が挑むという構図になるだろう。稀勢の里との相撲では、誰もが駆け引きなしの真っ向勝負を挑んでくるに違いない。そこで、あらためて考えなくてはいけないのが「土俵を見守るファンの姿勢」だ。

 春場所では、14日目に琴奨菊を変化で破った照ノ富士に、「観客から残念なヤジが飛んだ」と一部で報じられた。この問題は国会でも取り上げられ、文科省が相撲協会へ調査を指導する事態にまで発展。確かに、照ノ富士の相撲内容は、大関としては褒められたものではなかったが、古傷の左ヒザを痛めた状態で、勝負に徹するために悩んだ末の決断だったことは間違いない。

 琴奨菊が大関復帰への望みが絶たれる6敗目を喫したこともあり、これまで以上に大きなブーイングが起きたことは想像できるが、度が過ぎたヤジは決して看過できる問題ではない。夏場所前、照ノ富士は先場所について「もう終わったことです。終わったことは話しません」と言葉少なに漏らした。

 照ノ富士の体には、胸を中心に両肩へかけて今までにはなかった発疹が見られた。本人は理由を明かさなかったが、心ない声へのストレスが異変の一因になったとも考えられる。こうしたことが続けば、横綱、大関陣の死力を尽くした勝負に水を差すことになりかねない。

 思い出すのは、2015年に亡くなった北の湖前理事長の言葉だ。1998年名古屋場所で横綱に昇進した3代目・若乃花から日本出身の横綱が誕生しない状況が続き、年が明けるたびに「今年こそ、日本人横綱の誕生を期待しますか?」と各メディアから質問を受けた。しかし前理事長は、「ファンの方が期待していますから頑張ってもらいたい」と言うにとどめ、自らが期待する旨の発言を控えていた。

 その真意は、「日本人だけに期待するとは言えません。どこの国の力士もみんな同じで、土俵で頑張っているんです。そこに国籍は関係ありません」だった。出身に関わらず、角界に入門したらみな同じ。番付上での地位の違いはあれど、それ以外で区別することはあり得ないという姿勢を、細部に至るまで徹底してきた。外国人出身力士に対して「1部屋1人」という規定はあるものの、角界は北の湖前理事長のポリシー通りに門戸を開き、平等に育ててきた。

 さらに言えば、2010年の野球賭博事件、翌年の八百長メール問題で場所の開催が中止になるなど、大相撲の屋台骨が崩れそうになった危機を支えたのは、「一人横綱」として土俵をけん引した白鵬だった。

 特に2010年には、土俵外のスキャンダルが世間を騒がせる中、双葉山の69連勝に次ぐ63連勝を達成。当時の放駒(はなれごま)理事長(元大関・魁傑)は「白鵬がいなかったら大相撲はもたなかった。白鵬が頑張ってくれたから、ファンが土俵に興味を持ってくれた」と絶賛。また、東日本大震災の被災地慰問で横綱土俵入りを披露したり、力士会会長として十両以上の全関取に寄付を呼びかけ、土俵を寄贈したりするなど心を尽くしてくれた。

 稀勢の里フィーバーに沸く大相撲だが、白鵬をはじめ、モンゴル勢を含む外国人力士の精進努力を忘れてはならない。素晴らしい相撲を見たい気持ちはすべてのファンが持っている。そのためにも、各力士が背負っているバックボーンに思いを馳せて土俵に拍手を注ぎたい。そのひとつひとつが、白熱の一番につながるはずだ。

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