5月7日午後10時半過ぎ、2時間前に決戦投票で極右政党「国民戦線」(FN)のマリーヌ・ルペン氏を破って第25代フランス大統領に当選した「前進!」代表のエマニュエル・マクロン氏がルーブル美術館前の広場に姿を現すと、数万人の大観衆が三色旗を打ち振り、「マクロン!」「大統領!」という割れるような歓声と国歌ラ・マルセイエーズの大合唱が沸き起こった。

 39歳で当選したマクロン氏は、1848年に40歳で当選したルイ・ナポレオン(後のナポレオン3世)の最年少記録を塗り替えた。

 熱狂的な群衆による国歌の大合唱は、若き新大統領に「変化」と「希望」を託した応援歌のように聞こえた。

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強い愛国心をアピール

 決選投票の得票率はマクロン氏が66.06%、ルペン氏が33.94%だった。第1回投票ではマクロン氏が24.01%、ルペン氏が21.3%だったので、得票率の差は大きく広がった。国民が「自由、平等、博愛」の旗の下、「反極右」「反脱欧州」で結束したということだろう。

 マクロン支持層は比較的学歴が高く、経済的にも恵まれた層だという分析がある。確かにパリなど大都会ではマクロン氏の得票率は約90%に達した。

 ただし、移民や移民2世が多く、低所得者や低学歴層が多いパリ郊外でもほぼ同率だった。マクロン氏を祝福する群衆の中にいたある中年の黒人男性は、「マクロン当選で安心した。これで移民が追い出されずにすむ。嬉しい。フランス共和国万歳!」と興奮気味に語っていた。

 マクロン氏は約12分の勝利演説の最後に、「われわれの国是、“自由、平等、博愛”の名にかけて、みなさんに奉仕する」と誓い、フランスが極右的な思想とは相容れない「共和国」であることを改めて強調した。

 ルペン氏は「フランス第一」を主張したが、マクロン氏の愛国心のアピールも負けていなかった。4月17日のパリ・ベルシーでの大集会では、約1万5000人の支持者の前でフランスへの「愛の賛歌」を力強く表明した。「その歴史、その地理、その哲学、その国語、その文化、その化学・芸術を持つフランスを愛する」「その過去も未来も愛する。かくも美しく、かくも偉大で、かくも気品に溢れたフランスを愛する」と高らかに叫び、元来、誇り高い愛国者であるフランス人を熱狂させた。

親欧州の「現実的」な政策

 ルペン氏の基本的なスタンスは反「欧州(EU)」だ。約10%の高失業率やテロを含めた治安悪化など全ての悪の根源は「欧州(EU)」にあるとしている。ルペン氏が決選投票に進めたのは、この主張が労働者層や失業者層に受け入れられたからでもある。

 しかしフランスは、「脱EU」を決めた英国とは異なり、EUの単一通貨ユーロを使用しており、「シェンゲン協定」(加盟国間での自由往来を認める協定)にも加盟している。実際問題として、通貨変更は経済の混乱を招く。また、ルペン氏はテロリストが難民とともに国境を越えてやってくると指摘するが、大半のテロリストは国内在住のフランス人だ。

 一方、マクロン氏は親欧州(EU)のスタンスである。「EU内で強いフランスになり、EU委員会と有利な交渉をする」と唱える。またテロ対策、IS対策としては「国際的ネットワークや国際的軍事力で包囲する」としている。国民は、そうしたマクロン氏の政策のほうが現実的で説得力があると受け止めたというわけだ。

 ただ、今回の大統領選(決選投票)で有権者の中の棄権率が約25.38%(内務省調べ)、白票が11.49%(同)と選挙に背を向ける国民が多かった点は気にかかる。約4700万人の有権者のうち、マクロン氏に票を投じたのは約2000万人、ルペン氏に投票したのは約1000万人だった。つまり、マクロン氏は有権者の半数未満、ルペン氏への投票者は、棄権や白票を投じた人より少なかった。

ルペン氏はテレビ討論で墓穴

 ルペン氏の最大の敗因は、決戦投票前の1対1のテレビ討論で墓穴を掘ったからだろう。

 5月3日に行われた討論は、「史上最悪」と評された。ルペン氏は冒頭からマクロン氏を「経済相殿」と呼び、低支持率のオランド政権の一員であることを強調した。さらに、「銀行家」(かつてマクロン氏はロッシルド商業銀行のナンバー2だった)、「タックスヘーブンに隠し口座がある」などと大げさなジェスチャーを交えて激しく攻撃した。この「隠し口座を持っている」という情報は討論直前にインターネットで流れた出所不明の噂であり、マクロン氏は「名誉棄損」で相手不明のまま告訴している。

 マクロン氏は、こうしたルペン氏の挑発に乗らず、理路整然とビシビシと反論した。

 フランスの大統領は、国際舞台で米国のトランプ大統領やロシアのプーチン大統領、ドイツのメルケル首相など手ごわい面々を相手に、国の威信をかけて戦っていかなければならない。マクロン氏がテレビ討論で見せた冷静で自信に満ちた受け答えは、他国の首脳に決して引けを取らないと思わせるものだった。

 ルペン氏は、肝心の「欧州問題」に関して基本的な事実誤認があり、支持者を愕然とさせた。まず、ユーロ導入の年月日を間違えてしまった。また、「英国はEU離脱後の2016年第4四半期に景気が最高に良くなった」と指摘したものの、実際には英国はEU離脱の交渉を3月末に開始したばかりで、まだ離脱していなかった。

マクロンの党には「投票しない」?

 5月14日に正式に大統領に就任するマクロン氏は、6月に最大の難関を迎える。6月11日、18日に行われる議会選挙(下院選、小選挙区制、577議席)だ。

 決戦投票でマクロン氏に投票した有権者の62%は、議会選挙では「他の党の候補者に投票する」と回答している(ルモンド紙の5月7日の調査)。

 マクロン氏は5月11日、議会選挙に出馬する428人の公認候補を発表した。半数は、これまで政界とは無縁の一般市民だという。過半数の議席が確保できないとなると、法案可決には共和党や社会党などの支援が必要になる。

 マクロン氏は勝利演説でも、「まだまだ、みなさんの力が必要です!」と議会選挙での支持を訴えた。この3年間、トントン拍子に「前進」してきたマクロン氏だが、前途は多難だ。

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筆者:山口 昌子