世界7カ国「コーヒー豆の銘柄」味の違い

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<教える人>
山下雅彦●創業90年となる老舗コーヒー卸「山下コーヒー」代表取締役。渋谷の「茶亭 羽當」など数々の名店からの信頼も厚い。
小野塚裕之●豆を輸入し、焙煎、販売、喫茶から開業コンサルティングまで行なうスペシャルティコーヒー専門店「堀口珈琲」執行役員。

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■豆の銘柄の違いは?

いい豆をつくる生産地の条件とは? この謎が解ければ、また一つおいしいコーヒーに近づけるはずだ。今回の識者2人に「いい豆の生育に適した条件」を聞くと、異口同音に「赤道直下」「高い標高」というキーワードが返ってきた。

山下さん曰く「赤道を挟む北緯25度と南緯25度の間はコーヒーを生育する最適エリア。『コーヒーベルト』と呼ばれていて、主要な生産国はすべてここに位置します」。

良質な豆の産地として評価が高いのは、標高の高い山が連なる東アフリカのエチオピアやケニア、南米のコロンビアといった国々。小野塚さんは「標高が高いと、果実がゆっくり熟すので、大粒で味のしっかりした豆になりやすいんです」と言う。

世界には粒揃いの豆がある。

(1)モカ ……果実感

ひとくくりに「モカ」と呼ばれるが、「コーヒー原産の地」 エチオピア産はフルーティー、「モカ」の語源となった港町があるイエメン産はスパイシーと、味わいの特徴は異なる。名曲『コーヒールンバ』で有名な「モカ・マタリ」はイエメン産のモカのこと。一般的には、酸味に言及されることが多いが、たとえばエチオピア産なら、熟したベリーのような香りもまたモカの真骨頂。たとえるなら“年齢を重ね、妖艶さに磨きをかけた名家の貴婦人”のよう。

(2)キリマンジャロ ……力強さ

最近では産地国名の「タンザニア」とも呼ばれるが、「キリマンジャロ」というとおいしそうに聴こえる不思議。

国土はほぼ赤道直下で、アフリカ大陸の中でも標高の高い山々が連なる。豆自体は酸味が強いので、深煎りにして重厚感やコクを押し出すと、力強いバランスに。味は、“チョー姿勢のいい筋骨隆々アスリート”のような佇まい。ちなみに、本物のキリマンジャロ(山)は豆の生育には標高が高く、キリマンジャロ(豆)は麓で育てられる。

(3)コロンビア ……多彩な味

「赤道直下」×「山岳地帯」という生育に最適な条件を満たすコーヒー天国で育つ豆。

土地ごとに多彩な味わいがあり、「コロンビアマイルド」というやさしく深い味わいで評判に。他の南米ではおおらかになりがちな「ビジネス」「約束」への意識が高く、「中南米で唯一、コロンビア人となら外で待ち合わせてもいいかな、と思う(笑)」(山下さん)。つまり、他のコーヒー生産国はたいへんおおらかな国々というちょっといい話で、コーヒーブレイク。

(4)ブラジル ……中庸

衛星写真やGoogle Earthでブラジリアの東側周辺を見ると、直径キロ単位の巨大なミステリーサークルの数々が! 実はこれ、コーヒー農園。1990年代に自動灌漑システムを利用した生産体制の転換に成功した証だ。

かつては、圧倒的な出荷量ゆえに、豆の味わいは「平準化された中庸」との評価が多かったが、最近は生産者の努力で全体的にレベルが向上し、特徴ある豆も出始めたとの噂。南米の大巨人が、最近テクにも磨きをかけている。

(5)ブルーマウンテン ……バランス

ジャマイカのブルーマウンテン地区で穫れる、誰もが知る超ブランドコーヒー。

昭和初期に輸入されたときの「英國王室御用達」という触れ込みが効いたか、今も「9割以上が日本向け」(山下さん)というほど、日本人の寵愛を受けている。華やかで多少の甘味もあり、浅煎りにするとバランスがいい。

だが近年、ハリケーンや病虫害で収量減の憂き目に。それでも「御用達」という制服の魅力に、店では今日も「ブルマン」と注文の声が響く。

(6)マンデリン ……独特

インドネシア、スマトラ島北部で栽培される、熱烈なファンを持つ豆。世界に類を見ない「スマトラ式精選処理」は豆の水分量が多い状態で脱穀を行なう特殊な方式で、独特の深い緑色の生豆が生まれるのだとか。

濃厚なフルボディの味わいで、カカオ分の多いチョコレートともがっぷり四つに組み合える。独特の大地の香りがマニア心をくすぐりまくり。一度足を踏み入れたら、他の豆では満足できないマンデリン沼へようこそ!

(7)ハワイコナ ……酸味

唯一先進国でつくられているコーヒー豆。もともとは、フローラルな味わいと謎めいた香りが評判を呼び、大人気に。「他とは全く異なる風味なので、コーヒー嫌いな人に薦めるとしたらこれ」(山下さん)というほど特徴的。生豆は大粒で美しく青みが深い。

数年前、旅行者が持ち込んだと言われる(文字通りの)悪い虫がついてから品質のブレが大きくなり、その美貌の希少性は高まるばかり。好事家の「ないものねだり」に人間の業の深さを見る。

(ライター/編集者/「食べる」「つくる」「ひもとく」フードアクティビスト 松浦 達也 文・松浦達也 教える人:「山下コーヒー」代表取締役 山下雅彦、「堀口珈琲」執行役員 小野塚裕之)