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川端由美の「CYBER CARPEDIA」



進化はネクストフェーズへと移った。これからは走りではなく、電脳化こそが自動車の未来を決める鍵となる。2020年の“自動車の常識”をモータージャーナリストの川端由美が現場から解説する。

THIS MONTH’S CYBER CARPEDIA

Winter Accademia Lamborghini 2017

年間を通して開催されるドライバーズ・トレーニングのうち、イタリアの高級スキーリゾートで行われるウィンター・アカデミアの様子。意外に知られていない事実だが、ランボルギーニは四輪駆動を基本とする。一日のレッスンで、雪上でのドリフト走行までスキルアップが可能だ。

フェルッチオの威信をかけたスーパー・スポーツカー



オーバー40歳世代なら、ランボルギーニといえば、小学生時代の”スポーツカー・ブーム”を思い出すはずだ。当時は、フェラーリ『512BB』とランボルギーニ『カウンタック』が、どちらが先に最高速300/hを超えるかで競い合っていた。F1での輝かしい勝利の戦績を持つ正統派のフェラーリに対して、トラクター・メーカーから一念発起してスーパースポーツカー・メーカーへと発展したランボルギーニという構図もまた対照的で、大いに盛り上がった対決だった。

その背景にはこんな逸話がある。トラクターの製造で成功したフェルッチオ・ランボルギーニが、いざ、フェラーリを手に入れてみたら……よく壊れる上に、クラッチの部品を注文したら、自社のトラックと同じ部品が数倍の価格の請求書と共に届いたという。一説によれば、そのことに怒ってフェラーリを抜くスーパーカーを作ってやる! と起業したとも言われるが、実のところ、ビジネスに長けていたフェルッチオがフェラーリを超える性能のスーパー・スポーツカーを作って儲けるぞ! と発想したほうが正しいだろう。50周年を記念したイベントの際に集まった創業メンバーにインタビューしたところ、フェルッチオはしっかりしたビジネスマンだったそうだ。



▲SUVモデル『ウルス』のプロトタイプが披露されて以降、なかなか市販化されずにいたが、ようやく2018年の発売に漕ぎつけた。社長を務めるステファノ・ドメニカーリ氏いわく、現在の年産3500台に加えて、SUVだけで3500台を増産する計画がある。

さらに、ジャン・パオロ・ダラーラやパオロ・スタンツァー二といった当代一流のエンジニアを得たこともあって、名車『ミウラ』に続いて、『カウンタック』を世に送り出す。その頃には、フェラーリと肩を並べるスーパー・スポーツカー・メーカーへと発展していたが、不幸なことに本業のトラクター・ビジネスで手痛い失注をしてしまって、創業者の手を離れることになるのだが、フェルッチオの威信をかけたスーパー・スポーツカーとしての哲学は受け継がれている。

現行モデルの『ウラカン』と『アヴェンタドール』は、いずれもスペインの闘牛にちなんだものだ。「フェラーリの跳ね馬に対抗して暴れ牛のエンブレムを付けた」という噂もあるが、どうやら、牡牛座生まれのフェルッチオにちなんで、スペインの有名な闘牛にちなんで名付けたいう説が有力だ。そんな風に、フェルッチオの魂が現代のランボルギーニには宿っているのだ。



▲強大なトルクを受け止めるべく、4WDモデルを基本としていたランボルギーニだが、ファンの熱烈なラブコールを受けて、『ウラカン』では後輪駆動モデルが追加された。前輪を駆動する方がトラクションを余すところなくタイヤから路面に伝えるため、コントロール性に優れる。が、あえて後輪駆動で、操る歓びを享受するのもアリだ。



▲フラッグシップ・モデルの『アヴェンタドール』が、約6年の月日を経てさらなるパワーアップを果たした。最高出力は+40psの740psへと高められており、最大トルクも690Nmと、超ド級のスペックを誇る。停車から100辧hまでを3秒以下で加速し、最高速は350/h(!)という俊足ぶりを発揮する。

カーボン・ボディにこだわる最新ファクトリー



1963年の創業から50周年を迎えた2013年、イタリア屈指の工業都市として知られるボローニャ・マッジョーレ広場を歴代のランボルギーニが埋め尽くすシーンに幸いにも立ち会った。ランボルギーニ初の市販車である『350GT』から最新の「アヴェンタドール』まで350台がイタリア半島を巡るグランド・ツアーを敢行したしたあと、生まれ故郷からほど近いボローニャの中心地に集合した。



▲マッジョーレ広場を埋め尽くした350台ものランボルギーニの群れ。

しかし、暴れ牛の隊列の最終目的地はここではなく、生まれ故郷のサンタガタ村である。幸いなことは続くようで、最新モデルである『アヴェンタドール』のために新設されたばかりのカーボン・ボディの工場とファイナル・アッセンブリーラインの見学がかなった。本社工場の敷地内には、創業当時からある建屋が残されていた。壁の色が白に塗り替えられてはいたが、子供の頃に集めた「スーパーカー・カード」の背景に写っていたノコギリ屋根の工場を見て、心底感動した。古びれた外観とは裏腹に、工場内は最新設備が整っており、当時はまだ『ウラカン』の先代にあたる『ガヤルド』とデビュー間もない『アヴェンタドール』の生産が行われていた。



