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 神奈川県出身の4人組、HOWL BE QUIETが待望のメジャー1stアルバム『Mr. HOLIC』をリリースした。メジャーデビューから一貫してメディアで発言している通り、HOWL BE QUIETが鳴らすサウンドはある一つのジャンルに縛られるというようなことがない。リアルサウンドにて行ったデビュー時のインタビューでも、自身の音楽性をカテゴライズされることへの違和感、そして既存のバンドシーンの中に括られることへの嫌悪感をはっきりと口にしている。

「「Merry」「GOOD BYE」という曲でMVを作ったことも関係していると思うんですが、“泣けるバンド”“切ないバンド”という印象で語られることがすごく多くて。評価してもらえるのは良いことだし、幸せなことなんですけど、それだけで語られてしまうのは…。(中略)もっと幅の広い音楽をやっているつもりだったから、ひとつの言葉で括られてしまうのは本意ではなかったんですよね。」(参考:HOWL BE QUIETが語る、既存のバンドスタイルを超える方法「カテゴライズから飛び出したい」

 このような意識は曲作りにもしっかりと表れていて、アップテンポなピアノロックにストリングスが印象的に重なるデビューシングル曲「MONSTER WORLD」や、それまで存在感の薄かった電子音を大々的に取り入れることで生音の印象を拭い去った2ndシングル曲「Wake We Up」、かと思えばピアノが主体のサウンドに回帰しバラードに挑戦した3rdシングル「サネカズラ」まで、2016年にリリースした3つのシングルだけでも非常に野心的な試みが続いた。特に『サネカズラ』に収録されていたカップリング曲の「Higher Climber」のエレクトロ・サウンドは、「Merry」や「GOOD BYE」で見せていたピアノロックバンドの姿とはまるで異なる様相で、<どんな未来と旅に出よう どんな自分が待っているんだろう>といった未来志向の歌詞が、まさに変化を続けてきたこのバンドの予測不可能な将来を物語るような作りにもなっていた。さらに今作『Mr. HOLIC』で新録された「にたものどうし」のモータウン風の軽快な音作りであったり、テンションをぐっと落としてリズムと和声に工夫の凝らされた「矛盾のおれ様」など、多種多様なサウンドを取り入れることで、単なるロックバンドという言葉では片付けられない音楽性を獲得することに成功している。ある一つのジャンル・ミュージックに籠らず、全体的に間口を広めようという意識が随所からうかがえるのだ。

 そもそもロックバンドであることを謳っていながら、その佇まいにはまるでロックらしさがないのは、ある意味でかなりロックである。例えば1曲目のタイトルが「ラブフェチ」であったり、3曲目の「ギブアンドテイク」の<振り回してよ 求めてよ 寂しくさせないでよ>、「矛盾のおれ様」にある<ねえ聞いて? 俺ってばこんなにもかわいそうで…>、11曲目の「208」の<泣きたいのはこっちの方さ>。これらのフレーズから感じ取れる、言ってしまえば”女々しさ”が、旧来的な男性性に対するロック的なスタンスとして効いている。男としての強さをアピールするのではなく、自分がいかに弱い存在なのかを歌い、そこにリッチなエレクトロ・サウンドや叙情的なピアノを響かせることで、最終的にはドラマチックな出来栄えまで持ってゆくのが彼らが今作で確立したポップスの形だ。7曲目の「PERFECT LOSER」はその象徴のような楽曲で、ボーカルの竹縄航太が描くのは「主人公が好きだった相手に恋人がいたことを知り、相手にとって自分は単なる友達であることを悟ったあと、自分自身の心の痛みの責任を自己中心的にその相手に転嫁する」という、あまりにもエゴイスティックなーーけれども男である筆者は決して理解できない感覚ではないーー人物像であるが、それをなんの躊躇もなくアウトプットできる”素直さ”が大きな魅力の一つなのだろう。そしてその詞に対して、リバーブをふんだんにかけたピアノやギターのサウンドが感傷性を増幅させ、ボーカルの多重録音は主人公の自我を強調する。序盤は淡々と進むだけだったキックの四つ打ちは、ピアノバラードを迂回し終盤になると、タムを織り交ぜた力強いリズムへと育つように変化する。文字だけ読めば絶望的で自暴自棄な詞世界も、こういったサウンドによる味付けによって壮大なヒューマンドラマへと変貌できるのだ。

 さて、以上のことから『Mr. HOLIC』の音楽性のポイントは次の2点と言えるだろう。統一性をあえて剝ぎ取ることでロックバンドの域から抜け出したサウンド、そして竹縄が描き出す繊細な男心を切り取った歌詞。この2つの組み合わせによって『Mr. HOLIC』は単なるロックとも、J-POPとも、アイドルソングとも言い表せない新鮮な魅力を放っている。(荻原 梓)