▲サンタガタにある本社工場内に新設された巨大なオートクレーブでは、アヴェンタドールのボディ骨格となる大型のカーボン・パーツが焼成される。このために巨額の投資が行われた。

面白いことに、ワンメイク・レース用の車両も、市販車と同じ生産ラインで組み立てられていた。裏を返せば、剛性を高めるための補強や、軽量化のためのカーボン素材がふんだんに使われているなど、レースの世界で戦う武装は施されるものの、市販車もレーシングカーも同じ製造ラインで作れるほど、構造が近いことに関心する。



▲オートクレーブによる焼成や、RTM方式によって生産されたボディ骨格、ルーフ、ドアなどの部品を組み上げて、一台のクルマに仕上げる。CFRPは軽量なため、通常ならロボットで持ち上げるような大型部品でも、人間の手で持って組み込むことできる。

いよいよ、ハイライトとなる『アヴェンタドール』のために新設されたカーボン複合材(CFRP)の最新工場に足を踏み入れる。CFRPの生産プロセス上、小さなチリやホコリは大敵であるがゆえに、一般的にカーボン工場の見学はほとんど許されない。最も、クリーンルームに関しては、ガラス越しに覗くに留められたが、カーボン・ボディのような大型部品を焼成するためのオートクレーブが2基も設置されていることに、ランボルギーニが将来に渡って、カーボン素材の活用に本気であるかを思い知らされた。それほど、大きな投資なのだ。



▲オートクレーブでCFRPを焼成した後、厳正な品質管理を行う。カーボン繊維に樹脂を含浸させて成型する際に縮むため、部品として出来上がったときのサイズを計算してパーツを設計する。RTM方式で生産される部品も同様に、高い基準で品質管理がなされている。

4輪駆動の利点を活かして雪上を自由自在に走る



ランボルギーニ・オーナー向けに開催されているドライバーズ・トレーニングは、世界の有名サーキットで、現役レーシング・ドライバーによる指導を受けられるという贅沢なプログラムであり、その中でも、雪上ドライビング・レッスン「ウィンター・アカデミア」は、”ランボでドリフト”ができる個性的なプログラムだ。

スイス国境にほど近いイタリアのスキーリゾートでは、最新のランボルギーニが並んで出迎えてくれた。610ps/560nmもの強大なパワーを発揮するV10エンジンを積む『ウラカン』では、4輪駆動の『クーペ』と後輪駆動の『RWDクーペ』、さらにトップレス仕様の『スパイダー』が揃う。2016年末に発表された旗艦モデルをパワーアップした最新版にして、史上最強の740psを発揮する12気筒エンジンを積む『アヴェンタドールS』までが雪上に持ち込まれていた。



▲先頭が4輪駆動の『ウラカン クーペ』、後ろが『スパイダー』。3種のドライブ・モードのうち、電子制御が働いて姿勢を安定させる「ストラーダ」は普段の走行に向く。電子制御の介入を遅らせる「コルサ」ではタイヤが滑り出す。が、クルマを制御できれば、電子制御に頼らない方がクルマを速く走らせられる。

当然だが、4輪駆動の方が雪上で速く安全に走れるため、初心者向けだ。一方、後輪駆動モデルを雪上で操るには高い運転技術を必要とするが、操る喜びは倍増する。

レース部門のインストラクターを率いるフィリッポ・ザトッティさんをはじめ、7人の現役レーシング・ドライバーが同乗して、丁寧なレッスンを行う。円を描いて走る定常円旋回、8の字走行などを繰り返して、滑った状態でもクルマを制御下に置くことを体感したあと、最後に電子制御の助けを借りずに雪上コースを走る。



▲「定常円旋回」と呼ばれるレッスン。円を描くように走りつつ、速度を高めていくと、タイヤが滑って、クルマが外に向かっていく状況が生まれる。ハンドルを切ってクルマが内側に向いたら、アクセルを開けて再び加速する。これを繰り返して、ハンドルとアクセルの操作で円を描いて走れると、制御ができている状態だ。

カーブの手前でスピードを落とし、ハンドルを切ると、まもなくタイヤが滑り出す。オーバーステアといって、クルマが曲がりすぎる状態になったら、逆にハンドルを切って”カウンターステア”をあてて、すかさずアクセルを開ける。すると、思いの外、簡単にドリフトに持ち込める。クルマの姿勢が真っ直ぐになったら、アクセルペダル全開にすれば、雪上とは思えないほどスムーズに加速する。



▲ハンドルを切って、タイヤが向いている方向と反対にクルマが進む状態が、いわゆる“ドリフト”となる。タイヤが滑り出す感覚をつかんで、カウンターステアをあてるきかっけ作りのタイミングを体が覚えてしまえば、意外に、誰もが簡単にドリフトできる。

折角、スーパー・スポーツカーを手に入れたなら、そのパフォーマンスを引き出せるドライビング・スキルを身に着けて、乗りこなしてこそ、真骨頂が理解できる。多くの人にとって手の届かないドリーム・カーなだけに、幸運にも手に入れられる人は、乗りこなしてその魅力を堪能すべきだ。

文/川端由美

かわばたゆみ/自動車評論家・環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

※『デジモノステーション』2017年5月号より抜粋

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